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さみしい夜にはペンを持て

本作品の主人公は、中学生のタコ君(タコジロー)である。
 
舞台は広大な海。

学校でいじめに近い扱いを受けており、
1日だけ学校をサボって、公園に逃げ込む。

そこで、ヤドカリおじさんと出会い、日記を通して、
「書くこと」と「自身との対話」を覚えていく。
そうして、彼の世界への見方が少しずつ変わっていく物語。

日記を書くことを僕は辞めた。言葉に縛られたくないから。

何の因果かは不明だが、僕は手にとってしまったのだ、この本を。
 
約3,000文字。長い。気になった目次だけでも読んで頂けると嬉しいです。


出会い


直感と本屋の相性は抜群である。ビビッと来て、手に取るまでの間が好き。
 
何となく良さげなカバーが目に入る。
ゆっくり手に取ると、帯の言葉が訴えかけてくる。
 
山口周さんは仰った。
 
「自分の言葉を持つ」ことで人ははじめて呪いから自由になる。
 
気持ちは分かるが、そうはいかんぞ。と意地悪な僕が呟く。
 
ブツブツと言いながら、しっかり乗り気にさせられて、
気づいたら「これ、下さい。」とレジの前にいた。
 
口出しをしたくなったら、もうファンだ。

仮面ライダーのような本


子供と親が同じものにハマってしまうことはある。
 
例えば、我が家は仮面ライダー響鬼。
 
僕は、仮面ライダーが好きで毎年欠かさずチェックしていた。
主人公 響鬼の役者は細川茂樹というベテラン俳優。
 
キャストが親世代を魅了する。それだけではない。
 
燻銀の俳優から繰り出される名言の数々。
 
仮面ライダーに囚われない深みのある作品で
母親は知らない間にフィギュアを買っていた。
 
この本は近い。
 
導入は中学生でも読めるように絵本のような文章と描写に優しさを感じる。
 
ただ、読めば読むほど、大人になった僕は引き込まれていく。
自身と重ね合わせたり、自身の学びに繋げたり。
 
優しい言葉で絵本のような物語であるが、自身を投影してしまうのだ。
 
中学生と読書感想文の交換をしたいと思ってしまう本は他にあるか?

言葉に出来ない人達へ


作者は「書くこと」で救われてきた人生だと語った。
 
僕自身は、幼少期は本に救われてきた。ただ、日記は書いていた。
 
僕は日記や部活ノートを書くことで、プライベートも含め、解決策を整理することで、一時的な安心を抱き締めるような子だった。

当時の日記は面白くない。
 
何故なら、一才、自分自身に共感しておらず、
皆と同じになるには?をテーマに日記を書いているようなものだから。
 
これだけ言ってしまったが、僕はこの本を読み進めることで、
一時的な安心を抱き締めることがスタートじゃないかと思った。
 
親や同年代にすら、言えない言葉。ましてや、言える対象がいない子供。
残念ながら、そういった子供達は一定多数入るのだろう。大人も同様だ。
 
まずは、本音を映し出せるノートとペンを抱えていれば良い。
 
書くだけで、少しは安心できるから。
 
いつか未来の自分が笑って、見返しているから。
 
30歳近い成年男性がページをめくっている。見返した大量の日記はどれも狂っていて、けれど懐かしくて、ニヤニヤしながら。

エッセイを書く人達へ


ど素人ながら、最近エッセイを書く。

日記と離れるが、エッセイを書く人にも刺さる言葉が多いかもしれない。

正直、人間関係は何とか構築出来ても、
周囲に本当の自分の気持ちを伝えることが僕は苦手だ。
だから、僕の身体に長年隠れていた思いをエッセイとして吐き出している。

本の中に好きな章がある。
 
「自分の気持ちをスケッチすると」だ。
 
タコ君は当初は日記を書けなかった。
自分の「今の気持ち」を書こうとしたらしい。

ヤドカリおじさんは、タコ君が「自分の気持ち」をスケッチするように書くことを薦めた。それも「あの時の気持ち」を。

あの時どう思ったかを深く見つめ続け、そのまま描き続ける。
今の気持ちは、毎秒変わる。あの時の気持ちは、変わらない。

僕は「今の気持ち」と「あの時の気持ち」をかき混ぜて、文章を作っているようで、「あの時の気持ち」とやらをもっと深く洞察し、具体的にしてエッセイを書くのも楽しそうだなと思った。長年自身に隠された言葉を探索だ。
 
また、「世の中をスローモーションに捉える」も気に入っている。
 
僕も出来るだけ当時の状況を具体的に書こうと意識しているが、アイスを食べる文章を書くときに、冷凍庫まで向かう自身までは意識が出来ていない。
 
徐々に書くことの楽しさを覚えた、タコ君。

彼の日記はまるで物語に近づいていき、
日々の細かい心情の変化や会話が詳細に描かれている。
 
書くことが人生の前提となっている気がするのだ。
 
そうすると、人の話をきちんと聞いていたいと思う。
綺麗なものに、目を光らせていきたくなる。
 
このタコ君の変化は自分の感受性を保つために凄く参考になる描写だった。

どうしたら、日記から愚痴や悪口が消えるのか?


僕は、言葉には天使と悪魔が潜んでいる、と思っている。
時に自身を癒し、時に傷つける。

けれど、悪魔は過去に置いて仕舞えば良い。
 
例えば、「僕は馬鹿だ。」と書いたとする。これは「今の気分。」 
これを、「僕は馬鹿だ。と思った。」と過去形にしてみる。
 
過去形が、ネガティブな言葉と自分に少しだけ間を作ってくれる。
 
感情を客観的に見つめ、自身を傷つけず、
ただ「あの時の気持ち」を保存する、有効な方法であると思った。

本はどのように企画されるのだろう


本はどのように企画されるのだろう。とふと思った。
 
この本は、大人とティーンエイジャー向けの間みたいだ。
 
昔、KADOKAWAの編集者さんのYoutubeを見たことがあって、
本が企画されるまでのノウハウが紹介されていた。
 
自分の専門性をセミナーなどを通して、100回以上フィードバックを貰い、自身の型を固めてもらう。その型を編集者と共に文章に起こしていくと。
 
作者さんはライターで、書くことのプロ中のプロ。
勿論、ご自身の型があるのだと思う。
 
今回の作品を鑑みると、その型の設定を変えることで、
受け手のターゲットと没入率みたいなものが変わっていくのかなと思った。
 
ただのハウツー本であれば、僕の没入率はこうも上がらないと思う。
物語の設定がなければ、中学生は手に取らないだろう。

本書は、ターゲット層が広く、さらに老若男女の没入率も高い本だと思う。
 
週刊少年ジャンプの林士平さんはインタビューでヒットの理由は分からないが、御作法は考えるようにしていると言った。
 
何が“お決まり”で、どこまでいったら新しいのか
 
既に作者さんはヒットメイカーなので、型はあると思う。
 
これをお決まりとしたうえで、受け入れられる新しさと和えたのが本書だ。
 
どんな型(自身のテーマ)を作り、どのように設定するか。
本作りに大事な要素なのかなと思った。

終わりに


最後の筆者紹介の後に続きのページがある。
 
出会った瞬間、バチンと本を閉めた。やられました。と言った。
 
飼い猫のように、本書が愛おしくなって、
紙の匂いを嗅いだ。忘れないように。
 
子供から大人、誰が読んでも楽しめる本。
 
最後に日記を書く上でのアドバイスを本書はくれた。
 
自分で日記を書くときの第一人称を仮名にする。
 
ニャンコでも何でもいい。自身の日記が物語になっていく。

日記を書くことは、もう1人の自分を作り出すこと。

また、いつか自分を好きになること。だ。
 
これなら、僕もまたペンを持てそうな気がしてきた。

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