蛸文(たこふみ):読書する人
【銃・病原菌・鉄】あらゆる科学的知見から解き明かす人類史
見出し画像

【銃・病原菌・鉄】あらゆる科学的知見から解き明かす人類史

蛸文(たこふみ):読書する人

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜なぜ人類は異なる歴史をたどってきたのか?〜

ものすごい大著作を久々に手に取り、脳味噌が疲れ切っている。
それだけに、エキサイティングな知的興奮は計り知れない。

さて、著者であるジャレド・ダイヤモンド博士は、本書を書くきっかけとして、ニューギニアで出会った1人のヤリという男性の問いかけをプロローグに書いている。

「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」


その問いかけを聞いた時にダイアモンド博士は答えることが出来なかったそうだ。

なぜ世界は不均衡な状態にあるのか?それぞれの大陸において異なる歴史を辿る事になったのか?
本書はそのヤリの問いかけに対する回答、という事になる。


〜全てはたまたま〜

さて、このような疑問に対して、次のような意見を持つ人がいると思う。
「人種による生物学的な差異によるものだ」
「優れた遺伝子をもつ人種が他の人種よりも先立って発展してきた結果だ」

人種差別を誘発しそうな意見であるが、少なからずこう思っている人もいる事は間違いないだろう。

本書の素晴らしい点のひとつは、この意見を完全に否定しているところだ。

大枠の結論は本書冒頭に書かれているのだが、
歴史が、民族によって異なる経路をたどったのは、民族間の生物学的な差異ではなく、居住環境の差異によるものである、ということだ。

文明が発展していくためには、まず始まりとして植物の栽培や動物の家畜化により、定住して食料を生産することが条件となる。
食物を自分たちで生成し定住する事で、一緒に生活する集団の人数が増える。そして、村のような生活形態に発展する。狩猟採集民族のように常に食物を求めて動く必要がなくなると、集団の中で食料生産する以外の人員が余剰として発生する。その余剰にあたる人員(労働力)が、技術や政治システムの発展に寄与する。
つまりは、先行して食料生産を始めた民族が他の大陸の民族よりも早く文明を発展させる事が可能だった、と言う事になる。本書では、この食料生産の開始に関する考察が大半を占める

では、なぜ食料生産が開始する時期が大陸によって異なるのか。それは、結局のところ環境によるものである。
食料生産が早く開始された地域は、気候が良い、食料生産に適した地形・土壌であった、栽培可能な植物や家畜化可能な動物が多く分布していた、など、自分たちで食料生産するのに適した環境だったのである。
逆に、最近まで狩猟採集民族がいたような地域は、地形が悪い(高低差がある、など)、気候が良くない(雨季が無い、など)、栽培・家畜化に適した動植物が少ない、といった定住して食料生産するのには適していない環境だった。
この大陸ごとの環境の差異が、初めの食料生産開始時期にも大きく影響したのである。

また、栽培・家畜化可能な動植物は、別の地域に伝播していくケースもあるが、その"伝わりやすさ"も食料生産開始時期に大きく影響する。
例えばユーラシア大陸は東西に長い大陸である。緯度が同じであれば気候も似ているため、ある地域で栽培可能だった植物は伝播先の地域でも栽培可能である事が多い。しかし、アフリカ大陸のような南北に長い大陸であれば、緯度が変われば気候も変わり、ある地域で栽培可能だった植物が伝播先の地域ではうまく育たない、という事が多い。
その他にも、大きな山脈があればその山を越える必要があるため、植物や技術などが伝わりにくい、という事もある。

その他にも、大陸の大きさや総人口も食料生産の開始や文明発展に対して影響を与える。
本書は様々な科学的知見を基に、民族ごとの異なる歴史の経緯を紐解いていく。

かなり多方面から考察している本なのだが、一貫して「歴史が、民族によって異なる経路をたどったのは、民族間の生物学的な差異ではなく、居住環境の差異によるものである」という結論は変わらない。

科学者である著者はあまりこの表現を使わないが、大陸により文明の差異がある現状は決して人種の優劣などではなく、言ってしまえば全ては偶然、たまたま、なのである。


〜たまたま優位に立っていた民族〜

本書の「銃・病原菌・鉄」というのは、16世紀における南アメリカ大陸のインカ帝国をユーラシア大陸からやってきたスペイン人が征服する、という話が元になっている。

征服の直接の要因はスペイン人が持ってきた「銃・病原菌・鉄」であった。では、なぜ、インカの人々は「銃・病原菌・鉄」を持っていなかったのか。
その究極の要因は、居住環境という偶然の要素なのである。

島国民族の僕にとっては、あまり人種差別というもの自体生活の中で馴染みのない話ではあるが、この本を読めば、どの人種が優れていてどの人種が劣っていて、なんて事は馬鹿馬鹿しくて言えなくなるだろう。
なぜなら、国や人種ごとの文明の差異は、全てたまたまなのだから

人種に対する様々な先入観を科学的な論証で圧倒する本書。世界の富と権力の不均衡な状態についても、また違った視野が開けてきた。全人類が読むべき名著である。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
蛸文(たこふみ):読書する人
34歳。男性。平凡なサラリーマン。 主に読書記録(2020年3月note開始から158冊分)、たまにエッセイ。ざっと書くので誤字脱字多め。 趣味は読書、映画、ウイスキー、筋トレ、ギター、株式投資、など。 数学を学び直し中。 平凡に暮らす事の偉大さと難しさを考えて生きています。