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「短編」住人の紫陽花。(2/5)


大学生活が始まり、僕は学業と生活費と家のルーティンを繰り返し生活していた。
そんな忙しいながらも、友人を作ることも大事なことだと思い、サークルに入った。

茶道会。

別にお茶が好きなわけでもなく、礼儀礼節を学びたいと言う気持ちもないが、ただ、活動がそんなに頻繁ではないっと言う所が、生活費を自分で稼がなければならない僕にとってはありがたかった。

サークル仲間も僕を入れて4人の小さなサークルで週に1度皆んなと集まり、お茶を立て和菓子を食べ雑談を行う、そんな活動だった。

「来海君だっけ?」

「はい、来海(くるみ)宏昌(ひろまさ)って言います」

彼は経済部の吉城(よしき)華恋(かれん)。
僕と同じ一年生でサークルでは唯一の同期。

「何で茶道会に入ったの?」

「まー。バイトしなければならないし、でも交友関係は広めたくてこのサークル週に1回だし、僕にとっては都合がいいからですかね?」

「そうなんだ。ならあまり茶道には興味がない感じ?」

「正直あまり興味はないですけど、話すのは好きですね。大きいサークルだと目立った物勝ちと言うか…僕そういうの得意じゃないですし」

「なら、私と一緒だね」

吉城さんはそう言うと小説を取り出し、目を落とす。耳にかかるロングの髪の毛がサラサラと文字の上に落ち右手で髪をかき上げる。その光景は日本美人と言うか、一枚絵の様な美しさがあった。

そこへ部長の高田(たかだ)夕陽(ゆうひ)が扉を開ける。

「2人ともお疲れ様。今日は真崎くんはお休みね」

真崎(まさき)史也(ふみや)は僕達の1つ上で部長の高田さんは2つ上。
真崎先輩とは実はまだ1度も会った事がない。

「そうなんですか?なら高田先輩始めますか?」

「そうだね。はじめようか」


吉城さんは読みかけの本を閉じ、部屋の隅に敷かれた2畳ほどの畳へ移り茶釜を沸かす。
袱紗(ふくさ)から茶碗を出し、棗(なつめ)から茶杓(ちゃしゃく)を使い適量緑の粉を茶碗に移す。

お湯が沸くまでの間に、桜の小皿の上に懐紙(かいし)置きその上に桐箱から取り出した、和菓子を置く。

「春ですし、桜の練り切りにしてみました」

「吉城さんは茶道を齧っていただけあって、詳しいね」

高田先輩は腕を組み感心していると、「おばあちゃんが茶道の先生をしていたんで、見よう見真似でしていただけですから、作法はばらばらですよ」

丁度お湯も沸き、茶釜から柄杓でお湯を茶碗に注ぎ、茶筅(ちゃせん)でお茶を研ぐ。部屋の角にただ敷いただけの畳だが一定のリズムでお茶を研ぐ吉城さんには華やかさがあった。

見惚れていると、「お先にどうぞ」っと手を添え歪な形をした茶碗を手前に出した。

「作法とか気にしなくていいから」

っと緊張する僕に高田さんが言ってくれたので、畳に正座し、一応背筋だけ伸ばし、お茶を一口。

「うまっ」

程よい苦味が口に広がり、スッと口の中に溶けていく。桜の練り切りを一口食べ、口いっぱいに広がる甘さを更に抹茶で流し込む。

「お湯の加減も丁度いいし、僕こんな抹茶が美味しいなんて思わなかった」

「お粗末さま」

高田先輩も後に続き、舌鼓をした後、片付けを行い、テーブルに座る。

そして、余った和菓子を摘みに雑談をスタートさせる。

「そういえば、昨日の心霊特集見た?」

まだ緊張が解けない自分達を気遣ってか高田先輩が話を始める。

「いえ、僕バイトだったので」

「私は見ましたよ。凄く怖かったですね」

「本当。でもあの座敷童の旅館は素敵だったよ。座敷童を見れたら、幸運になるみたいな」

「あの話は良かったですね。是非いつか行ってみたいですよ」

2人の会話についていけない僕は、抹茶を啜りながらへー。とか。そうなんですね。とか相槌を打っていると、吉城さんが「来海くんは幽霊信じる?」っと気を遣って話を振ってくれた。

「そうですね…」

僕の部屋にいる住人の話をすると、行ってみたいとか、怖いとか言われるのが、部屋の住人を傷つけるかもしれないから、「信じてないです」っと嘘をついた。

「お二人はどうですか?」っと話を逸らすと

「私もあまり信じてないかもしれないです」と吉城さん。

「僕は信じているよ。そうしないと死んだら僕達無の世界に行くことになるし、希望はもちたいよね」っと高田先輩。

高田先輩はでもっと切り返すと手を体の前に組み

「もし、幽霊がいるとして、彼または彼女たちは僕達の世界は見れて、話し声も聞こえるのに、僕達は見る事も話を聞いてあげることもできない。それは少し切ないよね」

っと持論を語った。

「確かに、もしあって私がそんなふうになったら少しだけ悲しいな」


確かに、高田さんの持論は本当だと思う。
僕の部屋の住人はどうなんだろう。
僕は最後の苦い抹茶を飲みながら住人の事を考えていた。

そろそろ暗くなって来たし終わろうか。
高田先輩は立ち上がると、部室の鍵を取りガス栓の確認を行う。

僕と吉城さんは先に部屋を出て、大学の校門まで一緒に歩いて、別れた。

今日はバイトもシフトが入っていないため、帰りにスーパーへ寄り値引き品ののり弁を1つ手に取る。

そして、お風呂あがりに食べるデザートを探していると、桜の練り切りがあったので、2つ購入した。

家の鍵を開け、暗闇に向かってただいまと言う。

カン…。

鉄を叩く音。20歳の女性の幽霊は僕を待っててくれた。

「暗くなかった?」

カン…カン…

「2回と言うことは暗くなかったって事だね」

カン…

僕は半額ののり弁の唐揚げを一口食べる。


「君はそういえば、お腹は空かないの?」

カン………カン。

少しだけ遅れた音。
お腹は空いているけど、彼女のなりの遠慮なんだろう。僕はのり弁の蓋に海苔と鰹節が乗ったご飯を半分と白身フライ半分とちくわの磯辺揚げを乗せ、僕の反対側に置いて台所の引き出しから箸を取り出し半分こしたのり弁の蓋の上に置いた。

「気づかなくてごめんよ。一個しかないから半分こしよう」

カン…。

後、これ。
スーパーの袋から桜の練り切りを出し「これ、お風呂上がったら一緒に食べよう。それまで、冷蔵庫に入れておくね」

カン…。

僕はその後、のり弁を食べ終わるとお風呂に入った。上がる前に新しいバスタオルと小さなタオルを洗濯機の上に置く。部屋着のTシャツに袖を通す。本当は下着1枚で部屋をウロウロしたいが、女性だからと僕にできる配慮。

出る前にシャワーの蛇口を捻ってお湯を出す。

「ねー。良かったらお風呂入りなよ。シャワー出しっぱなしだから、終わったら音を鳴らせて」

カン…。

そして、部屋に響くシャワーの音を聞く。
15分くらいした後、カン…っとお風呂場から音がした。

立ち上がりシャワーの蛇口を戻す。そして、冷蔵庫からコーヒー牛乳とコップを2つテーブルに置き買って来た桜の練り切りを置く。

「本当は抹茶が合うんだろうけど、抹茶がなかったからコーヒー牛乳で勘弁してよ」

カン…

彼女が食べたであろうのり弁を片付けテッシュを四角に折り、その上に桜の練り切りを置いた。

「今日サークルで食べた桜の練り切りが凄く美味しくて、そしたらたまたまスーパーに売ってたから、安物だけど、君にもね」

カン…

ありがとうって言っているのか、僕に付き合ってくれてるのかは分からないけれど、僕は20歳の女性の幽霊と話すのが少しだけ楽しみになっていた。

「それで、あのね今日ねサークルで」

僕が話すと時々カン…って相槌を打ってくれる。

僕はその音を聞きながら話を続けた。


つづく。

tano


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