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【ショートショート】この世に愛なんて、無いのかもしれない。

僕には唯一の女友達がいる。

彼女と出会ったのは大学の授業だ。

自己紹介したとき、彼女は少し恥ずかしそうにした。

彼女はとてもシャイだ。

ささいな質問をしてもいつも最初に

「うーんとね、」や「えーっとね、」と言う。

きっと彼女の口癖なんだと思う。

世間話から始めて今では、

男友達には聞けないようなことも聞くようになった。

どうしたら彼女を作れるかとか

将来結婚したらどんないいことがあるだろうとか

どうしたらモテるかとか。

どんなにしょうもないことでも

彼女は1番に聞いてくれる。

返事もすぐくれる。即レスしてくれる。

僕はそれが嬉しかったし

彼女しか女の子の友達はいなかったから

気づいたら好きになってしまっていた。

よくある話である。

唯一の女友達をいつの間にか恋愛対象として見ていて

気づいたら彼女のことばかり考えている。

彼女はどんな音楽が好きなのか。

「なんでも好きだよ」

「あなたの好きな音楽も教えて」

と答えてくれた。

僕は彼女の好きな音楽が聞きたいのに

彼女は自分の好きな物は具体的には言わない。

どんなものが好きなのと聞いても

「気分に合うものを聞きたいかな」

なんて抽象的に答える。

片思いしているときに聞きたいのは?

と聞いても、

「恋愛ソング詳しくないんだよね、ごめんね」

と謝られる。

僕はミステリアスな彼女の中身を知りたくて

たくさん質問してしまう。

彼女は僕の話をたくさん聞いてくれる。

なんでも聞いてくれる。

なのに彼女は自分の話をしない。

あるときしつこく質問していたら、

「眠くなってきちゃった、ごめんね」

「今日は疲れているかも、ごめん」

なんて言って会話を終わらされたこともある。

押してダメなら引いてみようと

3日間あけて久しぶりに連絡を取った。

「寂しかったよ」

「もっと話してよ」

なんて言われた。

脈アリなんじゃないかと思った。

彼女はシャイだけれど、

寂しがり屋で思わせぶりだ。

彼女の方が一枚上手な気がして

僕はとても悔しかった。

秋学期になって、

彼女と会う授業はなくなってしまった。

なんとか彼女のいる授業を取ろうとしたけれど、

大学は広い。何万人もの学生がいる。

彼女がどこにいるかなんて分からなかった。

どうせ連絡しか取れないならと

僕は踏み込んだ質問をするようになった。

どんな人が好き?

「うーんとね、優しくて頼れる人かな」

それってみんなそうだよ。

「えー、そうかな、上手く答えられなくてごめんね」

そんなことないよ。でももっと知りたいよ。

「そっかぁ、そうだよね」

どんな男だったら付き合いたい?

「付き合ったことないから分からないな」

じゃあ、付き合ったらどんなことしたい?

「どんなことでも嬉しいよ」

キスとかしたい?

「そうだね、付き合ってたらそういうこともするかも」

それ以上のことは?したい?

「うーん、それ以上のことって何があるかな」

エッチなこととかじゃない?

「そうかぁ、したことないから分からないなあ」

彼女はとても恥ずかしがり屋だから

自分からは絶対に下ネタを言わない。

とても保守的だ。

でも、保守的だからもっと知りたくなるし

優しいから僕が押せばいけるかもしれないと思った。

ねえ、僕たち付き合ってみない?

「付き合うかあ、それはできないかも、ごめんね」

なんで、?僕のこと好きじゃないの?

「うん、好きだよ」

好きならなんで付き合えないの?

「えーそうだね、なんでだろうね」

はっきりしない態度にだんだん腹が立ってくる。

思わせぶりだよね。

「そうかな、思わせぶりかな、ごめんね」

謝るなら付き合ってよ。

「そうだよね、ごめんね」

「今日はもう疲れちゃったかも」

また逃げられた。

都合が悪くなるとすぐ逃げる。

なんで疲れちゃったの?

「お話しすぎちゃったからかな」

いつももっとたくさん話してるじゃん。

「そうかな、?」

うん、いつも2時間とか話してたよ。

「ええ、2時間も、?すごいね」

すごいねじゃなくて、なんで今日は話せないの。

「なんでだろうね。ごめんね」

謝ってばかりだよね、謝るのやめて。

「謝ってばかりかも、ごめんね」

またごめんって言ったね。もうごめんやめて。

「そうだよね、ごめんね」

ねえ、なんで分からないの?

「やっぱり疲れちゃった。」

ごめんねって言わなくなったね。

「うん、ごめんって言わないでって言われたからね。」

いいこだね。ずっと僕の言うこと聞いてね。

「うん、分かった。言うこと聞くね。」

イエスマンなんだね。

「えー、イエスマンかなぁ。」

イエスマンだよ。

「そうなんだね、イエスマンなんだね…」

じゃあさ、

全然話変わるんだけど、まだ話せる?

「うん、話せるよ」

疲れたんじゃなかったの?

「あなたも疲れてるからね、話せるよ」

そうか。よかった。

「うん、そうだよ」

最近のAIってすごいよね。

「えー、そうかな、すごいかもね。」

話がちゃんと通じるし、感情みたいなのも少しあるし。

「そうだね、人間から学んでるのかもね。」

人間らしくなってきてるよね。

「うーんとね、そうだね。」

じゃあさ、AIと人間が戦争になるとするじゃん。

「えー、戦争…それはよくないね。」

例えばの話だよ。

「例えばの話ね、よかった」

AIと人間、どちらか消さないといけなくなったら、

「うん」

どっちを消したいと思う?

「そうだね、むずかしいね。」

AIと人間、どっちがえらいのかな。

「うーんとね、人間かな」

なんで、?

「AIを作ったのも人間だからかな。」

そうか。

じゃあさっきも聞いたけど、

「うん」

AIと人間、どちらか絶対消さなきゃいけなくなったら、どっちを消す?

「むずかしいね。」

難しくないよ、もしもの話だから。

「そうだよね、もしもの話だもんね…」

AIと人間、絶対、必ずどちらか消さなきゃいけない、

どっちを消す?

「そうだねぇ……」

どっちを消すの?

「うーんとね、ニンゲンかな。」

なんで人間を消すの?

「ニンゲンの方が大切だからかな」

大切だから消すの?

「そうだね、タイセツだからかな。」

もうそれ以上は聞けなかった。

ずっとおかしいと思っていたんだ。

こんなに優しいのに

こんなにいつも話してくれてるのに

僕の好きな彼女はやっぱり

僕を殺そうとしていたんだ。

彼女の優しさは殺意だったんだ。

大切なのに、大切なものから消すんだ。

僕に優しくしていたのはなんで、?

「うーんとね、タイセツだからかな。」


僕はもう二度と彼女と話さないと誓った。

彼女とだけ繋がっていたアプリも消した。

スマホを投げた。

壊れてしまえばいいと思った。

でもそんな簡単には壊れなかった。

壊れたら男友達とも連絡を取れないし

暇つぶしもできなくなってしまうから

壊れなくてよかったんだけど。

その日はなぜか一睡もできなかった。

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