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東京ディズニーランドは入園する前がいちばんおもしろい?
東京ディズニーランドに行くとき、悩ましいのが開園待ち。
確かに入園後の時間は効率的に使いたいが……何もない空間で2時間も3時間も待つのは確かにしんどいと思う。
「A子は大真面目に語っていました。なんでも、『電車は○号車の○番めの扉から出るよ。ホームについたらエスカレーターじゃなくて、このエレベーターがベスト』とか、『土日の○○駅は結構降りる人がいるから、あそこの席は絶対座れる』とか、リサーチがとにかく細かくてすごいんです」
そして6時前に到着して、およそ3時間の待ち時間を経て、無事入場。もうこの時点で疲れそうです。
正直これらは覚えるとか調べるとかいうまでもなく、パーク内での体験を最大化するために覚えてしまうしやってしまうことだ。ほとんど無意識に近いのである。
記事を見ると「去年彼女がまだ大宮住みのころ、一度一緒に行ってみたいな~と思って、誘ったんですよ」との記載があったので、同行者にはディズニーオタク的な振る舞いをはじめから期待していたのかもしれない。だが、友人たちとパークを楽しむことと一人でパークを楽しむことは本質的に別のゲームなので、友人と来ているならなるべくこうした仕草を封印するべきだとは思う。
さて、そんな最中……大変申し上げにくいのだが……
「東京ディズニーランドは入園する前がいちばんおもしろい!」
流石に過言では?(確かに過言だ)
だが、入園前のディズニーランドに全く楽しみがないかと言われるとそうではない。
東京ディズニーランドのエントランスに並んでいる建物をよくご覧いただきたい。9割の方がこう思うだろう。
「あー、はいはい、なんかアメリカンで素敵〜〜〜」
これらは、荷物の宅配を請け負うサービス施設であったり、パーク入園前や退園後にパークグッズを購入したいゲストのためのお土産店であったり。明るく美しい色で塗られた、見事な「作り物」だ。
しかし、話はこれでは終わらない。東京ディズニーランドのエントランスには、実は「元ネタ」があるのだ。
この記事では、東京ディズニーランドのエントランスについて徹底解説したい。
比較的有名(?)な東京ディズニーシーのエントランス
ちなみに、東京ディズニーランドと別でもうひとつ、東京ディズニーシーというテーマパークがある。このパークのエントランスは、イタリアのトスカーナ地方、それもフィレンツェの町並みをモデルにしている。
その証拠に、パーク一体型ホテル「東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ」では、エントランスに面しているエリアを「トスカーナ・サイド」と呼んでいる。
これは、東京ディズニーシーのエントランスに面したエリアが「メディテレーニアンハーバー」であり、このエリアがポルトフィーノやヴェネツィアといったイタリアのリゾート地をモチーフにしていることに由来する。メディテレーニアンハーバーのテーマの一つが15〜16世紀のイタリアン・ルネサンスであるため、その始まりの地であるフィレンツェが選ばれたのだろうか。
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う〜ん、確かに本物のフィレンツェと見比べてみると、わざとらしいとすら言えるレベルで東京ディズニーシーが「寄せに行っている」。
特に南側(画面左)の塔と、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ(画面右)のキューポラ(ドーム)が、フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に似ていて、かなりそれらしい。オレンジ色のレンガ屋根が連なっているのも共通点だ。
東京ディズニーシー・ホテルミラコスタの建物が一つの巨大なホテルでありながらあたかも遠目には入り組んだ路地のように見えるというのが魅力的だ。
一見するとチャチなエントランス
東京ディズニーシーのエントランスがトスカーナの美しい街並みをモデルにしているのに対し、東京ディズニーランドのエントランスはなんだか不思議。一見すると若干チャチにすら見える。
同じ様式を引き継いでいるのが東京ディズニーランド・ホテルなのだが、初めてこのホテルに足を踏み入れた際、私はけっこうがっかりした。う〜〜ん、チャチだな〜〜と数年間思っていた。
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しかし、実際にこの建築様式について調べていくと、どうやらそうではないらしい。
東京ディズニーランド・ホテルやパークのエントランスが用いているこのチャチな様式こそ、ヴィクトリア朝様式である。
ヴィクトリア朝様式
東京ディズニーランドのエントランスや東京ディズニーランド・ホテルには、ヴィクトリア朝様式の建物が連なっている。
ヴィクトリア朝様式とはその名の通り、イギリスにおいてヴィクトリア女王が在位した19世紀後半の建築様式である。
しかし、ディズニーランドのテーマは専らアメリカであり、イギリスは関係がない。どうして東京ディズニーランドはヴィクトリア朝様式を用いているのか?
ここでいうヴィクトリア朝様式とは、アメリカへ輸入されたヴィクトリア朝様式のこと。言うなれば「アメリカン・ヴィクトリアン」なのだ。
1850年代のアメリカ。当時のアメリカ人にとって石材は高価なものだった。また、広大な土地においては、限られた資材と技術によって短期間で建設できる住居が求められていた。その代わり、豊富で良質な木材とそれらを加工する蒸気駆動の鋸を手に入れることができた。
こうした要請から誕生したのがパターン・ブックである。大工たちは、石造の建造物の文法が記されたパターン・ブックを木材に適用することで、大規模で手の込んだ住居を短期間で建造していた。この時代、パターン・ブックにもとづくジンジャークッキー型装飾を伴ったカーペンターズ・ゴシックという様式が誕生した。
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つまり、東京ディズニーランドのエントランスがチャチな理由はこうだ。石造りの建物を木材で再現したのがアメリカン・ヴィクトリアンの建造物であり、それをさらに再現したのが東京ディズニーランドなのである。
再現の再現だから、相当デフォルメが入っているのだ。
トンチキ色彩の謎
なるほど、謎にチャチな理由は、デフォルメのデフォルメだったからなのか。
しかし、もう一つの謎が残されている。
色だ。
東京ディズニーランドのエントランスの建物、かなり塗り方がベタ塗りで、パーク内のアドベンチャーランドやウエスタンランドで見られる生活感あふれる雰囲気とは異なっている。
園外だから手を抜いているのでは、と思いきや、同じ様式で作られたパーク内のエリアにワールドバザールがあり、ここもやはり多少チャチな色使いである。
しかし、これにもまた理由があった。
カリフォルニア州にあるヴィクトリア〜ンな建造物を具に見ていくと、(もちろんすべてではないが)明るい色が鮮やかに使われているではないか。
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おそらく、東京ディズニーランドのエントランスがこうした色使いなのも、カリフォルニア州のアメリカン・ヴィクトリアンが元になっているのではないかと思わされる。
八角形は未来の形
ちなみに、このアメリカン・ヴィクトリアンについて調べていく中で発見した更に興味深い事実がある。
東京ディズニーランドのエントランスには、カウンターを備えたパーク外土産店やサービス施設が複数ある(正確にはあった)。これらはカウンター数を確保するためか多角形の不思議な形をしているのだけれど、これにもおそらく理由があるようだ。
19世紀後半、暖房効率を高めることを目的に、オクタゴン様式と呼ばれる建築様式が発明され、住居などにも用いられたという。
八角形の建造物の中心に暖房施設を設置し、快適な空間を作るという発想らしい。
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もしかしたら、パーク周囲の八角形の建物は、当時の実験的な建築様式を参考にして作られていたのかもしれない。
お楽しみは入園前から始まっている
いかがだっただろうか。
パークに入る前から物語は始まっている──というのは若干ありきたりな表現かもしれないが、事実、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーに入園する前にもお楽しみポイントは数多くあるように思う。
正直、この記事にこれ以上の結論はない。
東京ディズニーランドのエントランスの謎といえば、バスロータリーの向かいにあるこの謎の建物だ。
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ゲストは立ち入ることのできない、キャストの方々が利用される建物である。だからあまり詮索するつもりはないのだけれど、緑豊かなピクニックエリア(パーク内に持ち込めないお弁当を食べて良い経済特区)の隣にあって、物語を感じさせるのが魅力的だ。
また、最近気になっているのが、ディズニーホテル館内に飾られている絵画の出所。東京ディズニーシー・ホテルミラコスタにしろ、ディズニーアンバサダーホテルにしろ、今回紹介した東京ディズニーランド・ホテルにしろ、建築様式やホテルの雰囲気に合った美しいアートワークを大量に用意して構成するのは難儀だと思われる。
それにもかかわらず、館内にはいつ誰が描いてどのように流通させたのかよくわからない謎のアートがたくさんある。
もちろん、東京ディズニーランド・ホテル以外のホテルの建築様式も気になる。様式自体に歴史的な積み上げがあるのはもちろん、周囲のエリアとの親和性についても考えられそうだ。
ゲストを誘導するサインシステムについてももっと調べてみたいと思う。どこにどんな看板が、どんなデザインで設置されているのか。ゲストが迷わないような工夫はあるのか。そして、それぞれの時代を考慮したフォントやレタリング……などなど、課題は山積みだ。
筆者による先行研究はこちら。まだまだ画像が足りていない。
テーマパークに入らなくても、東京ディズニーリゾートはじゅうぶんおもしろい。
それだけなんだよ、言いたいことは。
参考文献
レスター・ウォーカー(著)・中島智章(訳)『図解 アメリカの住居─イラストでわかる北米の住宅様式の変遷と間取り』2021
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