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「超情報化社会」の広告宣伝とは?

column vol.280

これからの広告のあり方について考えさせられたCMがありましたので、まずはコチラをご覧ください。

〈GENESIS BRAND NGHT / YouTube〉

コチラは韓国の自動車大手「ヒョンデ(旧称:ヒュンダイ)」の高級車ブランド「ジェネシス」中国進出のために作成されたCM。このムービーには一切、車の美しいドライブ性能について語られていません

この制作の意図は何だったのでしょうか?

広告クリエイターが果たすべき役割

SFの世界と見紛うほどの近未来感で圧倒されるこの動画は、3000台ものドローンを駆使して生み出されたリアルなもので、CGは使われていないということ。

同社は「私たちは敢えて違うことをする」という主張をもってこのCMを生み出しました。

〈TABI LABO / 2021年4月18日〉

私がこのCMに注目したのが、広告主と広告クリエイターの中で、とても良い協働の中で議論し、「何を」「どう」伝えるべきかを2社で掘り下げられていると感じたのです。

だからこそ、ステレオタイプな車の広告にならなかったのだと思います。

今、SNSなどさまざまなコミュニケーションチャネルが増えている中、企業は自ら発信できる時代になりました。

実際、製品価値は、その会社が一番理解しているので、Instagramでも最近はフィードだけではなく、ライブストーリーズを駆使して商品を自社内でPRできている企業も多く目にします。

また、インフルエンサーと組んで企業案件として宣伝してもらえば波及効果が高いので、より自社内で完結できてしまいます。

そういった中、ますます広告クリエイターには、外の目視線で生活者と企業を繋ぐというキューピットの役割を明確化しないといけません。

企業が客観性を持ちきれない隙間は、「希望的観測」という人間の性にあると思います。「ウチの企業はこう思われているはずだ」というポジティブな期待です。

一方で広告クリエイターは、企業と生活者の間に認識にギャップがあると感じていても、なかなかクライアントと協力会社という関係性の中で修正し切れないことが多々あります。

本当の課題を見つけるために

当社では40年間、生活者研究を行い時流を掴み、それをもとに顧客リサーチを繰り返してきて現在までさまざまな企業から信頼を獲得してきました。

とはいえ、全ての企業が顧客リサーチを求めるわけではありませんし、先方の希望的観測が強い場合は、なかなか顧客とのギャップを受け入れていただくことができません。

しかし、私は思います。

第三者視点だからこそ、本当の課題が見つかる。

そして、第三者視点のプロフェッショナルマーケッター広告クリエイターであるという考えを、クライアント企業に定着させる必要があります。

ただし、人間関係の中で「相談される人」と「相談されない人」がいるように、クライアントから一緒に本当の課題を見つけるためのパートナーとして選ばれる努力は必要だと思います。

表現のプロフェッョナルということを超えて、第三者視点のプロフェッショナルであるという認識を促し、その上でどこまでキューピット役としてクライアント企業に寄り添えるか、その意思と覚悟を示さなければなりません。

そうでなければ、ギャップを埋め切れていない広告が世に蔓延し、広告コミュニケーションがどんどん機能しなくなるでしょう。

ターゲティング広告が禁止に?

今、ユーザーの登録情報過去に閲覧したウェブページなどの情報に基づいて、最適な広告を表示すると謳うターゲティング広告が禁止されようとしています。

〈WIRED / 2021年3月25日〉

これはプライバシーの問題ということが大きな争点で、さらには大手テック企業への規制であるとも言われています。

生活者目線で言うと、ビッグデータを活用したターゲッティング広告は、ほぼ過去のニーズであり、表示される広告に今のニーズは反映されていません

最近はムービーング系の広告も増えているので、生活者視点からすると、とても記事が読み難いものになっているページもあります。

これは私見ですが、プライバシーの侵害というよりも生活者不在の中で広告が発信され、テック企業と広告主のビジネスに巻き込まれている感があることが一種の不快感に繋がってしまっているのではないかと感じます。

テック企業の利益→広告主の利益→生活者へのアプローチ

という線状ではなく生活者の利益も含めたサークル上での構想を描くことができるかどうかが、この論争の最終的な解決策に導くのではないかと思います。

「情報社会」を生きるための保育園

インタラクティブなメディアアートをヒットさせる「チームラボ」が、保育園をプロデュース。千葉県流山市に「キッズラボ南流山園」が開設されました。

〈Pen / 2021年4月13日〉

さぞ、デジタルコミュニケーションを駆使した保育園なのかと思いきや、デジタル・サイネージも音と映像によるアクティビティも一切無いそうです。

1つ大きなポイントが、施設を「多角形」にしているということです。

サークル、スクエアなど、整然とした空間ではなく、いびつをあえて作り出す。ここで、子どもたちに身につけて欲しいのが「身体性」です。

身体性とは、つまり空間認識能力のこと。多角形によって行動に多様性が生まれ、さまざまな人と空間の機微をリアルの中で把握できるようにするというわけです。

そして、これこそが「情報社会を生きる力になる」と同社は考えています。

そう考えると先ほどの広告についての事例も理解しやすくなります。情報というリアルコミュニケーションでないものだからこそ、リアルに置き換えることが重要になります。

例えば、先ほどのターゲッティング広告を訪問販売に置き換えた場合、もし、1週間前にゴルフクラブを買った情報を手に入れたとしたら、その人に対して「1週間前にゴルフクラブ買ったから、さぞ新しいゴルフクラブが欲しいでしょう。今回はそんなお客さまのためにオススメ商品をご用意しました」などと、欲しいことを前提にセールスできるかどうかですよね。

私は1週間前にゴルフセットを買った人に、新しいゴルフセットを売れる気がしません。

もちろん、WEB広告は今後AIの進化によってより的中率の高い広告が可能だと思います。とはいえ、いつの時代も広告は煩わしいと思われがちのものです。

テクノロジーだけではなく身体性(見えない顧客の心の位置を把握する想像力)が無ければ、顧客の心は離れていってしまうでしょう。

マーケッター、広告クリエイターは、ますます人を思う想像力が求められる時代になっていくと感じます。自らもふんどしを締め直して日々のプロジェクトに励みたいと思います。

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