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賃金上昇は「人的投資」がカギ

column vol.774

働く人1人当たりの今年7月の現金給与総額は、去年の同じ月を1.8%上回り7ヵ月連続でプラスとなりましたが、物価の上昇分には追いつかず、実質賃金は4ヵ月連続でマイナスとなりました。

〈NHK / 2022年9月6日〉

実感としては物価上昇の影響で、収入が減っていなくても減った感じになっている今日この頃…(汗)

そんな中、学習院大学教授の滝澤美帆先生の【日本で「給料」が上がらないのは、企業が「社員教育」を大事にしないからかもしれない】という記事が大変興味深かったので共有させていただきます。

〈現代ビジネス / 2022年9月3日〉

労働生産性の低い日本

今年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」が閣議決定され、重点投資分野の第一番目に「⼈への投資と分配」が掲げられました。

これにより、2024年度までの3年間で4000億円規模の施策パッケージに基づく取り組みが予定されています。

それだけ日本の生産性成長率の低迷が問題になっているというわけです…(汗)

ちなみに、労働生産性とは労働者1人当たりまたは1時間当たりに生産できる成果を数値化したもの。

つまり、1人の労働者につきどれくらいの利益が得られたのかということです。

OCEDが公表している日米の労働生産性比較をご覧ください。

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OECD.Stat

アメリカに大きく水を開けられています

当然ながら、労働生産性は賃金に直結します。

そこで、労働生産性を向上させるため、骨太方針にもある通り、「人への投資を強化」しようとしているのです。

人への投資が労働生産性を上げる

なぜなら、労働者がさまざまな教育訓練を受けることにより、新しい知識が蓄積したり、技術(スキル)が向上したり、効率的な働き方ができるようになるからです。

また、新たな発想が生み出されるようにもなり、結果として、高付加価値のモノやサービスを提供できることに繋がります。

実際、過去の研究では、物的な投資よりも人への投資の方が、相対的なリターンが高いといった報告があるとのこと。

さらに、従業員が教育訓練を受けることで仕事へのエンゲージメントが高まり、より良い仕事のやり方を頻繁に取り入れようとしたり、より効果的に仕事ができるよう、自分の仕事のやり方を変更したりするといった積極的な行動が生まれ、生産性が向上することを報告した研究も存在するそうです。

ただ…、先述の通り…、日本は人材資本投資の水準が圧倒的に低い…。

アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアといった主要5ヵ国に比べると一目瞭然なのです…。

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JIP2021データベース, EUKLEMS & INTANProd - Release 2021

さらに、滝澤先生と同じ学習院大学の宮川努先生が行った調査によると、コロナ禍でOJT(職場での人材教育)、Off-JT(職場を離れての人材教育)の実施時間が減少していることが判明。

なかなか厳しい事態となっているのです…。

人的投資への理解がカギとなる

そして、滝澤先生の記事の中で最も興味深かったのが、「デジタル化」と「人への投資」に関するお話です。

先程の主要国のGDPに対するソフトウェア・データベース投資額R&D(研究開発)投資額人への投資額の比率といった無形資産投資額の比率が示されているのがこちらの表です。

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人への投資は他国に比べて低いのに、何とソフトウェア・データベース投資額のGDPに対する比率は、他の5ヵ国に比べて遜色ないのです。

つまり、投資への意識が低いのではなく、「人への投資」への理解がまだ進んでいないことが分かります。

滝澤先生が参加した『ICTと人材に関するアンケート調査』でも、54%の企業が、ICT活用とともに従業員の社内研修を充実させていると回答しているものの、年間平均研修時間で見ると厳しい現実が待っています…。

実は…、10時間未満にとどまる企業が75%に上り、30時間以上の研修を行っている企業はわずか4%程度だったのです……。

月に1時間未満の研修では、ICTを業務の効率化に活用することはおろか、付加価値の向上に結び付くような革新的な活動に活用することは難しく、生産性の飛躍的向上を期待することも叶わないでしょう…。

つまり、せっかくICTを導入しても、これでは「ICTの持ち腐れ」になってしまいますね…(汗)

「せっかく育てても転職しちゃう」はご法度

人への投資が増えない理由の1つに、労働市場の流動化が影響している可能性もあります。

副業や兼業、転職などが当たり前の時代。

「せっかくお金と時間をかけて育てても、辞められちゃうと無駄になっちゃう」と考える経営者もいらっしゃるとは思います。

しかし、それでも人へ投資することで得られるメリットは大きいのです。

まず、リクルートの面で優秀な人が会社に集まりやすくなります

学情が2023年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象に、就職活動に関するインターネットアンケートを実施したところ、「自分自身が成長できそうか」を重視する学生が9割に迫っています。

「重視する」51.9%、「どちらかと言えば重視する」34.6%

それに、そもそも副業、転職への意識が高まるのも、会社が終身雇用を約束できなくなっているからです。

会社に頼ることができないから、自律したキャリアデザインを行っているわけですので、逆に「いつまでも成長できる実感」があれば、ロイヤリティが上がるとともに離職率も抑えられるのではないでしょうか。

結局、どの業界も仕事とは「人こそ全て」一番大切にしないといけない資本です。

一方、会社側だけが意識を高めても、成長するのは従業員自身ですので、本人の向上心が実は何よりも大切です。

会社側の人的投資だけを期待せずに、自らも自分に投資する。

そうすれば、きっと労働生産性は今よりも高まっていくでしょう。

ちなみに、慶應義塾大学 SFC研究所上席所員、キャリア論の第一人者である高橋俊介さんのVUCA時代のリスキリング論がとても参考になりますので、併せてこちらの記事もご覧いただけると幸いです。

〈東洋経済オンライン / 2022年9月1日〉

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。



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