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【感想文】Kの昇天/梶井基次郎

『K変死事件裁判のご紹介』

本書『Kの昇天』の冒頭に記載の通り、Kの死は過失なのか、あるいは自殺なのか、真相を読み解くのは非常に難しく、私の能力では結論を導き出すことができなかった。で、最後の手段として法学部卒の父に相談したところ「この判例を読め。このド素人が。」と言って父は私に向けて書類を放り捨てた。どうやらこの書類にはKの死因と真相に関する判決が書かれてあるらしい。

【東京地裁判決(抜粋)】

・事件番号:第XXXX号
・事件名:K変死事件
・宣告日:令和4年8月26日

            記

▼通説『純粋溺死説』/後藤・木下
・結論:ただの溺死である。
・根拠:満月においても夜の砂浜は暗く視界は非常に悪いためKが浅瀬にはまってしまう可能性は高い。とすれば病気をわずらっている体力の無いKは、大波に足元を掬われて離岸流りがんりゅうによってそのまま沖に流されて溺死したと考えるのが妥当である。

▼有力説①『アヘン中毒者説』/田中・宮下
・結論:Kはアヘンの過剰服用により死んだ。
・根拠:手紙の中でKは「阿片あへん」という言葉を度々用いて恍惚こうこつ状態を説明している。Kが死んだ当日においても阿片を多分に服用し、半ば錯乱した状態で訳の分からぬままにテンションアゲポヨで海に飛び込み溺死したと考えるべきである。
・純粋溺死説からの批判:Kのアヘン服用に関する表記は作中に存在しない。

▼有力説②『ロマンチスト説』/佐藤
・結論:
イカルスに憧れてロマンを求めて死んだ。
・根拠:手紙の中にギリシャ神話・イカルスに関するKの言及がある。イカルスは太陽を目指して墜落した。ここで、Kが死んだ当日は満月の南中時刻だったことから、地球の観測地点(=Kの位置)を中心として太陽と月は正反対の位置関係である。これを先程の神話に適用すると、「イカルスが太陽を目指して墜落」の反対は「Kが月を目指して昇天」であり、ロマンチストのKはこの点に憧れを抱き実行した。しかし、Kは空を飛べないため月の進路を地表から追跡するにとどまり、その結果、昇天とは名ばかりの溺死を遂げたと考えるのが至極当然である。
・純粋溺死説からの批判:ロマンチストだから死ぬとは考えにくい。ロマン=死に直結する思考およびその示唆も作中からは窺えない。

▼少数説:『他殺説』/鈴木
・結論:
手紙の差出人がKを殺して海に捨てた。
・根拠:差出人はKの死際に実際に居たわけではなく、死因の大半は差出人の妄想による補填ほてんであり、手紙の文面も修辞的な表現が多く(昇天など)、作為満載であることからこれはKを殺した差出人による捜査攪乱かくらんが意図されているものと考えるのが自然である。
・ロマンチスト説からの批判:殺意および凶器に関する表記は作中に存在しない。

▼珍説①:『ラオウ説』/玉井
・結論:
本当に昇天してしまった。
・根拠:ラオウは昇天して死んだ、という『北斗の拳』における過去実績に基づけばKが本当に昇天しても不思議ではない。
・他殺説からの批判:ラオウは空想上の人物であり実在しない。はなは荒唐無稽こうとうむけいである。
・アヘン中毒者説からの批判:お前がアヘンでラリってるだけではないのか。

▼珍説②:『ムーンライト伝説』/玉井
※結論および根拠は割愛する。

<判決>

主文:本件は公訴棄却こうそききゃくとする。
根拠:全体を通して、第三者の手紙のみに基づく根拠は根拠足りえるものではない。
※検察側は即時控訴

といったことを考えながら、「次このパターン使って感想文書いたら殺すからそのつもりで。」という幻聴に私は悩まされている。

以上

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