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【物語る映画ポスター】羅生門

映画ポスターが好きすぎて
それのみで作品を紹介する試みです。

今回の映画は
黒澤明監督の「羅生門」

1951年のヴェネツィア国際映画祭で
金獅子賞を、
第24回アカデミー賞で名誉賞
(現在の国際長編映画賞)を受賞した本作。

これをきっかけに
日本映画の存在を世界へ知らしめました。

↑は公開当時のポスター。
迫力のある表情が並ぶ。

三船敏郎のかっこよさが光る。

演技の幅広さと、大胆な身体の動きが
印象的。以下、海外製のポスターにも
よく現れていて面白いです。

↑アメリカ

↑スペイン語のもの

↑フランス語のもの

↑(たぶん)ドイツのもの。

↑ヴェネツィア国際映画祭での受賞を
知らしめたポスター。

右側中央には
「A rare piece of film art」と書かれてある通り
希少な、レアな、映画の一片だと評されていました。

何が希少だったかというと、

このポスターに現れている、「視点」。

のちに「羅生門効果」と呼ばれるに至る手法が
使われていたのです。

同じ出来事を
別々の人物による「視点」を描くことによって
真実のあいまいさ、
解釈の多様性、思い込みによる事実の歪みなどを
浮き彫りにする。

そのあたりを強調するポスターも
多く見られました。

こちらもおそらくそう。

一人の侍が殺されて
検非違使による事情聴取が行われる。

上から、盗賊、侍の妻、
巫女によって降ろされた侍の霊が
それぞれ証言する。

事の発端となった
死体の発見者の村人が
大雨の降りしきる羅生門で
一部始終を回想しながら映像が進むという構成。

それぞれの言い分が見事に食い違う。

自分の為に、真実を歪め合う人間は
恐ろしい。

どれが本当にあったことのなのか
はっきりと示されないまま、幕を閉じる。

最初に触れた通り、
三船敏郎の演技が本当にすごい。

登場の直後は、チャラくて豪快な盗賊だったのが
別の視点による回想となると
全く違う顔になる。

真剣に女に請願するところや
罵倒されて戸惑う表情、
死線を目の前にしたときの狂気。

見事に演じ分けて、本作のテーマに
深みを与えているように思う。

物語が進む中
羅生門では絶えず大雨が降りしきる。

不吉な雰囲気が常に
まとわりついてくる。

白黒の映画なのに
雨の濃淡がはっきり見えて
どこか美しさすら覚えます。

回想されるシーンは全て
木々の生い茂る森の中。

木漏れ日を太陽に直接カメラを向けて撮ったり、
明暗のはっきりする構図を豊かに作ったり

白黒だからこそ浮かび上がる
映像の美しさが画面にあふれています。

そのあたりも
「A rare piece of film art」と評された
本作の魅力だと言って間違いないでしょう。


最後に、ヴェネチア国際映画祭の
受賞祝賀会で語られた黒澤監督の言葉を
引用します。

1951年、終戦まもない頃のこと。

日本映画を一番軽蔑してたのは日本人だった。
その日本映画を外国に出してくれたのは外国人だった。
これは反省する必要はないか。
浮世絵だって外国へ出るまでは
ほんとに市井の絵にすぎなかったよね。
われわれ、自分にしても自分のものにしても、
すべて卑下して考えすぎるところがあるんじゃないかな?
『羅生門』も僕はそう立派な作品だとは思っていません。
だけどあれはマグレ当りだなんて言われると、
どうしてすぐそう卑屈な考え方をしなきゃならないんだって気がするね。

「黒澤明、自作を語る―羅生門」『キネマ旬報セレクション 黒澤明』キネマ旬報社、2010年4月


敗戦からの復興に向けて
おおいに勇気を与えた作品だったのだと
調べてはじめて知りました。

今見ても色あせない
凄まじいパワーを持った本作。

U-NEXTでもご覧頂けます。


お読み頂きありがとうございました。

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