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【子ども時代のちーちゃん⑦】差別されることを恐れ、差別をしていた高1の私

このnoteでは、LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。(自己紹介はこちら)
幼少期から思春期を経て、自立の時を迎える中で次第に大きくなっていく心と体の性の違和感。前回に引き続き、女性に対する恋心への戸惑いについて振り返っていきます。
*これまでのストーリーはこちらからお読みいただけます。

女子高校に入学した私は、女子しかいない世界を初めて経験することになりました。

1年生では、クラスは、似たようなノリの子たちが集まっていくつかのグループに分かれていました。私が属していたのは、やんちゃな子たちが集まったグループです。このグループの中でうまくやっていくことが、高校生活を過ごす上で最も重要なテーマでした。

グループの中で私は「いじられ役」でした。それは、グループの子たちが、「ちーは、みんなとはちょっと違う」と、異質な何かを感じ取っていたからだと思います。

女子高生は恋愛の話が大好きです。いつも「誰が好き?」「どんな人がタイプ?」とおしゃべりをしていました。そして、性に関する話題は、異性愛だけにとどまらず、「うちのクラスで、だれがレズだと思う?」「あの子、レズなんじゃないの?」と展開していくことがよくありました。そして「ちーって、レズなんでしょ!」とよく言われました。もちろん「レズって気持ち悪い」という前提です。

私は、自分の恋愛対象は同性である女性だと中学生の頃から自覚していました。ただ、同性である女性を好きになっているのか、そうではなく、実は心は女性ではなく男性である自分が異性として女性を好きになっているのか、自分でもわかっていませんでした。

しかし、女性として女子校に通っている私が、女子を好きになっているということは絶対にばれてはいけないことでした。だから、「どんな人が好き?」と聞かれたら「背が高くてスポーツしている人」と答えていましたし、男子校との合コンにも必ず参加していました。

ただ、それでも、グループの子たちは、「ちーは、私たちとは違う」と感じとっていたのだと思います。

「ちーは、レズなんでしょ!」と言われるたびに、「違うよー!」と否定しながら、「この子たちわかっているんだな」「女の勘ってすごいなあ」と感心していました。しかし、私が女子を好きになっていることは絶対にばれてはいけないことです。そこで私は、自分が標的にならないために、「私はレズじゃないよ。でも、きっとあの子はレズだと思うよ」と、ほかの人がターゲットになるように仕向けたのです。

「ちーは、レズじゃない! でもあの子はレズだよ。気持ち悪いよね!」と、ターゲットにした子を身代わりのようにいじりました。自分が差別されないために、ほかの人が差別されるようにする。差別の対象になった私が、新たな差別を生んでいたわけです。

私に対するいじりも、言葉でのいじりからだんだんとエスカレートしていきました。私がトイレの個室に入っていると、上から水をかけられることもありました。トイレから出るとグループの仲間は笑っていて、私も「もおー、やめてよー!」と笑います。内心はイヤだったけど、笑っていました。そして、私は、ターゲットにした子を「レズでしょ!」とからかいました。泣かせたこともありました。

いじられるのも、いじるのも、イヤでした。当時はいじめだとは思っていませんでしたが、今考えると、明らかないじめでした。いじりなのか、いじめなのか、やっている側が決めることではなく、やられている当人が決めることです。そして、いじられていた私は「これ以上言ってほしくない、やってほしくない」と思っていました。だから、私がやられていたことはいじめでした。そして、私がやっていたこともいじめでした。

「レズだ!」といじられ、いじり、私もみんなもそれを笑う。そんな日々にだんだん私は疲れて、学校に行くのがつらくなってきました。学校にいたくないから、午前中はサボることが増えてきました。

2年生になってクラスが変わり、それに合わせてグループも変わりました。私はお互いに干渉しないタイプの子たちと一緒にいるようになりました。それでも、みんなと違って見られないようにしよう、できるだけみんなと同じように髪を伸ばしたり、メイクをしたりして目立たないようにしようと思いました。

ほかの人と違うことは、いじめの理由になりやすいです。今、私は、トランスジェンダーの当事者として、人と違っていても自分に誇りをもって生きていきたいと考え、その思いを講演会などでも語っています。「レズビアンやホモセクシャルは気持ち悪い」とだれかが言ったら、「え? 別に気持ち悪くないでしょ。そんなことより、あの人、とってもいい人だよ」と差別や偏見の芽を摘むことができます。

しかし、高校1年の私は、自分が差別されることを恐れて、私が人を差別していました。今思い返しても、つらい日々でした。後悔の気持ちは今もまだいっぱいのままです。

※【レズ】【ホモ】といった言葉は、嘲笑の対象として、差別的な文脈で使われてきました。そのため、現在は、【レズビアン】【ホモセクシャル】という言葉が使われています。しかし今回は、子どもの頃の日常的なやりとりの様子がそのまま伝わるように、あえて【レズ】という言葉を使いました。

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