見出し画像

【繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史】悲観論者の言葉にご用心(笑)

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

〜合理的な楽観主義〜

「過去に比べれば、現代は良い方向に進んでいる」
このような主張をする本は「ファクトフルネス」「暴力の人類史」に続き3冊目になるか。

著者は自身の事を「合理的な楽観主義者」と表している。
著者の主張はこうだ。
「悲観論者が幅を利かせ、楽観論者が『愚か者』呼ばわりされる世の中だが、世界は今こそが最高の時代なのだ」
著者のマット・リドレーは本書の中で悲観論者に対して怒りすら覚えているようにも思える。

世界は暗くなるような問題ばかり語られるが、多くは良い方向に向かっている、もしくは、悲観論者が言うほど影響は大きくない。
かつてより人々は豊かになっているし、地球環境は良くなっている。
このまま人類が繁栄すれば、貧困や温暖化の問題も解決していく。
本書では、にわかに信じられないようなこれらの楽観的主張を、膨大なデータと資料を用いてを証明している。


〜繁栄のカギは交換と専門化〜

リドレーが人類が繁栄してきた大きな要因が「交換(交易)」と「専門化(分業)」であるとしている。

例えば、1人の人間が自分の食糧を全て自給自足で賄おうとすれば、農耕、狩猟を全て自分でやらなければならない。しかし、2人の人間で農耕と狩猟を専門化し、互いに農耕で育てた野菜や穀物と狩猟で捕らえた獣の肉を交換するようにすることで、互いに生活が豊かになる。さらには、それぞれ専門化された仕事に集中する時間が増えれば効率も良くなり、一人ひとりが自給自足で食糧を生産するよりも総量が増える。すると、次は余剰の食糧ができる事で、狩りの道具を作る者、農業の道具を作る者が現れる。道具を作る者は食糧生産する者との間で、道具と食糧を交換する。道具を得た食糧生産者はさらに効率を上げ、さらに多くの余剰食糧を生み出す事が出来る。余剰食糧を受け取る者の中から、さらに文化を生み出すものが現れる。

こうした「交換」と「専門化」のプロセスを繰り返してきた事で、人類は繁栄してきた。
現代ではインターネットで世界が繋がった事で、さらにアイデアの「交換」と「専門化」が加速していき、ますます人類は繁栄していく、というのが本書の主張の主な流れである。


〜繁栄こそが問題解決のカギ〜

「ファクトフルネス」の著者は「世界が悪くなっていると悲観的にとらえてしまう事で、良くなっていくはずの世界の前進がストップしてしまう」というような事を述べていたが、このリドレーも概ね同じような事を言っていることになる(刊行時期はリドレーの方が先なので、先に言ったのはリドレー、ということになるが)。

リドレーが危惧しているのは、問題解決が誤った方向に向かってしまうことだ

環境問題を解決するために、慎ましい生活に戻してしまったり、貧困問題を解決するために各国の政府が法的に制限したりするのは、不幸な人々を増やすだけである。過去の歴史を振り返っても、かつて大きな問題とされていた事は人類の知識や技術の進歩によって、結果何の問題にもならなかった。人類の繁栄を抑え込むようなやり方は、諸問題の解決には繋がらない。
アイデアの「交換」と「専門化」が進むことで新たな技術や政策、法律が生まれ、世界の諸問題は解決できる。

まぁ、「世界の諸問題の解決のために何か新しいアイデアが自ずと生まれるはずだ」ともとれる主張には、やや強引な感じが否めない。
が、世界を良い方向に進めるために、こういう切り口の考え方も必要なのだ、と感じた。

少なくとも、リドレーが賢いフリをした悲観論者たちに怒りを覚えていることについては、深く共感する。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?