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【感想文】五分後の世界/村上龍

『ペレとはなんだったのか。』

本書『五分後の世界』読後の乃公、愚にもつかぬ雑感四題以下に編み出したり。

▼あらすじ:
ちょい悪オヤジの小田桐はある日ひょんなことからパラレルワールドの日本にワープして様々な女性に淡い下心を抱く一方でペレの身体能力に翻弄されつつも旧日本軍残党のゲリラ戦士として敵対する国連軍との戦闘に小田桐自ら巻き込まれていく痛快ドタバタ異世界ファンタジー活劇。

▼雑感① ~戦闘に関する描写~:
本書は戦闘シーンがやけに細かく、特に第4章「戦闘」、第8章「非国民村」は印象的である。

▼雑感② ~ワカマツのコンサートに関する描写~:
第7章「暴動」におけるワカマツのコンサートのくだりもやけに細かい(幻冬舎文庫,P.229~P.237)。演奏者ワカマツはアンダーグラウンド(=日本国)の誇りという存在にも関わらず、演奏手法に電気ピアノ、シンセサイザー、ボンゴ、アフロキューバン、ポリリズム、シンコペーションを用いており、それって70年代マイルスデイビスそのままやんけ!欧米か!と思った。

▼雑感③ ~第5章の概要~:
第5章「アンダーグラウンド」において小田桐が目にした「(5分後の世界における)現代社会の教科書」は、本編約15ページに渡って第二次大戦後の日本について延々と説明されているが、教科書が進むにつれ内容が決意表明と化しており、これをまとめると「日本国民は生命を尊重しながら日本人としての主体性をもって生きるべし」となり、つまり「欧米か!」の精神である。

▼雑感④ ~第5章の不可解な点~:
前述の教科書内に、

「……帝国陸軍なき後もトンネルを基点にゲリラ戦を展開し、国体の護持に努めよ」P.138

と、司令官から国民兵士向けに指令があり、以降、攻勢に転じてゲリラ戦術が世界から高く評価されているとあるが(P.138~P.139)、この一連のくだりには違和感を覚える。というのも、前述引用部分で、「国体の護持に努めよ」 としながらも、その実、

陛下は六六年まで旧東京の仮御所に、国連軍の監視のもと、住んでおられましたが、現在はスイスにうつられています。P.137

という状況が不自然極まりないからであり、要は、主権の所在によって区別される国家が成立していない(≠国体)にも関わらず、こんなスムーズにアンダーグラウンドが進歩するものなのか?欧米か?という疑問だけが残った。でもまあ「国体」という言葉自体、広義に解釈可能なのでもしかしたら別の、例えば民族的な示唆があったのかもしれない。

といったことを考えながら、本書にインスパイアされた私は『転生したらペレだった件』というライトノベルを執筆中である。

以上

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