見出し画像

[新型コロナウイルス影響インタビュー]第5回 小料理屋の女将の場合(1)── 一番恐いのは常連さん同士の感染。もしそれで死んじゃったら、つらくて生きていけない。

新型コロナウイルス(以下、新コロ)の影響で仕事や私生活がどう変わったか、今どんなことを考えているか、個人的対策、そして今後のプランなどについてオンラインで身近な友人知人にインタビューする趣味企画。第5回は、小料理屋の女将の龍川優さんの登場です。

龍川さんは銀座で小料理「龍」というお店を営む女将。その前はベストセラーを連発する敏腕書籍編集者で、知り合ったのはtwitterで2011年くらい。その後私がライター、龍川さんが担当編集で書籍の企画が立ち上がり、編集会議提出用に内容を練るも、龍川さんの退職とともに消滅。以来たま~にお店にうかがっているという仲です。

ご存知の通り、新コロの影響をモロに受けているのが飲食店。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている経営者も多いでしょう。龍川さんも例外ではなく、4月8日の緊急事態宣言発令以降、お店を休業しています。オンライン呑みしながらいろいろうかがったのですが、めちゃめちゃぶっちゃけて語っていただいた内容がおもしろく、長くなったので全6回でお送りします。

その1回目は、現在の状況や新コロパニックが起こってから今までの動きを語っていただきました。
(取材日:5月6日)

【プロフィール】たつかわ・ゆう
1967年福井県出身。1989年、早稲田大学政治経済学部卒業後、Z会に入社。宣伝・広報担当後、中高生向けの月刊誌編集に携わる。1994年アスキーに転職、雑誌の編集に携わる。出産退職後、フリーで編集・執筆業を行なう。2009年に中経出版に転職、書籍編集者として活躍。2012年、退職して長年の夢である小料理屋の女将になるべくいろり庵 然に入社。修行を重ね、ついに2014年、銀座に「小料理 龍」を開店。これでほんとに銀座で経営が成り立つのかと心配になるほどの安さとうまさを誇り、隠れ家的な立地にも関わらず、連日主に福井県出身者と出版関係者でいっぱいに。女将のキャラと安くておいしくて身体によさげな料理と酒で多くのファンに愛されている。9割が常連客だが、一見さんでもあたたかく迎えてくれる。元敏腕編集者だけにめちゃくちゃ高くて深い教養をもつ。2020年3月、新型コロナ禍の渦中、6周年を迎えた。現在緊急事態宣言の延長にともない、営業自粛中。
●小料理 龍 東京都中央区銀座8-2-8 高坂ビルB2F 03-3571-3800
●ブログ 「銀座 小料理 龍」の細腕繁盛記 
Facebook

最近の状況

──先日、緊急事態宣言が延長されましたが、最近、仕事とかプライベートはどんな感じですか?

政府の緊急事態宣言発令を受けて、4月8日から「小料理 龍」は休業してます。

休業して2週間は、恐くて恐くてしょうがなかったよ。「もし私の店でお客様が新型コロナにかかっていたらどうしよう」とか、「もし資金が底をつきて店を再開できなかったらどうしよう」とか。あの時点では1、2ヶ月ならまだ貯金もあるし支払いもできるけど、これが1年と言われたら無理だよね。小さい呑み屋で1年分の資金もってる店ってそんなにないんじゃない?だからすごく恐かった。

その恐さを忘れるために、毎日お酒をかなり呑んでた。1日でウイスキー半分とか、四合瓶1本とか。2週間経って、どうやら私の店で新コロに罹った人はいないらしいとわかって心底安心した。最近は資金もなんとかなりそうな見通しがついた。それからはもう毎日呑まなくても眠れるようになったのよ。

──そんなにつらかったんですね。営業再開については?

当初は5月10日まで休業しようと思ってたんだけど、また緊急事態宣言が延長されたからさ。どうしようかなって悩んでるところ。

──今、一番困ってることは?

店を開けたーい! 仕事したーい! みんな(常連客)に会いたーい!

2016年8月福田 滋2

▲新型コロナ前は連日常連客で賑わっていた(写真提供:福田滋さん)

毎日していること

──まさに魂の叫びですね……今は毎日何してるんですか?

家にいる時間が増えたから、料理、来たるべき営業再開に向けてメニュー開発をしてる。自分自身も楽しいし、子どもたちも毎日おいしいごはんが食べられるって喜んでるよ。あと包丁研ぐとか。家にいるのは好きじゃないタイプだから、家事代行の登録とか、料理のデリバリーとか、各種助成金・融資の手続きのために役所に行くとか、意外と忙しくてステイホームしてない(笑)。やっとその融資の手続きが一段落して、とりあえず資金的な目処がついたからほっとしてるところ。でも今に至るまではけっこうたいへんだったのよ。

新コロ発生から現在までの流れ

──では、新コロが報道され始めた1月から現在までの龍川さんの仕事と生活の動向の変化ついて教えてください。まずお店の方ですが、1月頃はまだ全然影響なかったですよね?

1月は例年以上にお客様が来てくれて、売り上げは昨年比150%くらいだったの。毎年1月はお客様が少なくて、正月気分でぼんやりしているんだけど、ちょっと今年は様相が違いました。思いがけずたくさんお断りしてしまって申し訳なかった。その余裕があったから、その後多少は助かったわけ。2月の収支はほぼトントン。

2019年5月24日森和夫1

──今回インタビューするに当たって1月から5月までの女将のFacebookの投稿を読み直したんですが、2月21日に初めて新コロ関係の投稿をしてますね。

そうね。この頃から影響出てきたね。「会社から呑み会禁止令が出たからキャンセルします」という連絡が相次いで、客足が少なくなった。

あとその頃から新コロのニュースが増えてきたんだけど、まだ何が何だかさっぱりわからなかった。いろんなイベントを主催する予定だったんだけど、中止した方がいいのか。でもイベントがダメなら店の営業もやめたほうがいいんじゃないの? とかね。でもさ、せっかく準備したイベントを中止するのはしのびないし、店を休んじゃったら、収入が途絶えて、新コロにやられるより先に確実に死んじゃうとか、この時期は何かと悩ましかったよね。

2月末にあるお客様から電話がかかってきて、「ママんとこはコロナで店閉めたりしないの?」って聞くから、「店閉めたらコロナで死ぬ前に飢え死にしますから」って答えたの。この時期はうちに限らず、たぶん個人営業の店は新コロで閉めたりできないと思ってた。

3月の売り上げ、前年比3割減

だけど2月はまだ、新コロ騒ぎの中でも、毎日誰かは来てくださっていたの。ひどくなったのは3月以降よ。ほぼ毎日予約なしで、ほとんどお客様が来なくなってがら空き状態。

3月7日に私の誕生会をやったんだけど、例年の誕生会とは思えないくらい、少なかった。それでも数十人ほど来ていただいたからありがたいんだけどね。

3.6誕生会2

3.6誕生日会1

▲女将のお誕生日会にて(写真提供:藤池千恵さん)

──3月16日には6周年記念日を迎えて、20日に6周年記念イベントを開催してますね。こんな新コロ禍の渦中に誕生日と6周年記念日を迎えた心境は?

不安と恐怖が席巻する時世で、うちも青息吐息ではあるけど、何とか6周年を迎えられたのはひとえにご来店くださったみなさま、応援してくださったみなさまのおかげと感謝の気持ちしかなかったよね。

記念イベントは毎年やってるからこんなご時世だけどやんなきゃねって感じ。イベントと言っても特に何をするわけでもなくて17時から23時まで、お酒、料理ともに1品500円で提供するっていうお客様に感謝する日なの。この日は来られないお客様も多いだろうからって初めてzoomでオンライン中継もやったのよ。新コロでもなかったらzoomとか使わなかったから、今回新コロのおかげで新しい経験をさせてもらったよね。もちろんそれ以外につらくて大変なことの方が多いんだけどさ。

6周年記念2

▲6周年記念にて

去年の5周年は派手にやったのよ。120人くらい入る会場を借りて、論語の先生や落語家に来てもらって。楽しかったなあ。今年は6周年だし新コロだからそれなりにって感じだね。

あとは3月半ばくらいに、キッチンペーパーが買えなくなって困ったなあ。たぶんトイレットペーパーの代用だと思うんだけど、変な買い占めは本当に困るよね。キッチンペーパーなしで営業できなくもないけど、衛生を保とうと思ったら手間と経費がかかって大変なことになるから。お願いですから、必要以上の買いだめはやめてください、って思った。

3月末頃からテイクアウトをやってることをアピールすると同時に、「こうなったら借金しかない!」と思って、助成金や融資について調査し始めました。

──3月当時、まだ何の補償もなかったから不安だったよね?

そこが私だけじゃなくてみんな不安だったわけよ。お店で感染者が出ることを思えば休んだ方がいいけど、そうしたら私が生きていけない。本当にこの先どうしたらいいんだろうって……。

精神的に一番恐かったのは3月終わりから緊急事態宣言が出るまでの間。小池都知事が「3密ノー!」って呑み屋を名指しで自粛しろって言ったでしょ? 呑み屋なんだから3密に決まってんじゃん。特にうちは小さい呑み屋で9席しかなくて単価も安いから、1日9人来てくれないと、つまり3密にならないと経営が成り立たない。だから「3密ノー!」って言われるってことは「死ね」って言われるのと同じことなのよ。やっぱり「3密ノー!」でさらにお客様が激減したしね。

2014年クリスマス会2

         ▲2014年のクリスマス会にて筆者と

4月は店史上最悪

──4月に入ったらさらに厳しくなった?

最悪だったね。大赤字。

──店はさらにガラガラに?

それがね、4月3日はお客さんがたくさん来たし、テイクアウトしたいという人もいっぱい来たから、めちゃくちゃ忙しくて大変だったの。それが私の店が賑わった最後の日。緊急事態宣言前にお店に行ってやろうと思ってくださった方が多かったんだと思う。

でもあの日はありがたかったんだけど、同時にほんとに恐くて。こんなに人が多かったら、お客様同士で感染したらどうしようって。3密どころじゃなかったから。誰も感染してなかったからほっとしたよ。

──緊急事態宣言でトドメって感じですか?

困ったのはその直前。3月末頃からいよいよ緊急事態宣言が発令されるという噂が出始めたよね。そうなったら店は休業しようって決めてたの。でも4月1日からとか2日から出るらしいって噂が出回ったじゃん? 結局デマだったんだけど。それがやきもきしてすごく嫌だった。結局いつ出るんだって。

今、一番困るのは、いつどうするかが見えないってことじゃん。こないだ緊急事態宣言が延長されて、一応は5月末までってことになってるけど、具体的に「いつからどうします、何日まで我慢してください」というのがないのがみんな一番不安なんじゃないの? 例えば何かの試験だって、試験日が決まってるからみんなそれを目指して頑張れるわけじゃん。試験はいつになるかわからないけど勉強頑張ってねと言われても、頑張れる人はほとんどいないでしょ。

で、結局前々日前くらいに、安倍さんが「4月8日から緊急事態宣言を出します」と発表したよね。いろんな批判はあるけれど、これに関してはすごくありがたいと思ってる。本当に日本の根回し文化バンザイだよ。だって「今すぐ緊急事態宣言を出します、店閉めてください」って言われても困るわけよ。だから私はありがたかったよね。かといって自民党支持じゃないんだけどね。

で、4月8日に緊急事態宣言が発令されてから休業、現在に至るってわけ。

画像7

▲女将はよく自らイベントを立てて、お店の外でも常連客と楽しいひと時を過ごしていた(2019年12月に大井ふ頭中央海浜公園で開催したバーベキューイベントにて)

もしお客様が感染して亡くなったら生きていけない

──緊急事態宣言が出たら店を休業しようと決めてたってことですが、なぜですか? 昼間だけとかお酒の提供は19時までとかって時短で営業してるレストランや呑み屋、いっぱいありますよね?

いや、だいたい今ね、私の店がある銀座はあんなにたくさんいた人が見事に消えちゃって街ごとシャッター街になってるから、店を開けたところで誰が来る? って感じなんだよね。ほんとにすごいよ。それが大きいのよ。だから私の店含め、銀座で開けてる呑み屋はほとんどないと思う。あと地下2階でテイクアウトも無理があると思うしね……。

でもね、休業してる最大の理由はうちに来てくれたお客様が感染するのが恐いから。うちの店って小さくてカウンター9席しかないから3密そのものだし、会員制といってもいいくらい、常連さんしかいないから。もし感染したら感染経路なんて100%わかっちゃう。その常連さん同士で感染することがすごく恐いし、もしそれで死んじゃったりしたら、もう私、つらくて生きていけない。それが一番恐いのよ。

今回の新コロ禍で初めて、自分で店をやるってことはそういうリスクもあるんだとわかったよ。もちろん自分の場を持つってことは素晴らしいことで大好きなの。この6年間で私の店でたまたま出会ったお客様同士で付き合う人や結婚する人や仕事する人がたくさんいたから、それがすごくうれしいの。誇りにも思う。

──僕も龍でやったイベントでたまたま出会ったサラリーマン山伏の東さんにインタビューして記事書けたしね。(その時の記事↓)

そうだったよね。私もうれしかった。でもたまたま出会ったお客様同士が新コロに感染して死んじゃったらもう耐えられない。私が生きていけない。

──なるほど……だから軽々しく店を開けられないのか。

そう。開けられない。

──でもさ、椅子の間隔を空けたり、女将と客、客と客との間にビニールシートとかアクリル板を設置するなどの対策すれば大丈夫だとは思うけどね。

でもそれでも100%安全とは言い切れないからね。やっぱり自分のことより大切なお客様の安全の方が大事なのよ。

に続く)

次回は、緊急事態宣言発令以降の地獄のような日々、お客様に助けられたこと、新コロ禍を生き抜くための武器などについて語っていただきます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?