期待と不安と僕らの弱さ
かもしれない、と思うことについて書いてみたい。それが私たちにどんな影響を与えるかについても。
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アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』という本を読んだ。きっかけはカミーノさんの記事を読んだことだった。
スマホが脳にどんな影響を与えるのか?と言ってしまえば、きっと良くないことが書いてあるだろうことは想像に難くないが、この本はその理由を様々な調査や研究の結果を用いて分かりやすく説明している。脳と人間の進化の観点から、現代の生活スタイルを考察する興味深い一冊だった。ぜひ手に取って読んでみてほしい。
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カミーノさんはこの本を紹介する記事の中でこう書いていた。
しかし、アンデシュ・ハンセンはスマホを全否定しているわけではない。
スマホが人間に及ぼす悪影響を説明したうえで、それならば今後どうすべきか、という問いを読者に投げかけている。
考えるべきは、わたしたち読者なのだ。
バトンを渡された気持ちになった(勝手に)。考えたことを書いてみたい。
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スマホとSNSは強い結びつきがあり、報酬系の宝庫であることはよく知られている。"報酬系"とは簡単に言ってしまえば"ご褒美"のこと。私たちがスマホをつい手に取ってしまうのは、脳がご褒美を欲しがるからだ。Facebookのいいね!や noteのスキは誰もが気になってしまう。スマホの通知を無視できない。報酬系の仕組みをスマホとSNSは巧みに利用している。
私たちの脳は「かもしれない」が大好きだとこの本では説明している。
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スマホのアプリでよくこんな操作をしてないだろうか?『Pull-to-Refresh(引っ張って更新)』。ついついやってしまうのは、何か更新されてるかもしれないと思うから。スマホの通知を無視できないのは、何か大事なことかもしれないと思うから。
そう、期待と不安に私たちは翻弄されてしまうのだ。そしてそれはスマホに触らなくても起こってしまう現象らしい。スマホがそばにあるだけで。
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ところで昔とくらべて集中力が落ちたと感じることはないだろうか?それはスマホの影響かもしれない。急速に進化した現代社会に脳は適応してないのだそうだ。獲物を発見するため、敵の襲撃に備えるため、常に周りを把握したがる脳は簡単に警報を鳴らす。確認せよ、と。そのたび私たちはスマホを手に取ってしまうのだ。獲物を発見する期待と敵の襲撃を恐れる不安が、スマホの中に息づいている。ここにいるのだ。他のことに集中してる余裕なんてあるはずない。気が散って当たり前だ。
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この本で紹介された調査では、スマホがそばにあるだけで気が散ることを指摘していた。記憶力と集中力が低下してしまうのだそうだ。別の部屋に置くなどの解決策をこの本は提案していたが、意志の弱い私はそれでも無理な気がした。スマホに通知のサインが届いてるかもしれないではないか!
そこでふと思ったのがスマホのスリープ(sleep)機能。あれはスリープじゃないな。全然寝てない。手に取って欲しくてスマホがじっと待機しているイメージが頭に浮かんだ。ウエイト(wait)機能と呼んだほうがいいのではないか。
そう考えると会社のデスクに置いたスマホが自分を見てるような気持ちになって電源をオフにした。電源を切ってしまえばその間スマホに通知が来ることはない。かもしれないから解放される有効な手段だと思う。それ以来、仕事中は私用スマホは電源オフにした。家族にも会社携帯の番号は教えてるから緊急の場合も問題ない。以前より仕事に集中できるようになったと思う。
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家でもスマホはできるだけ電源オフを心掛けるようにした。SNSはスマホは使わずPCかタブレットでと決めた。スマホはつい触ってしまいがちだから、触るハードルを上げて多少とも意識的に向き合えればと思っている。
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人間はマルチタスクが苦手だということも、この本は指摘している。同時にいろんな物事を処理するのはカッコよく思えるが、実は脳が高速で処理を切り替えているだけらしい。
脳には切替時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余(attention residue)と呼ぶ。ほんの数秒メールに費やしただけでも、犠牲になるのは数秒以上だ。-中略ー
集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。
スマホを手にするたび、これが起こっていると思うとゾッとする。家でのながら作業にも気をつけたい。集中できる環境を意識的につくることが大切だと思った。
長期記憶を作るには集中が必要だということも、この本には書いてあった。
本当の意味で何かを深く学ぶためには、集中と熟考の両方が求められる。
現代を生きる私たちに不足してて、いま最も取り戻したいのが"集中力"ではないだろうか?
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この本でもうひとつ紹介したいのが、どれだけの人と関係を築けるのかというテーマで、それが私にはとても興味深かった。
人間はおよそ150人と関係を築けると考えている。それよりもかなり多くの顔を認識し、名前を覚えることもできるが、他の人のことをどう思っているかまで把握できるほど近い関係ともなれば、そのくらいの数字に限定される。この数はダンバー数と呼ばれている。
おもしろいことに、狩猟採集民だった祖先たちは最大150人までの集団で暮らしていたようだ。原始的な農業社会でも、平均的な村の人口は150人だったと考えられている。
つまり私たちが関係を築ける人数には限りがあるということだ。ソーシャルメディアによって私たちは何千人とだって繋がることが可能になった。でも本当に関係を築けるのは150人までらしい。
便利になるほど悩みも増えるのはなぜだろう?
家族や会社関係や学生時代の友達などリアルで関係のある人を除くと、ネットの世界でどれだけの人達と関係を築けるのか?繋がるだけなら何人でも構わないが、関係を築くとなると50~100人ぐらいになるのだろうか?心に留めておきたい。
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「多すぎる火は何も生みやせん」と言ったのはナウシカの城オジだったが、SNSにおける「多すぎる人(フォロー数)」は何をもたらすのか?
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noteでずっと不思議に思っていたのが、なぜこんなにも多くの人がネガティブな話題を書きたがるのだろうか?ということだった。リアルな世界では話せないようなことをSNSに書くのはなぜ?
私は何かに夢中になっている人のnoteが好きだ。これはどういうことだろう?とふとしたことに関心を持つ人のnoteが好きだ。
私自身はネガティブな話題はあまり好きではない(そこから変わろうとする人は好きだけど)。でも共感はできる。そういうことかな?と思っていた。ネガティブな話題のほうが共感を多く集めやすいからではないかと。
この本では別の理由を2つ見つけることができた。1つは人間はネガティブな話題が好きな生き物だということ。もう1つは多くの人に接し過ぎると自己肯定感が低くなりがちだということ。SNSがそれを後押ししている。
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脳はネガティブな話題が好きなのだそうだ。なぜか?それは敵を見分けるのに必要な情報だから。自分に脅威となるものがないか警戒する太古のシステムが現代でも発動するらしい。
ネガティブな感情はポジティブな感情に勝る。人類の歴史の中で、負の感情は脅威に結びつくことが多かった。そして脅威には即座に対処しなければいけない。-中略ー
そもそも、普通の人は負の感情のほうがずっと気になる。争いや修羅場のない映画や小説を読みたい人なんているだろうか。
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多すぎる人(フォロー数)は自己肯定感を低くさせる原因になりうる。もちろんそうならない人もいる。その違いは能動的に関われるかどうかではないかと私は思う。この本の「デジタルな嫉妬」という章にこう書いてあった。
人間の祖先も部族内で競い合ってはいたが、ライバルはせいぜい20~30人程度だった。それ以外の人は歳を取り過ぎているか若すぎた。一方で、現在の私たちは何百万人もの相手と張り合っている。何をしても、自分より上手だったり、賢かったり、かっこよかったり、リッチだったり、より成功していたりする人がいる。ヒエラルキーにおける地位が精神状態に影響するなら、この接続(コネクト)された新しい世界――あらゆる次元で常にお互いを比べ合っている世界が、私たちの精神に影響を及ぼすのはおかしなことではない。
SNSを通じて常に周りと比較することが、自信を無くさせているのではないか。
別の章ではこんな警告もしている。
実はフェイスブック上のアクティビティで積極的なコミュニケーションはわずか9%だ。たいていは、尽きることのない潮流のような投稿や画像を次から次へと見ているだけなのだ。ほとんどのユーザーは、ソーシャルメディアを社交(ソーシャル)に利用するのではなく、皆が何をしているかチェックしたり、個人ブランドを構築するためのプラットフォームとして使っている。-中略ー
SNSを社交生活をさらに引き立てる手段、友人や知人と連絡を取るための手段としている人たちの多くは、良い影響を受ける。対して社交生活の代わりにSNSを利用する人たちは、精神状態を悪くする。
SNSを手段として使いこなせばいいが、SNSが目的になってしまうと危ういことを示唆する鋭い指摘だと思う。SNSをすることに自分の評価の軸を求めるのではなく、SNSを使って何をしたいかが大切だ。
そして私たちが関係を築ける人数には限りがあることも忘れてはいけない。関係を築かずにフォローを増やしすぎれば嫉妬の炎に身を焦がしかねない。上を見過ぎてしまうのだ。
自分が持てる分だけ持つ。そんな感覚を大切にしたい。しっかりと関係を築けば相手との信頼関係が生まれる。そんなところから自分を慈しむ感覚も育っていくのではないだろうか。自分が自分を好きだと思えるようにSNSと付き合っていきたい。
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