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[新型コロナウイルス影響インタビュー]第5回 小料理屋の女将の場合(最終回)──「人はパンのみにて生きるにあらず」「自分の言葉で語れるリーダーじゃなきゃダメ」

人知人に新型コロナウイルスの影響について聞く趣味インタビュー企画。第5回の銀座で働く小料理屋の女将の巻もいよいよ最終回。今回は、飲食店のオーナーとして安倍政権に対して言いたいことと、そして今後のプランについて語っていただきました。
(5)からの続きです。

政府に言いたいこと

──新型コロナ感染拡大の影響をモロに受けた業種である飲食店オーナーとして、新型コロナ流行の安倍政権の一連の対応・対策についてどう思う? 政府に言いたいことは?

楽しくないからあんまり政治的発言はしないようにしているんだけど、日本政府も「自粛しろ」ばっかり言うだけじゃなくて、声明でも出すべきだと思うよ。新型コロナ騒動が始まってからずっと思ってて、これまでも散々言ってることだけど、ほんと文化が死に瀕してる。マジでこのイベント自粛は芸人や演劇人や音楽家といったアーティストに死ねと言っているものだと思うよ。

「人はパンのみにて生きるにあらず」なわけよ。人間はただ心臓が動いていれば生きていると言えるんじゃない。私たちは芸術や文化がなければ、生きていけない。どんな時でも笑いがない人生に価値はない。私はそう思っているんだけど、日本政府は芸術・文化は「不要不急」と切って捨てたみたいだよね。

前にも言ったけど、一回廃れた文化はなかなか元には戻らない。個人にできることは少ないけれども、私は文化を守りたい。だから「坐して死を待つよりは出でて活路を見いださん」ってことで、落語家の窮状を見かねて落語イベントを立てオンラインでやったわけ(Vol.5を参照)。

■2018年1月13日福島孝文さん2

▲龍川さん主宰の龍落語会で落語を披露する三遊亭道楽師匠。龍の常連客でもある(撮影:福島孝文さん)

政治家も血を流して範を示してほしい

フリーランスへの支援ももっと早く出してほしかったよね。もちろん私にできることは可能な限りやるけど、やっぱり個人でやれることには限界がある。こういう危機のときこそ政府が働くべきだと思った。

前回(Vol.5)でも言ったけど、三遊亭道楽師匠の話に戻すと、2月からはほとんど仕事がないというのに、3ヶ月経ってもまだ1円の助成金もない。これじゃ生きていけないよね。せめて上に立つ政治家のみなさんが「私たちも赤字覚悟でこれだけやっていますので、もちこたえてください」と言ってくれれば、もう少し頑張ろうかという気になるんだけどね……。

「ノブレス・オブリージュ」って言葉があるじゃない。日本には、庶民が痛みを持つ時に、自らがもっとも痛みを持とうという政治家はいないのかなあって思うよね。

──ほんとにマジで同感です。とにかく支援が遅かった。みんな生きてるだけで毎月けっこうな金が出ていくわけだから。

ほんとにそう。スピードの問題ってすごく大事で。4月末の支払いができなくて困るって人、いっぱいいたはずだよね。

──実際、もう店を閉めざるをえないとか会社を畳まざるをえないっていう人、いっぱいいるからね。

そうそう。金額よりもスピードの問題よ。

■2018年4月30日鮨の会にて/出張寿司職人の宮本けんこうさんと着物&落語好きの金子一光社長/撮影:伊賀光生

▲龍川さんは小料理屋の切り盛りだけではなく、儲け度外視の楽しいイベントをいろいろ主催している。2018年4月30日鮨の会にて、出張寿司職人の宮本けんこうさんと着物&落語好きの金子一光社長と。(撮影:伊賀光生さん)

非常時は自分の言葉で語れるトップが必要

──そう考えるとやっぱり安倍政権はダメだと思う。安倍さん以下、政権の中枢がボンボンの集まりだから庶民の痛みがわからない。

平時はダメな人をトップに上げろっていうのはありがちな論理で、安倍晋三さんは平時だったら別によかったんだと思うのよ。平時は有能じゃなくてもいいから。でも今は非常時

──女将はどういう人なら今の非常時にふさわしいトップだと思う?

とにかく自分の言葉で語れる人じゃないとダメ。私達は自分で判断することを迫られてる。けれどもそれを迫ることができるリーダーは、自分で言葉を語れる人だけだと思うんだよね。これまでの歴史を見ると、イギリスのチャーチル首相は第二次大戦時じゃなかったらおそらく首相になってないだろうね。

今の日本は誰がトップになればいいんだろう……全然思い浮かばないけど、少なくとも、ただプロンプターを見ながら喋るだけで、8月と8日を間違えるような人じゃないことだけは確か。あの人は平時の人だから。

今回一番すごいと思ったトップはドイツ首相のメルケルさん! 言葉で感動させられるから。アーティストへの支援もドイツの文化大臣が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と言っていち早く決めたよね。しかも手厚く。素晴らしいよね。

今後のプラン

──今後について考えていることは?

これまで何もかもが手探りだから、どうしていいかわかんなかった。でもこのまま止まってるわけにはいかない。いろいろ悩んだ結果、前も話したけど、5月18日から1日3名限定で20時まで営業再開しようと思ってる。これから感染が拡大したらわかんないんだけどね。

前にも話したけど、そもそもお店の再開は考えてて、緊急事態宣言延長になったからどうしようか悩んでたんだけどね。今の状況を考えたら、1日3人限定で感染防止の対策をして20時までなら大丈夫なんじゃないかなと。(詳細は↓)

すごく悩んだんだけどね。18日から開けたところで誰が来る? って感じだし。もし店を開けて3人限定でやっても準備ばかり大変でそ収入的にはほとんど意味ないんだよね…。でもやらないとゼロだから、それよりはましだし、再開を待ち望んでるお客様もいるし。私も会いたいしね。

──前にも言ってたけど、お客様の感染リスクは極力減らしたいけど、女将も生きていかないといけない。そのバランスってすごく難しいでしょうね。僕なんかでは想像もつかない……。あとこれからやってみようと思ってることは?

 「これから食糧危機がくる」という説があるので、備えるために、野菜を育てようと思ってる(笑)。

しいたけ●

▲その一環として購入したシイタケ栽培キット。すぐに生えてきて収穫、バター醤油炒めにしておいしくいただいたとのこと。確かにおいしそう

店の物件探し

あとは店の移転を考えてて、居抜きで借りられる店を探してる。いい物件が見つかったら都の協力金をその費用に充てようかなと。

──今移転先探すとかけっこうアグレッシブですね。

というかね、移転はもうここ4、5年ずっと探してるのよ。普段忙しくて不動産屋に行けないからね。あと、ここ数年都心部の家賃が高くなってるんだけど、これから景気が下がるから地価も下がるかもだし、空き物件も増えるだろうから、今、チャンスかもと思って。ビビビと来たらすぐ移転するつもり。今攻めるか守るか、どっちがいいのか。神のみぞ知る(笑)。

──なんで移転したいの? 今の店の立地に不満がある?

今の店は地下2階でしょ? だんだん年取ってきて足腰が弱ってきて階段がつらいのよ。だからエレベーターがあるビルに引っ越したいともう何年も思ってるわけ。

──路面店が楽だよね。

いや、路面店は家賃が高いし、変な人が来ちゃうリスクが高いから路面店にはしたくないのよ。地下2階だったら変な人がまず来ない。1人でやる以上はいきなり銃を突きつけられたら困るじゃん(笑)。だから地下2階でもいいからエレベーター付きの物件を探しているの。

──まあ日本でいきなり銃を突きつけられることはないと思うけどね(笑)。場所は銀座にこだわりがある? 移転するとしても銀座?

うーんやっぱり銀座が好きだなあ。立地で一番考えるのは、今の常連のお客様が来やすいってこと。だから自宅に近い清澄白河でいいかとはなかなかならないわけよ。

──どこまでもお客様ファーストなんすね。その辺も多くの人から愛される所以ですね。

2018年11月11日Hisashi Yasukawa

▲女将主催のバーベキューイベントには毎回常連客が集って盛り上がる(写真提供:Hisashi Yasukawaさん)

先のことはわからないけどやれることをやるしかない

まあ先のことはいくら考えてもわかんない。いつ新型コロナで死ぬかわかんないし。私もそうだけど、他の業種の友人やお客様たちがすごく影響受けてて、仕事がないとか言ってて。それもすごくつらいのよ。

もう何が正しいかわかんない。何が皆様のためになるかわかんない。どうしよう、私達これからどうやって生きて行こう……。

──確かに僕もそうだけど、先が見えないのが一番困るよね。

ね。もう呑むしかないか(笑)。まあいくら考えてもしょうがないから、今やれることをやるしかないよね。

しかしオンライン呑みは会いたさだけが募るね。たけぞう、また会いたいね。

──5月18日以降にお店行きます。

うん。待ってる。ありがとうね。

──何とか踏ん張ってください。女将ファンのためにも。

ありがとう~。たけぞうも元気でね~。

2017年1月22日津田 哲郎2


銀座で働く小料理屋の女将インタビュー、今回で無事完結しました。最初は2万5000字くらいになったので、全8回にしようと思ってたんですが、皆さん意外と長くても読んでくれるので、全6回にしました。めちゃくちゃ長いのに最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございました。
noteで「スキ」、Facebookで「いいね」や感想コメントをたくさんいただけたことがめちゃくちゃ励みになり、この趣味企画を続ける原動力になりました。
また、写真を提供してくださったり、掲載を許可してくださった常連客の皆さんにも深く御礼申し上げます。
そして大変な中、呑みながら長時間のインタビューにご協力くださり、ぶっちゃけて語ってくださった女将、本当にありがとうございました。
とりあえず来週うかがうのでよろしくお願いします。(文責:山下久猛)
【バックナンバー】
(1)現在の状況や新コロパニックが起こってから今までの動きについて
(2)緊急事態宣言発令以降の地獄のような日々、常連客に助けられたこと、新コロ禍を生き抜くための武器
(3) 休業を決めて、生き延びるためにこれまでやってきた「事業継続のための金策。資金工面」
(4)1日3人限定で営業再開するかも
(5)新型コロナで死ぬのも当たり前だと思えば恐くない


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