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災害時のDX推進:70代以上の高齢者全員がスマホで被災者情報の送信完了、98%がわずか10分以内で完了!

サイボウズ株式会社ソーシャルデザインラボでは2020年に災害支援チームを結成し、災害発生時の被災地でのIT支援を行っています。今年元日に発生した能登半島地震でも活動を行いました。

現在、避難者が自らの情報を登録する名簿などは紙で行われることも少なくなく、IT化により迅速な支援に繋げることが期待されています。
ITでの被災地支援が注目されるにつれ、被災した方々にもご自身で必要な情報を登録してもらう機会が今まで以上に多くなると想定されます。

有事の際、身体的にも精神的にも大きなストレスを抱える被災者に迅速な支援を届けるため、誰もが簡単に活用できるデザインを目指しユーザビリティテスト(UT)を実施。
年齢や地域を問わず、被災地で必要となる避難者登録フォームを作るため、使いやすさや質問項目に問題や難点がないかを調査しました。

避難者登録フォーム

◆テストの概要

◾︎対象:テスト実施日時点で70歳以上の男女10人
 *年代  :70-80代
 *条件  :スマホを日常的に使用している方
       サイボウズ日本橋オフィスに来られる方
       QRコードを読み取れる方
 *割付条件:男女を均等割付
◾︎期間:2024年7月22日(火)~7月25日(木)
◾︎方法:サイボウズ東京オフィスでの対面テスト

今回は、スマートフォンなどのデジタル機器に馴染みの薄い方が多いとされる、70代以上の方にご協力いただきました。

ユーザビリティテストの様子

◆テストの手法・手順

被験者の皆様にご協力いただいたのは、避難者名簿フォームへの入力です。

イメージ:サイボウズ災害支援チームが提供する避難者名簿フォーム(見本)

入力するのは、サイボウズが用意したダミーの情報と、ご自身の情報の2種類。それぞれ2回ずつ、あわせて4回登録してもらいます。
順番は以下の通りです。

  1. サイボウズが用意したダミー情報 (1回目)

  2. ご自身の情報 (1回目)

  3. サイボウズが用意したダミー情報 (2回目)

  4. ご自身の情報 (2回目)

まず避難者名簿のフォームにつながるQRコードを自身のスマートフォンで読み込み、入力を開始します。
制限時間は設けず、入力開始から登録までの時間を計測しました。

調査中は質問NGとし、被験者が続行不可能となった場合のみ申告してもらうことにしました。

◆調査結果

◾︎全ての被験者が、入力データの送信に成功
内容の不備は多少あったものの、全ての被験者が少なくとも1度は、入力データを送信することができました。操作を嫌がる方もいませんでした。
さらに、このうち98%が10分以内に操作を終えていました。

◾︎全ての被験者で、回数を重ねるごとに登録時間が短縮
全ての被験者が、回数を重ねるごとに登録完了までの時間が早くなっていました。フォームに初めて触れるタスク1の登録に最も時間を要しており、平均488.75秒(およそ8分8秒)。
登録情報は少し変わるものの、タスク2では350.70秒(およそ5分50秒)。
タスク1と同じ内容のタスク3では、329.67秒(およそ5分30秒)と回を追うごとに所要時間が減少していることがわかりました。

各タスク登録に必要な時間 (※タスク5は最終日の被験者3人にのみ実施)

被験者からは「1度でも経験すると大丈夫」「2回目以降はスムーズに入力できた」との声が聞かれました。
平時に避難訓練として、地域の住民にフォームへの情報登録を1度でも経験してもらっておくと、有事の避難所運営がスムーズになりそうです。

また、
◾︎iPhone/Android関係なく、スマホでスムーズに入力成功
という結果もあったほか、
◾︎郵便番号からの住所自動検索は全員が「便利」と回答
◾︎指定避難所の検索は、使い方がわかると「便利」との声
が被験者から聞かれました。

◆調査から見えたフォームの改善点

◾︎全ての被験者が、生年月日のフォーム改善を希望
問題点として、被験者全員が生年月日の記入欄を挙げました。
現在、避難者名簿の生年月日記入欄はカレンダー式になっており、入力日から自身の生年月日まで遡らないといけない仕様になっていました。

生年月日のカレンダー表示

今回の被験者は全員70代以上だったため、生まれた年に設定するだけでも70回以上は画面をタップする必要がありました。
またiphoneの仕様として、連続でタップすると画面が拡大/縮小されるなどの問題も発生。
被験者からは「プルダウン形式か、直接入力する方がストレスが少ないのではないか」と言う声が上がりました。

その声を受け、テスト最終日の3人の被験者にはタスクを1つ追加で取り組んでもらいました。
他の被験者と同様、カレンダー形式の入力を4回実施していただいた後、生年月日を8桁の数字で入力するフォームを試していただきました。
3人全員が「数字で入力できた方が使いやすい」と回答しました。

また、10人中2人の被験者が、カレンダーの年の部分を長押しすると10年ごとに選べる一覧が出てくることに気づきました。

カレンダーの年部分を長押しすると出てくる画面。10年ごとに年を遡れる。

気づいた被験者は、「この仕様なら、生まれた年まで遡るのは難しくないけど、気付けない人が多いのでは」と話していました。

◾︎縦と横のスクロールが混在すると、入力欄に気付けないことも
避難家族の入力欄にも達成率の低い項目がありました。
特に今回のテストでは、ご本人以外の避難家族として、サイボウズが用意したダミー2名分を入力してもらう流れになっていました。

入力欄はテーブル形式になっており、このテーブルはスマホ版だと唯一の横スクロール。1人目を登録し終えた後、右端にあるプラスボタンを押し、行を増やして家族2人目を入力していただく手筈です。

テーブル右端。青の+ボタンで行の追加、×ボタンで入力内容の消去ができる。

しかし多くの被験者が、すでに入力欄がある1人目のデータは入れられても、行を増やすという作業ができず、2人目のデータが登録できませんでした。
唯一の横スクロールに気付けなかったという方もいました。

フォームの中で唯一横スクロールが必要でした。

横スクロールができた人の中でも、プラスボタンを押して自分で入力欄を増やすことができた方は2人だけでした。

テスト終了後に話を聞くと、
💬「プラスボタンには気付いたが、何を意味するのか分からなかった」
💬「1人目のデータをさらに詳細に入力する欄が出てくるのかと思った」
💬「×ボタン(入力した内容を削除するボタン)と並んでいるので、どうなるのかわからず、怖くて押せなかった」
💬「プラスボタンに気付けなかった」
との声が上がりました。

6人目の被験者以降はすでに行を増やした状態にしておいたところ、家族欄の入力不足は40%減少しました。

テスト終了後にヒアリングを実施。貴重なお声をたくさんいただきました。

改善策としては、
💬「初期設定として行をある程度作っておく」
💬「避難人数を入力すると、自動的にその人数分の入力欄が出てきてくれるとわかりやすい」
💬「プラスボタンではなく”行を増やす”など言葉で案内してくれるとわかりやすい」

などの意見をいただきました。

ご協力をいただいた皆様、ありがとうございました!

このほか、
◼︎淡い色だと入力欄が視認しづらい
◼︎スマホよりパソコンやタブレットの方が画面が大きく、入力しやすい

との声が聞かれました。

◆まとめ

今回の調査は、私たち自身が気づけなかった改善策、「もっと使いやすくなるポイント」に気づかせてもらえた貴重な機会でした。

70代以上は他の世代と比べ、デジタル機器やIT活用に比較的馴染みの薄い方が多いとされていますが、どの被験者も初見のフォームにも順応し必要情報を記入してくださっていました
「お友達がスマホ操作に困っていたら手伝っている」「フォーム入力の方が手軽なので、これまでも度々利用している」という方もいて、特別なお手伝いがなくとも避難者名簿の登録に大きな問題はなさそうです。

災害発生時という、身も心もストレスにさらされた状況で便利に活用していただくために、今回いただいたポイントを意識しながら改良を重ねていきたいと考えています。

どの年代の方にも簡単に活用していただけるものを目指し、高齢化が進む地域や、災害により孤立してしまったエリアなど場所や状況の壁を飛び越えて、迅速な被災者支援に繋げていきます。

テストにご協力をいただいた皆様、ありがとうございました!

■関連サイト
サイボウズ ソーシャルデザインラボ(そでらぼ)WEBサイト

サイボウズ災害支援WEBサイト

■サイボウズ災害支援プロジェクトについて
サイボウズ株式会社はIT分野で被災地支援に取り組む「災害支援プログラム」を2020年1月に立ち上げ、被災地へのクラウドサービスの無償提供や情報共有システムの構築、運用に取り組んできました。
災害ボランティアセンターを運営する社会福祉協議会では、ICTの導入で迅速できめ細かな被災者支援ができており、すでに28都道府県で導入済み、または導入に向けた動きが進んでいます。
今年1月の能登半島地震では自衛隊とも連携し、ITを活用した大規模な被災者支援を実現しました。
被災地での活動で得たノウハウを活かし、全国各地で災害に対処できる汎用的な仕組みづくりを目指しています。