【うたかたの日々】ひとつのジャンルでは言い表せない独創的な物語
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
〜ひとことで恋愛小説とは言い難い〜
個人的に映画にしても小説にしても恋愛ものというのが苦手である。
他人の恋模様を見ているだけで(読んでるだけで)自分が恥ずかしくなってしまうので、腹の中がむず痒くなって最後まで見ていられないのである。
本作も「青春ラブストーリーの傑作」なんてどこかで紹介されているのを見かけて最初は気にもとめなかったのだが、色んなまとめサイト等で度々紹介されているのを見て気になって今回読み始めた。
結果、☆4つをつけるほど良かったわけだが、これを「ラブストーリー」と呼ぶには言葉が足りなすぎる。
かなり特殊な世界観と文体で、他の物語では味わえない読後感を得られる。
〜この世界に素直に入っていけるか〜
あらすじは、コランという金持ちの青年がクロエという美しい女性と恋に落ち結婚するが、直後にクロエが肺の中に睡蓮が根づく病に侵される、というものだ。
あらすじは事前に知っていて、肺に睡蓮が咲くとはなんともファンタジーな設定だなぁ、と思っていたのだが、この睡蓮の病気はこの小説全体のエッセンスのひとつに過ぎない。物語を読み進みていくと、次々と奇怪なことが小説内で巻き起こる。スケート靴の靴底が逃げ出す、切り落とした瞼がすぐに生えてくる、ネクタイが巻かれまいと抵抗する、アパルトマンの部屋が変形して丸くなる、などなど。これらは比喩などではなく、物語の中で実際に起こっていることなのだ。そして、登場人物たちはこれらの出来事に対して違和感を全く感じている様子はない。
すなわち、この物語はぼくらが暮らしている世界とは違う幻想的な世界での話であり、読んでいる者はその世界をできるだけ早く受け入れなくてはいけなくなる。早く世界観を受け入れられるかどうかがこの物語を楽しめるかどうかを決めると言っても過言ではないだろう。
恋愛の物語でありながら、ファンタジー的であり、SF的であり、ひとつのジャンルで言い表せない唯一無二の物語である。