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メモ YouTubeの政治的コンテンツを研究者はどう分析しているか?

2005年にチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリムの3人によって設立されたYoutubeは、現在、世界でも最大規模の動画共有のプラットフォームに成長し、政治的言論にも大きな影響を及ぼすようになっています。その影響について多くの研究者が調査していますが、特に注目されている影響の一つが利用者の政治的過激化です。

オンライン・メディアを通じたコンテンツの拡散によって、政治的過激派がどれほど勢力を拡大できるのかについては、まだはっきりしたことは分かっていません(Conway 2017)。ただ、イスラム過激派の事例では、ソーシャル・メディアを通じて若者を実際に感化することに成功しており、一部の若者は海外へ渡航し、組織に参加しています(Mitts 2019)。

Youtubeで過激な政治的コンテンツを提供するチャンネルとして活発なのは、エリートを敵視し、人種差別や排外主義を唱えるオルタナ右翼の潮流に属するクリエイターです。主要な349チャンネルで投稿された330,925本の動画を対象とした調査の結果、利用者が穏健なチャンネルの視聴を起点にして、次第に過激なチャンネルの利用に移行していく傾向にあることが確認されています(Ribeiro et al. 2020)。

YouTubeは組織としてオルタナ右翼のコンテンツの拡散を支援しているというわけではありません。MungerとPhillips(2022)はYoutubeの収益基盤は広告収入であるため、Youtubeは広告主がオルタナ右翼と関連付けられるようになるリスクを回避するため、政治的動画の収益化を停止する措置をとるようになっていると指摘しています。

実際、政治的コンテンツを投稿するクリエイターは、コンテンツへの広告掲載から得られる収益の分配を受けることが可能となるYoutubeパートナープログラムに参加することが難しくなっています。代替の収益化戦略としては、クラウドファンディングのプラットフォームであるPatreon(パトレオン)を通じて資金を得る方法や、Youtubeのライブチャットに組み込まれた投げ銭機能であるスーパーチャットが使用されるようになっているとも指摘されています。

また、MungerとPhillips(2022)の調査の結果で興味深いのは、Youtubeの利用者の興味関心が時期によって変化してきていることが示されていることです。2013年1月から2018年11月までの月間視聴率の傾向で見ると、2017年の半ばからオルタナ右翼の政治的コンテンツの視聴回数は減少し続ける傾向にあります。より穏健な保守派の政治的コンテンツの視聴回数は成長し続けているため、これはオルタナ右翼のコンテンツに特有のトレンドです。

著者らは、これがYouTubeのアルゴリズムの変更に起因するものではないと主張しており、政治的コンテンツ市場における需要と供給の変化を総合的に考慮する必要があると述べています。ただし、全体としての視聴回数が減少する中でも、それぞれのチャンネルは強い忠誠心を維持する利用者によって支えられていることも指摘されており、彼らはコメント機能で活発にコミュニティに参加しています。

現在、Youtubeで配信されている日本語の政治的コンテンツについては、まだ研究成果も限られていますが、その重要性は認識されるようになっています。動画内容を分析する手法も機械学習の技術と共に発達してきているため、将来的にはYoutubeにおける政治的活動がどのようなものであるのか実態が少しずつ解明されるものと期待しています。

参考文献

  • Conway, M. (2017). Determining the role of the internet in violent extremism and terrorism: Six suggestions for progressing research. Studies in Conflict & Terrorism, 40(1), 77-98. https://doi.org/10.1080/1057610X.2016.1157408

  • Mitts, T. (2019). From isolation to radicalization: Anti-Muslim hostility and support for ISIS in the West. American Political Science Review, 113(1), 173-194. https://doi.org/10.1017/S0003055418000618

  • Munger, K., & Phillips, J. (2022). Right-wing YouTube: A supply and demand perspective. The International Journal of Press/Politics, 27(1), 186-219. https://doi.org/10.1177/1940161220964767

  • Ribeiro, M. H., Ottoni, R., West, R., Almeida, V. A., & Meira Jr, W. (2020, January). Auditing radicalization pathways on YouTube. In Proceedings of the 2020 conference on fairness, accountability, and transparency, pp. 131-141. https://doi.org/10.1145/3351095.3372879

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