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[新型コロナウイルス影響インタビュー]第5回 小料理屋の女将の場合(4)── 1日3人限定で営業再開するかも

友人知人に新型コロナウイルスの影響について聞く趣味インタビュー企画。第5回は銀座で働く小料理屋の女将。vol.4の今回は、緊急事態宣言で休業してから生き延びるためにやった4つのことのうち、②収入を増やす、③支出を減らす、④支出を遅らせる ために取り組んだことついてぶっちゃけていただきます。
(3)からの続きです。

収入を増やすために実施したこと

─4月8日の休業後からやったという4つのことのうち、②の「収入を増やすため」にやったことは? 

4月24日に神田税務署に行って「期限付き酒類小売業免許」を申請して、5月1日に許可が降りたの。これは本来、法律で飲食店でお酒を売ったらいけないことになってるんだけど、今は非常時だから臨時で飲食店で酒を売ってもいいという許可証。これ、融資の申請に必要な書類を取りに税務署に行った時に知ったのね。行かないとわかんなかったから、やっぱり私は直接行く派(笑)。

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▲期限付き酒類小売業免許


──じゃあこれからお酒のテイクアウトをする?

するする。私、福井のすてきな日本酒をたくさんもってるから(笑)(※女将は福井県出身。お店の常連客も福井出身者が多い)。でもね、そこで問題なのはお酒を入れる容器なのよ。

──買いに来る人が容器を持ってくればいいんじゃないの?

それでもいいんだけど、衛生問題が一番恐くて。万が一、食中毒とか出たらと思うと恐いからさ。お客さんが持参してなくても売れるようにしなきゃいけないから、準備だけは必要なのよ。

だからこの間、浅草橋のシモジマ(包装用品やラッピング用品などの店舗向け用品の販売店)に行ってきたの。店内はテイクアウト用品であふれていて、いかにもコックさん風の人がいっぱい買いに来てたよ。基本的に普通のカップ容器は安いんだけど、でもやっぱりちょっと見た目とか質のいい容器は高いね。だから安いやつを少し買ってきた。

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▲シモジマでテイクアウト用の容器を購入


業態転換支援補助

──容器を買わなきゃいけないとなるとまた出費がかさむね。

それがね、税理士さんからメールが来て、そのための助成があるらしいのよ。東京都中小企業振興公社がやってる「業態転換支援補助」ってやつで、「新たに取り組むテイクアウト宅配等に必要になる食器などの購入経費の一部を助成」してくれるらしい。最大100万円だから大した金額じゃないんだけどね。ありがたいんだけど、容器を買い込んでこれも申請しなきゃいけないのかなぁ。

ちなみに、テイクアウト用の容器関連でおかしい話があって、私の行きつけのバーはア◯クルに容器を発注しただけど、容器はあるけど蓋が品切れとか、その逆とかもあるらしい(笑)。いろんな混乱が起きてるみたいだね。

1日3名限定で「小料理 龍」再開するかも

──酒の量り売りするなら、一緒に料理のテイクアウトもすればいいじゃん。

うーん考えてないわけじゃないんだけどね。さっきも言ったけど、店を開けても銀座に人がいないからね。あと◯月◯日やりますって日にち決めて告知して予約取った方がいいのかなとも思うんだけど、あんまり日お客様が集中するのも感染のリスクが高まるからね……ほんとに難しい。

──採算的に難しいよね。

そうね。いくら仕入れればいいのか、めちゃ難しいのよ。ほんと普通に店やってる方が楽だったわ。

それと、そもそも飲食店って、料理だけじゃなくて、店のオーナーとか、雰囲気とか、そこに集う人とかに魅力がある場合も多いから、持ち帰りしてもらった場合、店内飲食時と同じ価値はないと思うんだよね。

だけどそうも言ってられないし、料理の持ち帰りはそれこそ新コロ騒動前からやってるから、予約制にしてやろうと思ってる。

で、お酒と料理のテイクアウトをやるなら、5月18日(月)から1日3名限定予約制で、東京都の要請に従ってお酒の提供は19時まで、20時閉店で、お店を再開しようと思ってる。今後の感染者増加等の状況次第で延期の可能性もあるけどね。そもそもお店の再開は考えてて、緊急事態宣言延長になったからどうしようか悩んでたんだけどね。今の状況を考えたら、1日3人限定で感染防止の対策をして20時までなら大丈夫なんじゃないかなと。

──マジっすか! それは常連さんは喜びますね。

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▲5月18日から1日3名限定、時短営業ながらまた女将に会えるかも(写真提供:福田滋さん)

すごく悩んだんだけどね。18日から開けたところで誰が来る? って感じだし。もし店を開けて3人くらいでやっても準備ばかり大変で身入りがあまりないし。

──なるほど。費用対効果的にやる意味あるのかと。

そう。たぶん3人限定だと収入的にはほとんど意味ないんだよね……。


東京都の感染拡大防止協力金

あと申請関係では、これから東京都の「感染拡大防止協力金」に申請する予定。すぐにでも申請したかったんだけど、前回でも言ったけど必要書類の都の飲食店営業許可書の有効期限が切れてたのね。再検査を受けて14日に再交付してもらえる予定だから、そうなればすぐ申請するつもり。

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────そうなんですね。協力金は、飲食店は5時から20時までの短縮営業ならもらえるし、そもそも女将は1ヶ月完全休業してるわけだからもらわないと損だもんね。協力金ていくらだっけ?

1店舗50万。

──焼け石に水じゃない?

いやいや、50万はかなり大きいよ。1ヶ月にかかる総経費って、店の家賃、光熱費、税理士さんへの支払いとかでだいたい30万円くらいなのね。だから都から50万もらえたら1ヶ月完全に休んでも、1日3人限定で20時までの営業でも、私の生活費も出るわけ。ワンオペだからね。これで人を雇ってたら50万じゃとても無理だけどね。

でもその50万で何ヶ月過ごせるかが問題なわけよ。せいぜいもって2、3ヶ月なわけ。それ以降は赤字。通常営業できる時期が全然見えなくて困ってて。だからとりあえずお酒や料理のテイクアウトと1日3人限定、20時まで営業で何とかしのぐしかないって感じだね。

アルバイト探し。家事代行に登録

──あと融資の申請以外でやったことは?

融資の申請と並行して、店を閉めてると収入ゼロだから、少しでもお金を稼がなきゃと思ってバイトをいろいろ探したの。最初に行ったのは4月14日、アルバイトの面接。これは後日いわゆるお祈りのお手紙(不採用通知)が来た。その後、4月30日に家事代行業者に面接に行って登録したのよ。

──登録した業者との契約はどんな感じなの?

個人事業主としての業務委託契約。公開募集時給は1,500円。その内、私がもらえるのは時給1,070円。そんなもんかなと。その時給も自分で決めていいのよ。会社の人が最初はみんな1,500円くらいからと言うから、私も1500円で設定したの。

──え、銀座で6年もお店やってるプロだからもっと高く設定してもいいのでは。

でも家事代行をやるのは初めてだからさ。やるのは料理だけじゃないしね。

──登録して依頼は来たんですか?

それがすぐ1件予約が入ったの。全然知らないよそのお宅でお料理だから緊張するなあと思いつつ、5月1日に行ってきました。

──具体的にはどんなことをしたんですか?

幼稚園入園のはずが新コロの影響で行けてなくてストレスがたまっている3歳児と遊びながら、3時間でお客様のリクエスト7品+サービスで3品作って、おまけでアボカドの種茶も出してあげた。

──すごい豪華ですね。

材料費約5,000円+私の労賃約5,000円=約10,000円で、たぶん家族3人で3日は食べられそうな感じだから、けっこうお得なサービスだよなあって感じですな。

──めちゃくちゃリーズナブルですよね。

私の利益はほぼなし(笑)。

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──サービスしすぎっすよ。実際にやってみてどう思いました?

率直な感想としてはおもしろかったし、やったことがないから勉強になったよ。確かに新コロはめちゃくちゃ大変だけど、新しいことをやれてめちゃめちゃ勉強にもなってる。それは各種助成金や融資の申請作業も含めてね。

あと、今緊急事態宣言中で旦那はテレワーク、子どもは学校休みっていう家庭も多いでしょ。それで毎日3食作って煮詰まってるお母さんが多いから、そこをうまく助けてあげたいなと思った。

──いつもいない旦那や子どもがずっといるわけだからね。

そうそう、すごいストレスだと思うよ。特に子どもって3日雨が続いて外に出られなかったら、それだけでおかしくなるってことが経験上わかってる。さっき話した家事代行で行った家庭は3歳児がいるんだけど、それがほんとによく伝わってきて、そこをうまく助けてあげられればなと思ったの。ごはんを作ってもらえるだけで全然違うんじゃないかな。だから気軽に頼んでほしくて安くしてるの。

──ほんと女将ってお人がよすぎますね…。家事代行サービス会社からはその後も依頼は来てますか?

いや、その1回だけでその後はないね。利用者としては贅沢に感じるからかな。だけど3時間で10品作って1万円で、3日くらい食べられるからお得だとは思うんだけどね。

──すごいお得だと思いますよ。あとは今、緊急事態宣言中で家にいる人が多いってのもあるんじゃないですかね。その家事代行の依頼って、会社を通さなくても、知り合いだと直で受けるんですか?

そう。知り合いから直で頼まれればやりますよ。料金は応相談だけど、基本的には同じ1時間1,500円かな。

料理のデリバリー

──他には?

料理のデリバリーを始めたのよ。超予約制なんだけど。

──予約は何日前で、いくらからとか、配達エリアとかは?

作ってほしいものにもよるけど、予約は前々日までにしていただけると助かるかな。決まったメニューはないからおまかせでもいいよ。配達エリアは23区内。プラス交通費、電車代ね。料金は、料理は銀座の店で作ってそこから配達するから、1,000円でもってきてって言われても困るのね。だから5,000円からやろうと思ってる。

1人だと高いから、例えば阿佐ヶ谷近辺だとしたら、注文を何人かでまとめてトータルで5,000円くらいになれば全然OK。そしたら1人当たりの料金も下がるでしょ?

──なるほど。だったら銀座まで行かなくてもいいから楽っすね。女将の料理、めちゃうまいのでぜひお願いします。実際に注文って入ってるんですか?

5月5日に1件入ったよ。お店の常連さんがオーダーしてくださってね。Facebookに家事代行に行ったという投稿をしたら、うちも女将の料理を持ってきてほしいと言われたから、料理を作って持って行ったの。

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▲バターチキンカレー、りんごとハムのキッシュ、ローストビーフ豚肉とドライフルーツの赤ワイン煮などデリバリーした料理の数々(写真提供:谷口敏子さん)

5/5 料理デリバリーをオーダーした谷口敏子さんの感想
きょうは銀座小料理「龍」の女将にお願いしてお料理のデリバリーをしていただきました。
久しぶりにそろった家族5人みんなで、「旨すぎる」「ヤバい」と、ほかに何も言葉がないのかって美味しさです。
ごちそうさまでした。
わがままきいていただいてありがとうございました。
明日も明後日も食べられます。
お店が再開したら、また伺います。


日雇い派遣会社にも登録しに行ったけど反省

──ほかに応募したアルバイトはあるんですか?

あとはね、私でもシール貼りみたいな単純作業くらいならできるかなあと思って、4月24日に日雇い派遣の業者に登録しに行ってきたの。そしたら、下記のような人は日雇い派遣できないって法律で決められてたの。

[1]60歳以上
[2]雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
[3]生業収入が500万円以上且つ副業として日雇い派遣に従事する者
[4]世帯年収の額が500万円以上の主たる生計者以外の者

これを知った時、申し訳ないと思ったし、すごく反省もしたの。

──なんでですか?

私が参入したらそれしかできない人の職を奪うことになるから。まだ私は家事代行、料理、ベビーシッターとかできることがいっぱいあるから、どんなに困ってもシール貼りとかの単純作業は奪っちゃいけないと今回初めてわかったの。私はまだそんなに死ぬか生きるかくらいのレベルでは困ってないしね。

ただ、その一方で、生業収入や世帯収入が500万円あっても新コロで失業して、とりあえず何とかして収入を得なくてはならない、今日をつなぐために働きたいと思っても働けないってことだから、そういう人たちのために何とかしてほしいとも思ったね。

──しかし3月末あたりからすごく精力的に動いてますよね。マジですごいっす!

だって動かないとお金もらえないんだもん。そしたら生きていけないでしょ? だからステイホームの皆さんには申し訳ないけど、休業中でも外を駆けずり回ってたね。でもいろいろ勉強になってよかったよ。

給付金関係には未申請

──今、給付金関係も出てきてるよね。持続化給付金の申請は?

まだ何もやってないよ。とりあえず私は融資の目処がついたから、私よりもっと困ってる人に先に譲ろうかなと。あと、給付の条件が、「前年比の売り上げが半減」だから4月の売り上げ表を税理士さんに作ってもらってて、それができたら申し込もうかなと思ってる(※5月12日に申請完了)

──10万円の特別定額給付金は? 

まだ。でも当然申請はするよ。10万円もらえたらもちろん店の維持費に使います。何か買おうという値段じゃないよね。

そう言えば、この国民一律無条件10万円給付の前って、条件付きで世帯につき30万だったじゃん? だから4月半ばに私は30万円給付もらえるかなと思って調べてみたの。ところが収入≒売上だった

「小料理 龍」は年間約1,000万円の売上で、その原価率は50%を超えるので、だからおいしいに決まってるんだけど、500万円の粗利でそこから店の家賃・光熱費200万以上のぞいたら、私の年収は300万以下。でもその場合は年収1,000万円ということになるみたいなのね。それがわかった時、私、低収入だと思ってたけど、実は高収入だったんだ、知らなかったわ~って思った。

──毎回おいしくてめちゃ安いと思ってましたが、原価率50%超えてたんですね。もちろん女将の腕もあるけど。もっと原価率抑えてもいいのでは。

でもお客様に安くておいしいものを提供してあげたいじゃん。だから変えるつもりはないよ。店がある限りはね。

③支出を遅らせる:国民健康保険の支払い猶予

──マジで人がよすぎっすよ…。休業してからやったこと③の支出を遅らせるでやってることは?

国民健康保険の支払いを、区役所に電話して「収入がないから払えません」と言ったら、猶予してくれた。年金は4月10日に国民年金免除・納付猶予の申請書類を送ってもらったんだけど、前払いだから無理っぽい。携帯代とか光熱費もドコモとか東京電力、東京ガスに言ったら支払い猶予してくれるんだけど、まだやってない。

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▲最近は常連客とのオンライン呑み会もよくやっている


④支出を減らす:店の家賃が半額に

──④の「支出を減らす」は?

3月末に店の大家さんが家賃を半額にしてくれたのよ。しかもこっちから家賃交渉してないのに。家賃交渉しなきゃしなきゃと思いながら、同じビルの1階のバーのマスターと「どうしよう、家賃減額交渉やりますか?」って相談してたら、大家さんの方から「家賃、半額でいいです」と申し出てくれたの。4月は1円もお金を稼げてないし、そもそも銀座にしては家賃がめちゃくちゃ安いんだけど、半額でもすごくありがたいよね。

──むこうから言ってくれるなんて、めちゃくちゃいい大家さんですね。

でもね、3月末くらいに同じビルに入ってる別の呑み屋のおねえさんが家賃交渉したら、「ビタ1文、絶対に負けない」って言われたらしいのよ。たぶん4月に緊急事態宣言が出て変わったじゃない?

──なるほど。ほかにやったことは?

クレジットカードの見直しも。稲門政経会(早稲田大学政治経済学部OBの会)の年会費を払えないから休会して、月3,900円の年会費がかかる早稲田カードは解約した。そもそも使ってなかったし、会費が後輩の奨学金の一部に充てられるからやってたんだけど、別の方法で寄付はしてるからこれを機会にやめようと。

あと店を閉めてからは、とにかく節約を心がけて、子どもらの食費含めて1日の出費を1000円以内に抑えようとしてた。1,000円以上使ったら、こんなに使っちゃった、ショック! みたいな。

そんなもんかな。私、そもそもそんなにたいしてお金使ってないのよ。

ようやく今は落ち着いた

でもまあとにかく新コロは大変だけど、そのおかげでいろいろ新しいことを学べたし、いままでやったことのないことにチャレンジできたからそういう意味ではよかったよ。

──今は悲壮感はあんまりないって感じですね。困ってることも特にはない?

あんまりないね。ごめん、困ってる話が聞きたいのかもしれないけど、残念ながら現時点ではみんなが心配してくれるほどには困ってないから。休業してしばらくはどうしようと不安だったけど、いろんな支援策が出てきて、申し込んで、助成や融資が受けられる見通しがついてちょっとお金の不安がおさまったからね。

──いや、もちろん困ってる話もあれば聞きたいんですが、困ってないならないで全然いいんす。今のありのままの状況と正直な気持ちを聞きたいので。じゃあ今はけっこう余裕が出てきたんですね。

そうそう。そうなってからはAmazonプライムビデオで映画見るとか、PayPayを使ってみるとか、串カツテイクアウトするとか、家事代行の研修に行くとか、新コロがなければやってみなかったこといろいろにチャレンジできて、めったにない休暇を過ごしているって気もしなくもない感じで生きております。こんなゴールデンウイークも一生に一回くらいはあってもいいのかなあってね。

──ちなみにAmazonプライムビデオでは何を観たんですか?

「ヒトラー最後の12日間」、「テルマエ・ロマエ」、「踊るマハラジャの3本」。今みたいに時間がなければ観られない長い映画をね(笑)。


次回は仕事以外で取り組んで来たことについて語っていただきます。乞うご期待!

【バックナンバー】
(1)現在の状況や新コロパニックが起こってから今までの動きについて
(2)緊急事態宣言発令以降の地獄のような日々、常連客に助けられたこと、新コロ禍を生き抜くための武器
(3) 休業を決めて、生き延びるためにこれまでやってきた「事業継続のための金策。資金工面」

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