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[新型コロナウイルス影響インタビュー]第5回 小料理屋の女将の場合(5)──新型コロナで死ぬのも当たり前だと思えば恐くない

友人知人に新型コロナウイルスの影響について聞く趣味インタビュー企画。第5回は銀座で働く小料理屋の女将。vol.5の今回は、新型コロナの影響で危機的状況にある中、懸命に取り組んだことと新型コロナ禍で改めて考えたことについて語っていただきます。
※()からの続きです。

新型コロナ禍でも落語会を主催した理由

──新型コロナ騒動が起こってから、仕事以外でやったことについて教えて下さい。

私は落語が好きで、落語家の知り合いも多いから、新型コロナウイルス騒動前から「龍落語会」という落語会を主宰してるのよ。でもこの新型コロナのせいでいろんなイベントが軒並み中止になったじゃない? 落語も同じで、常連のお客様の三遊亭道楽師匠も仕事がキャンセルだらけになって半月以上高座に上っていなかった。だから、この時節に開催することについては、さまざまなご意見があろうとは思ったけど、3月7日に東大島文化センターで「笑って免疫力アップ/早春の落語会」をやりました。

3.8落語会

▲早春の落語会にて落語を披露する道楽師匠

この会もキャンセルだらけで、いつもより小人数での開催だったけど、道楽師匠も、参加してくれたお客様も喜んでくれたので、やっぱりやってよかったと思ったよ。少しは道楽師匠の助けになれたかなと。この時、初めてネット中継をしたの。知恵をしぼって実現してくれた技術班に感謝だよ。うちの常連さんなんだけどね(笑)。

でも状況は日を追うごとに悪化して、その翌々日の3月9日に道楽師匠が来店したんだけど、4月いっぱいまで、龍落語会以外のすべての仕事がキャンセルになったって言うのよ。さすがに2カ月半も収入が0になったら、ある程度の貯えがないかぎり生きていけないよね。家賃も払えないからホームレスにならざるをえないだろうし。

「乞支援・春の落語会〜噺家を飢え死にさせるな!」を緊急開催

というわけで、4月11日、江東区立森下文化センターで、「乞支援・緊急開催・春の落語会~噺家を飢え死にさせるな!を開催することにしたの。でもこれが大変だった。3月半ばから自粛ムードがどんどん強くなって国や都から3密を避けましょうと盛んに言われるようになった。だから、最初は森下文化センターを借りてリアルでやろうと思ってたんだけど、このご時世だから3密はヤバいと思って、リアルはやめて森下文化センターからオンライン配信にしようと思ってたわけよ。ところが、森下文化センターから「緊急事態宣言が出て閉鎖するから使えません」と言われて。

施設に入れないからもうダメかも、イベント自体やめようかなとあきらめかけたのね。でも、このままじゃ落語家は絶対生きていけない。だからオンライン配信ができる別の場所を借りようと思ったの。

いろいろ考えて、お友達の銀座のクラブのママが神田で「鎌倉楼」というレンタルスペースを経営してたのを思い出したの。そこなら過去2回使ったことがあるし、公共施設じゃないから閉館しないだろうと思って、事情を説明して「1万円しか払えないんだけど、落語会のオンライン配信で使わせてもらえませんか?」ってお願いしたの。そしたら快諾してくれて。そのおかげで開催できることになったのよ。

▼その時の落語会の詳細

Screenshot_2020-05-12 オンライン版★乞支援・緊急開催・春の落語会

オンライン版★乞支援・緊急開催・春の落語会 詳細

当日、会場にいたのは道楽師匠と私とオンライン配信用の技術スタッフと銀座のママだけ。FacebookとYouTubeで配信したんだけど、見てくれた方はけっこういて、免疫力アップになったって喜んでくれたよ。

落語会4

▲落語会はYouTubeでも配信した

──落語家さんへのギャラは?

2月と3月に主催した落語会で、5万円ずつ渡しました。でもこれ以外高座はないって言ってたから、2月と3月の収入はこれだけ、10万円だと思う。家賃にもならない。きついよね。

──だけど落語家さんとしては助かったと思いますよ。それと1万円でも銀座のママの収入にもなるわけだし、お客さんも喜んでくれたなら三方良しでよかったじゃないですか。

そうだね。でもさ、やっぱりやってみてわかったけど、落語ってリアルじゃないと伝わらないものがたくさんあるのよ。落語だけじゃなくて舞台、演劇、コンサート、歌舞伎とか同じなんだけど、その場にいるライブ感って大事で、それはオンラインではなかなか伝わらないよね。

■落語会 福島さん3

▲2019年8月に清澄庭園で開催された龍落語会(撮影:福島孝文さん)

文化・芸能・芸術を守りたい

──なぜそこまで落語家さんの支援をするんですか?

その落語会の第一部で読んだんだけど、論語に「告朔餼羊(コクサクノキヨウ)」っていうがあるのね。一旦死んだ伝統や文化というのは蘇るのはすごく難しいって意味。私個人はいつ死んでもいいんだけど、文化の継承に関しては、本当に人が死ぬと文化も死ぬ。それを歴史から知ってるから、後世に伝えなきゃいけない文化や芸術、芸能がある。それをできる範囲でやりたいわけ。

私は着物も好きで大したものはもってないけど、人間国宝・小宮康孝の江戸小紋は後世に残したい。だから子どもたちに「私が死んだら人間国宝小宮康孝の江戸小紋だけは後世に伝えてね」って言ってるの。沖縄戦によって素晴らしい布とか織物とか一回失われたことを知ってるから、今度は絶対になくしちゃいけないって思ってるの。

■2017年8月19日阿部貴弘 落語会

▲2017年8月の龍落語会にて挨拶する女将

新コロパンデミックで考えたこと

──今回の新コロパンデミックで感じたこと、思ったこと、考えたことは?

新コロが騒がれ始めた2月末くらいから、いろんなことを考えてたなあ。

例えば、3月頭頃に
1.幽霊の正体
2.いじめと隔離
3.全体主義と同調圧力
4.自分の意見に同調する意見のみを信じがち
そんなバラバラな思いつきを手帳に書き出していたところ、たまたまこの記事を読んだのね。

1と3と4に関して参考になりました。

こういう時節はほんとうに言葉を選ぶよね。私の言葉によって、誰かが不快な思いをしませんように、誰かが傷付いたりしませんようにって。でも、私たちは戦前のような、自由に意見が言えないようなことになってはいけないなとも思うわけ。言いたいことがあるけれど、世間で叩かれるから言わない。SNS社会になって、そんなことも増えてきたような気がする。「思想の自由」「良心の自由」「表現の自由」についても思いを馳せていたし、今もそうだね。

死生観:新型コロナで死ぬのはしょうがない

──あと3月半ばくらいにFacebookで新コロに罹って死ぬのはしょうがないみたいなことを何回か書いてたじゃないですか。その真意は?

そのまんまの意味で、すごく申し訳ないんだけど新型コロナウイルスで亡くなる人はどうしたって亡くなると思うのね。そういう運命だったというかね。私の親も子どもも新コロで死ぬかもしれない。もちろんつらいけど、でも人間いつかは必ず死ぬ。それだけは間違いない。そのきっかけがガンだろうが交通事故だろうが新型コロナウイルスだろうが、それで死ぬのは人生においてありうるという覚悟ができてるのね。私はすごい冷たいかもしれないけどね。私自身もいつ死んでもいいしね。

死んだ人がいい人とか悪い人とか関係ない。あんなにいい人だったのになんぜ死んだんだとか、悪い人だったから死ぬのは当然とか関係ない。しょうがないよ。人間、死ぬときはどんな人でも死ぬんだから。モンテーニュは、人は災害や疫病で死ぬのは当たり前だと言ってるんだよね。そしてウイルスを絶滅させることはできない。だから「ウイルスと共存する」という考え方には一理あると思うし、新型コロナで死ぬのも当たり前だと思えば別に恐くもないのよ。

誤解してほしくないんだけど、私は今新コロ感染が広がればいいとはまったく思ってないよ。大事なお客様や友達が苦しむのは嫌だから。

新型コロナが流行して以来、いろんな人がいろんなことを言ってて、もちろんいろんな考え方があっていいんだけど、萬田緑平さんという在宅緩和ケア医の投稿を読んで、私はこの人の考え方に近いと思ったの。

一言でいえば、「ただの風邪で死ぬようだったら、そのくらい自分が弱ってるんだからあきらめよう」とか「死ぬ時節は死ぬがよろしく候(良寛和尚)」ってこと。

いつ死んでもいい

──確かに前からいつ死んでもいいとか早く死にたいとか言ってますよね。いい機会なので女将の死生観についても教えてください。

そう。私はいつ死んでもいい。4月半ばくらいになっても新型コロナについてわからないことが多かったから、とりあえず息子に「おかあさんは十分生きて、十分幸せだった。遺産はないけど、もし何か残ったら、兄妹で等分して」と伝えたの。

ただ子どもの死は本当につらい。子どもが死んだらと想像するだけで今涙が出てくるくらいつらいけど、しょうがない。人間、生きてるってことはそういうことなんだから。

たけぞうはどう思うの? 私は子どもがいるからもう人生やり終えた感があるんだけど。

──僕こそ独身だからこそいつ死んでもいいって感じですよ。

そうか。元カレ、55歳なんだけど去年の夏に子どもが生まれたの。奥さん30代。20歳くらい下。だからたけぞうもあきらめるな(笑)。

──何の話やねん(笑)。だいたい50過ぎたおっさんが結婚できるのって、大金持ちか顔が阿部寛かのどっちかなんで僕は無理っすわ。

■2018年1月13日福島 孝文さん落語会

▲落語会で常連客と(写真提供:福島孝文さん)

新コロで死んだ人はかわいそうで、食べられるために殺された牛はかわいそうじゃないのか

(無視して)私達人間だから死ぬことに関して偉そうに思うけど、もし自分がゴキブリだったらどうよ? ある日突然スリッパで叩き殺されるかもしれないわけよ。ゴキブリは極端かもしれないけど、牛とか豚とか羊とかの食べられる動物の方がつらい気がするんだけどどうよ? この件についてはまだ自分の中で整理がついてないんだけどさ。

──話があらぬ方向へ行ってる気がするけど、言ってることはわかります。僕もそういうことをよく考えるから。

「牛は人が生きるために生まれ、育てられ、殺されるんだからしょうがない」っていう考え方あるでしょ? 新型コロナで死んだ人はかわいそうで、食べられるために殺された牛はかわいそうじゃないのかと。もちろんベジタリアンになるつもりは微塵もないけどさ。

「ガイアの意思だから」と思うと、心安らかに死ねる

──生物としては同じ死だしね。

そうでしょ? 他の生き物にとってはどうなんだろうって思うこともあるね。そういう意味ではさ、新コロのせいで人がたくさん死んで、生きてる人も家の中に閉じこもっている。経済活動がすごく縮小したから、ベネチアの運河が底が見えるほどきれいになったとか、二酸化炭素排出量が激減したことで大気汚染が劇的に改善されてヒマラヤ山脈がくっきり見えるようになったとか、ガンジス川がきれいになったという話があるでしょ。

▲インドのロックダウンでガンジス川がきれいになったことを伝える動画。確かに驚くほどきれいになっている


──いわゆるガイアの意思ね(笑)。このコロナ禍は人間にとっては生死に関わるとんでもない厄災だけど、他の生き物にとってはラッキーですよね。

そう。私にとっては全然ラッキーじゃないよ? お店開けないし収入激減で借金までしてんだから。

──そうだよね。でも地球は人間だけのものじゃないと。

でも私達は何千年も地球は人間のものだと思って搾取してきたところってあるじゃん。でも本当はそうじゃないってことに気付く人も多いんじゃないかな。

だから自分が新コロに罹って死にそうになったら「ガイアの意思だから」と思うと、心安らかに死ねるってことかな。これは他人に言うことではなく、自分の覚悟ね。

──なるほどね。

それでね、きれいなガンジス川の画像を見て私は行きたいと思ったよ。たけぞうもダイビングが趣味ならガンジス川で潜りたくない? 

──思います。今まで恐くてできなかったけど、今なら沐浴したい(笑)。

ね、不謹慎だけど思っちゃうよね(笑)。この相反する出来事にどうやって折り合いつければいいんだろうって考えてる。これは自分はどうしたらいいとかどうすべきかじゃなくて、疑問を提起する感じね。

新型コロナによって店の真の姿が浮き彫りに

あとね、すごく驕った言い方かもしれないけど、新型コロナによって、期せずして今までその店がどういう店だったか、今まで隠れてたその店の真の姿が炙り出されるような気がするんだよね。

──それすげーわかります。新コロでテイクアウトオンリーになっても大繁盛してる店もあるもんね。女将もいろんな形で支援してくれるお客さんがすごく多いし。

そうなのよ。私もいろんな支援がなかったら生きていけないんだけど、本当に皆さん優しい方ばっかりで、こうしたらどうでしょうっていろんなアドバイス、提案してくださったり、再開したら必ず行くので頑張ってくださいと励ましてくれる方が多くて、本当にありがたいね。本当に私は幸せもんです。つくづくそう思うよ。

次回はいよいよ最終回。今、政府に言いたいことと今後の展望についてぶっちゃけていただきます。乞うご期待!
【バックナンバー】
(1)現在の状況や新コロパニックが起こってから今までの動きについて
(2)緊急事態宣言発令以降の地獄のような日々、常連客に助けられたこと、新コロ禍を生き抜くための武器
(3) 休業を決めて、生き延びるためにこれまでやってきた「事業継続のための金策。資金工面」
(4)1日3人限定で営業再開するかも

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