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【多様性の科学】「集合知」をさらに深く掘り下げる

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜認知的多様性を科学する〜

「多様性の科学」と日本語版のタイトルが付けられているが、原題は「The Power of Diverse Thinking」。直訳すると、「多様な思考の力」である。
「多様性」という言葉は今だと、「人種・年齢・性別・能力・価値観などさまざまな違いを持った人々が組織や集団において共存している状態」を指す「ダイバーシティ」の日本語直訳の意味がすぐに思い浮かぶだろう。
もちろんそういう「人口統計学的多様性」の意味も本書では取り上げられているが、本書ではもう一つ「認知的多様性」についても取り上げられており、どちらかというと比重は「認知的多様性」におかれているように思う。

僕個人としては、これはどちらかというと「集合知(複数の人の知識が蓄積したもの)」に関する本、だと思う。
以前読んだ「『みんなの意見』は案外正しい」の回答編とも言える。
「みんなの意見〜」が発刊された2004年(日本では2009年)の時点ではやや不明瞭だった部分が科学的見地により明確になったわけである。


〜自分は多様性のある組織にいるか?〜

さて、本書では様々な事例や調査、研究、実験により多様性(以下、「多様性」という言葉には「人口統計学的多様性」と「認知的多様性」の両方を含める)の力を示す。
CIAの失態、エベレスト山頂での登山隊の行動、キャスター付きスーツケース、政治的エコーチェンバーなど様々な事例から、多様性を考慮しないことの危険性を説き、多様性をうまく取り入れた企業や組織の事例から多様性の有益さを説明してくれる。

僕らは直観的に「優秀な人が集まったチームは優秀なチームである」と考えがちだが、その考えはこの一冊でひっくり返る。
経済学の事を話し合うのであれば、経済学の知識が豊富な大学教授やアナリストを集めれば良い、というわけではない。スポーツチームを強くするための会議には、そのスポーツに精通したプロフェッショナルを集めれば良い、というわけではない。
一つの分野に精通した人は間違いなくその分野に関する知識は申し分ない。しかし、同じ分野に精通した人間を集めても同じアイデアしか浮かばない。全くの門外漢を会議のメンバーに加える事で、その分野の知識だけでは思い浮かばないような新しいアイデアが芽生えることがあるのだ。

まぁ、異分野の知識が融合することで新しいアイデアが生まれる、という考え方自体は様々な本で書かれているため(僕が読んだ中では「2030年 すべてが加速する世界に備えよ」「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」など。ちなみに、「2030年」ではこのような融合を"コンバージェンス"と読んでいた)、それ自体は目新しいものではないだろう。

著者が危険視するのは、多くの人または組織が自分たちのいる場所に多様性が無いことに気づいていないことなのだ。

本書で書かれているCIAやクラシック楽団の事例からもわかる通り、あらゆる組織は人事の際には「能力重視」であることを公言しているものの、CIAでいうと白人、クラシック楽団でいうと男性、の方が採用されるケースが多かった。これはバイアスによる偏りが発生しているのが明らかなのだが、いずれの組織もその偏りが差別意識のような悪意からきているものではなく、無意識のうちに発生しているものなのである。

この事実は、実に僕らを不安にさせる。

自分たちがいる組織も恐らく差別などはなく人事を「能力主義」を掲げているはずなのだが、実は、自分も含めて無意識で多様性を無視した人選をしているのかもしれない。

今一度、自分のいる組織には多様性があるのかどうか、この本を読んだ後によく観察してみたいと思う。


〜人類は「個」では変わらない〜

さて、話は変わるが、
このnoteにおいても何度か書いていることだが、今の世間は「個」を尊重しすぎる傾向がある。

大企業や政府など、大きくなりすぎた組織の不祥事や犯罪が目につき、「組織」というものの信頼が無くなってきている。
そして、「組織」にいること自体を嫌悪し、「個」で活動することを良しとする風潮が強くなっている。
「個人主義」という言葉が一人歩きして暴走し、「自由」や「権利」を主張して「個人」であることと「好き勝手」「身勝手」であることに見境が無い、なんて場面もよく見聞きする。

個人の主義主張が強すぎて、誰も全体を見れなくなっている世の中であるように僕は思う。

「人口統計学的多様性」も「認知的多様性」も、道徳的倫理的に重要なものであるのと同時に、本書を読むことで多様性を尊重することが組織を強くし、世界を変え、人々を幸福にすることに大いに貢献することがわかるだろう。

歴史的にも、人類が発展してきたのは個々の脳の大きさではなく社交性なのだ。つまりは、色んな人との多様な交流が人類を発展させた。

本書でも、東洋人は「木よりも森を見る」と書かれているにも関わらず、実際には木の枝にしか目がいかない人ばかりになってしまった、と感じる。
閉塞感のある昨今だからこそ、個人ではなく全体を見る目を持つ事を本書を読んで考えるのが良いだろう。

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