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【小説】お信(最終・第三部)

『お信』第三部 昭和六十二年、今年も彼岸を迎えたが暦に立つ秋は早く、夏の端はまだ残っていた。 熱海行き当日の朝。お信はフラフープで遊んでいた。腰をくねらせながら器用にフラフープを回すその姿を小猫が物珍しそうに眺めている。 「お信。そろそろ出掛けましょう。」 居間にいた継母がそう声を掛けると、お信は「うん。」と頷いてフラフープを納屋に戻し、庭からこちらへやって来た。 「で、お信。支度はできてるの?」 「まだなんにもしてない。」 「でしょうね。」そう言うと継母は、 「表で待っ

    • 【感想文】闇の絵巻/梶井基次郎

      『梶井基次郎の顔面における芸術作品としての価値とその測定方法に関する考察』という表題の修士論文を提出したら今年も留年が決まったが、それはさておき、本書『闇の絵巻』は難解な作品である。というのも「主人公は闇に不安を覚えるが己の意志を捨てると不安は安堵へ変化するそうで、闇に消える他者の姿に <<異様な感動>> をしたそうで、谷沿いの闇には再び不安を覚えたそうで、旅館の電燈に安堵したけど都会の電燈は <<薄っ汚なく>> 思っている」という複雑な心境だからである。 主人公にとって「

      • 【感想文】赤ひげ診療譚/山本周五郎

        『落語モンドセレクション最高金賞受賞メモリアル読書感想文』本書『赤ひげ診療譚』は作中、様々な境遇の患者が養生所を訪れるのだが、そうした病気の根本原因は「赤ひげ」によると <<貧困と無知と不自然な環境>> であるとし、彼は嘆きつつも医者としての我が使命を果たすべく……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!すっかり忘れてた!!そういえば昨日、僕は長年に渡る落語の研究成果が認められ、この度「落語モンドセレクション最高金賞」を受賞したんだった! というわけで今回は以下、落語モン

        • 【感想文】華氏451度/レイ・ブラッドベリ

          『メナンドロスの断片』古代ギリシャ人のソフォクレス、エウリピデス、アリストテレスらは多くの著作を残したそうだが、彼らの大半の作品は歴史過程において散逸してしまったため、そうした幻の著作は「断片(※1)」という形でしか読むことができない(一方でプラトン、クセノフォンの著作はその全てが奇跡的に現存している)。  ※1…パピルスの切れ端 。他者の著作における引用・言及。 前述同様に、知る人ぞ知る古代ギリシャの喜劇作家「メナンドロス」は、その全ての作品が完全な形で残っておらず、現存す

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        【小説】お信(最終・第三部)

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          【感想文】トム・ソーヤの冒険/マーク・トウェイン

          『著者介入に関する注文 ~岩波のレミゼに寄せて~』本書『トム・ソーヤの冒険』における「地の文」は、著者マーク・トウェインのユーモアセンスが発揮されており、それは読者を物語に惹きつける推進力があることからして、はっきりいって名作だと私なんかは思う……だが、でも、しかし、その上で、無粋を承知で、誠に恐れ多いけど、著者の語りについて注文がある。で、それは以下。 ▼表記の形式について: 本書の表記は「三人称神視点」が採用されており、この場合の「神」とは著者マーク・トウェインという

          【感想文】トム・ソーヤの冒険/マーク・トウェイン

          【感想文】書記バートルビー/メルヴィル

          『変なおじさんだから変なおじさん』上記は我々に課せられた命題であり、そのため何かしらの解を与えなくてはなるまい。で、与えた。 というわけで今回は、こうした存在論に基づいて『書記バートルビー』におけるバートルビーの存在意義を検討する。その際、本書をナラティヴ・データとして扱い、その主体である「語り手」を分析することでバートルビーを明らにする。 ▼語り手の在り方/非本来的な自己について: ダス・マンとは、ハイデッガーによると「距離を測りがちであること、人並みであろうとする平

          【感想文】書記バートルビー/メルヴィル

          【感想文】ヴェニスに死す/トーマス・マン

          『玉井パイド郎による本書解説』『ヴェニスに死す』(※以下、本書と表記)は、アシェンバハがタッジオとの出会いを通して彼の性質が「分別」から「放縦」へと至る顛末が描かれており、その原理はプラトンの著作『パイドロス』に依拠されているため、根拠も合わせて以下に説明する。 ▼リュシアスとかつてのアシェンバハの類似性: ▼美のイデアおよびタッジオの「美」について: ▼放縦・狂気の是非について: ▼魂の不死および転生のミュートス: ▼といったことを考えながら: 『パイドロス』は

          【感想文】ヴェニスに死す/トーマス・マン

          【感想文】肉体の悪魔/ラディゲ

          『恋愛ゼミ夏季集中講義 ~傾向と対策~』「恋愛駆け込み寺」と呼ばれてはや六十年。 そんな我が寺に駆け込んだ恋の受難者を通算すると、九千八百六十五万三千九百七十二名が駆け込んだ。というわけで今回は集中講義と題し、恋に悩める者に向けて愚僧が悲願成就の秘訣を指南する。なお、本講義で用いるテキストは新潮文庫版『肉体の悪魔』である。 ▼ 恋愛ゼミ夏季集中講義 ~傾向と対策~ といったことを考えながら、この感想文を姉に見せたところ姉は軽蔑の眼差しを向け、その隣で母は静かに泣いていた。

          【感想文】肉体の悪魔/ラディゲ

          【感想文】海の沈黙/ヴェルコール

          『マジ卐』▼『海の沈黙』のあらすじ: 以下、本書の関連資料を読み漁った結果をご紹介させて頂く。 ▼ ナチス・ドイツ占領下のパリの様子: ▼ 「深夜叢書」設立の意図: ▼備考 ~といったことを考えながら~: 以上

          【感想文】海の沈黙/ヴェルコール

          【エッセイ】日々の含(第四回)

          日々の含 (第四回) 『ライフハックのとろみ』 耳寄りな話を聞いた。 ライフハックは儲かるというのである。 「ライフハック」とは、家事や仕事といった我々の日常生活をより良くするためのちょっとしたアイデア、つまり暮らしの豆知識といった意味で使用される言葉である。で、そのライフハックとやらがどういう理屈で儲かるのかというと、その方法は大きく二種類あるそうで、まず一点目はこうした暮らしの豆知識をブログで紹介して収益化、つまり広告収入を得るという儲け方と、二点目は暮らしの豆知識を

          【エッセイ】日々の含(第四回)

          【感想文】壁/安部公房

          『語り手カルマの与太話を徹底解説』短編集『壁』は解釈の余地が大いにあり──実存主義、構造主義、認識論、戦後混乱期の世相、著者の苦悩といった様々なアプローチで読ませる作品である。せやさかい、今回は表題作『壁』を採り上げて言語論に基づいた読解を試みる。 ▼Ⅰ. ソシュールによるシステム・構造としての言語: ▼Ⅱ. 鏡の中の自分とシニフィアンス: 以上を踏まえて以下、本題。 ▼Ⅲ. 壁カルマを通じた語り手カルマの苦悩: といったことを考えながら、以上はあくまで言語学の視点

          【感想文】壁/安部公房

          【感想文】戦争と平和(第四部・完結)/トルストイ

          ▼戦争と平和のあらすじ(第四部・完結)【感想文(第4部第1編第1章~第2編第19章)】プラトン・カラターエフの存在意義 第1編第12章~第13章にかけて、捕虜となったピエールが同じ境遇である「プラトン・カラターエフ」なる男と出会うが、作品全編を通してこの人物だけは異端である。これは作品の欠陥だろうか、いや、超人トルストイがそんなヘマをするはずがない。カラターエフは作者の知的操作の賜物だろう。というわけで今回は、カラターエフが異端であるとした理由と共に、彼がもたらす作中効果を

          【感想文】戦争と平和(第四部・完結)/トルストイ

          【感想文】戦争と平和(第三部)/トルストイ

          ▼戦争と平和のあらすじ(第三部)【感想文(第3部第1編第1章~第23章)】オススメの党派について 第9章では、ナポレオンのロシア侵攻を阻止すべく、ロシア軍では九つの党派が形成され指導権争いが行われる。要は「この戦争誰が仕切んねん」であり、そこで今回は九つの党派の特徴を整理した上で、我がオススメの党派を紹介する。 以上、合計九つの党派が生まれ、そらまあ九派閥もあれば議論紛糾するのは当然なのであって、で、オススメの党派を挙げる前に私が言いたいのは「感情があるから戦争は起こる」

          【感想文】戦争と平和(第三部)/トルストイ

          【エッセイ】日々の含(第三回)

          日々の含 (第三回) 『ミニマリストに執着します』 先程からこの場所にひとり佇んで意気消沈している。 だってそうだろう、今私が立っているこの地はJR新宿駅の東口、つまりアルタ前ときたら非常に多くの人で賑わっているのだから。この賑わいは今日が金曜の夜だから来たる土曜を祝して賑わうのではなく、まず新宿駅に先立って「賑わい」が存在するのであり、これ無くして日本随一の歓楽街は成立しないといってよい。周囲を見渡せば、サラリーマン、OL、学生さん、お医者さん、植木屋さん、駐在さん、亀

          【エッセイ】日々の含(第三回)

          【エッセイ】日々の含(第二回)

          日々の含 (第二回) 『まーた雨が降ってやがらァ』 ニュース番組を見ていたところ、ある社会学者の方が「現代はストレス社会である」と称してその弊害を語っていた。 ストレス社会、全くその通りである。だってそうだろう、令和のこの時代は昭和や平成といった一昔前と比べると、経済活動から情報技術に至るまで高度かつ複雑に発展しており、その結果、一見して我々は便利で豊かな暮らしを享受できている様でいて実はそんな事は無く、確かに肉体的・物質的には目に見えて便利になったものの、では一方で精神

          【エッセイ】日々の含(第二回)

          【エッセイ】日々の含

          日々の含 『新宿のええじゃないか』 朝刊の「日経平均株価が史上最高値を更新」という大見出しが目に止まった。 これぞ吉報である。だってそうだろう、株価の最高値は何も株主だけの利益に通ずるのではなく企業の時価総額、つまり企業価値の向上を意味するからであり、それに伴い企業の事業は拡大、従業員の給料も上がるわ経済も潤うわで最終的に我々は幸せな生活を送ることができるのだから。それにも関わらず私の生活に変化が無いのは一体どういうわけか。おかしい。というのも、株価は今日この時点で瞬間

          【エッセイ】日々の含