【「みんなの意見」は案外正しい】優れた個人を遥かに凌ぐ賢い集団とは
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆
〜「案外」というタイトルがキモ〜
本書は「みんなの意見」いわゆる"集合知"と呼ばれるものがテーマとなっている。
著者によると、高度な知識を持つ専門家個人の判断よりも集団の知識を集約して下した判断の方が優れている、というのである。
昨今、フリーランスといったような働き方がブームになっており、世の中は"個"としての活動が目立つ。もとより、"組織"や"大衆"といったような"集団"に対して不信感や嫌悪感といったものを持っている人も少なくない印象だ。
本書は書かれたのが比較的古いものではあるものの、「みんなの意見」の重要性を改めて考えさせてくれる。特に近年の科学の発展においては「みんなの意見」が大いに機能した、という話は非常に興味深かった。世界中の科学者達が論文を各自発表して、別の科学者がその論文からさらに新たな発見やアイデアを生み出す流れがあるからこそ急速に現代の科学も発展していくというのは、まさに「集団の知恵」が成せる偉業だろう。
しかしながら、著者は「みんなの意見」を手放しに推奨しているわけではない。むしろ、うまく機能しなければいくらでも誤った方向に判断が進むことも考えられる。
タイトルの「案外」というのがキモとなっており、本書では「みんなの意見」がうまく機能した事例と大失敗した事例をいくつも列挙し、「みんなの意見」が大きな効果をもたらすための条件を浮き彫りにする。
〜「みんなの意見」が機能するための条件〜
では、「みんなの意見」がうまく機能するための条件とは何か?
それは以下の4つであると、著者は言う。
・多様性
・独立性
・分散性
・集約性
「多様性」とは、各人が独自の情報を持っている、ということだ。それがかなり突拍子もない解釈だとしてもだ。
斬新な発想や大胆なアプローチは、とんでもない意見から生まれる。
「独立性」とは他者の考えに左右されない、ということである。
会社の会議などは、いかにも集合知が機能される場面かもしれないが、そこに上司などの権威ある立場の人間がいる事で、部下の意見は上司の意見に流される事もある。このような場合、独立性が担保されているとは言い難い。
「分散性」とは身近な情報に特化し、それを利用できるということ。
例えば、何か今後の経済についての予測を立てる場合、経済学者だけを集めて予測を立てても偏りが生じる。経済学者の他に、社会学者、政治学者、統計学者、物理学者、数学者など、様々な分野の知識を集約して、(乱暴に言えば)その平均値を取った予測は、1人の経済学者の予測よりもはるかに正確になる。
「集約性」とは、個々人の判断を集計して集団として一つの判断に集約するメカニズムの存在である。
いくら意見が分散化されていても、最終的な決定がトップの人間個人によるものであれば、それは「みんなの意見」がうまく機能しているとは言い難い。本書におけるNASAの事例が最も顕著であるが、全体の意見を集約集計する仕組みが必要なのだ。
「みんなの意見」は非常に有用であるが、本書で紹介される条件を満たしていないがために、その効果を信用されていない面が多い。キチンと機能する「みんなの意見」を活用すれば、大きな成果が見込めるはずであるのに、その意義や効果は蔑ろにされてしまうのだ。
〜"個"を統合した優秀な"集団"を〜
「会議なんてムダ」「話し合いなんて意味ない」なんていうセリフは、身近でよく聞くセリフだ。
しかし、それは「みんなの意見」の効果とうまくいくための条件を誰も考えずに、形式的なやり方で惰性的に続けていたからなのかもしれない。
全ての判断を的確に行う事のできる個人などいない。1人の人間ができることには限界がある。なのに、「何事にも正しい判断ができる天才」がいる事を疑わない人が多いようにも思う。「みんなの意見」は、個人では到達できない新たなソリューション、イノベーションを生み出す力を秘めている。
しかし、その一方で、集団が誤った方向に進む事もある。SNSでデマが拡散されて社会に悪影響を与える事や、多くの人からの誹謗中傷で人の命が失われる事もある。
この本を読んで考えることは、より良い判断を下す"集団"を作るための工夫だろう。烏合の衆と呼ばれるような集団ではなく、ワンマン経営者のトップダウン組織でもない。
新たな集団のあり方を考え、「集団の知恵」を人類のために活かしていく事が必要なのではないだろうか。
まぁ、本書を読む事でそんな集団を作ることが非常に難しいということも知らされるわけだけども…。
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