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ビジョンデザインの現場から | 【vol.9】 内からやってくる言葉

—— その言葉はどこからきたのか?

vol.8でも触れましたが、先日(2020年7月22日)、デジタル・アド・サービスでは、全社に向けて、策定したビジョンの発表会が行われました。それは、経営者自らが、その考えを言葉にし、語り、伝える機会でもありました。

自分の考えを、自分の言葉で語る。ふと考えると不思議な言い方です。他人の頭で考え、他人の口でしゃべることのほうができないはずなのに。

でも、この「自分の考え」「自分の言葉」ということは、プロジェクトがスタートしたときからずっと引っかかっていることです。そこで、今回「自分の言葉として他者と共有する」ということについて少し書いてみたいと思います。

2019年11月、いまから1年ほど前。自社のビジョンプロジェクトは、社長へのヒアリングからスタートしました。そこからいまに至るまで、ビジョン推進室では、3名のメンバーで、あるテーマに対して議論を交わしたり、フレームを使ったワークを行ったり、アプローチはさまざまですが、数々の対話を繰り返し、繰り返し行ってきました。

その言葉はどこから来たのか? 冒頭の疑問。これは、社長との対話を重ねるなかで、たびたび感じていたことです。内から発生したものを外化させたというよりは、どこからか借りてきたものを使って伝えようとしている? 他のメンバーの発言を表面的に反射させたものではないか? 少しシビアに、そして率直に言うと、そんなふうに感じていたとも言えます。

ところが。今年(2020年)5月頃のこと。忘れられない出来事がありました。その日も、ビジョン推進室のメンバーでちょっとしたフレームを使いながら問いを繰り返し、対話を重ねていました。そのとき、急に。社長から言葉が溢れ出しました。それはこれまでとはちがい、密度と体温がある、内側から、深くから生じた言葉のように感じられました。そして、とてもうれしかったことを覚えています。

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借りてきたようなではない、表面的な反射ではない、内在していた言葉。密度と体温がある言葉。それらが外化されたときのことを中心に、ビジョン構築のプロセスを、社長にインタビューをしながらふり返ってみました。

——  内側から言葉が溢れ出すような体験がありましたね。プロジェクトのプロセスを通じて、何か変化したと感じられる部分があったのでしょうか?

デジタル・アド・サービス 代表取締役社長 村田尚武(以下、村田)「まず、自分のなかでの気づき、自己認識、自己内省がありました。いろいろなところで見聞きした言葉、それらをリンクづけしたり、組み合わせたりして話しをするのは得意。そうしたことで、自分では言語化すること自体得意だと思っていました。でも、もっと内的なもの、自分の核にあるもの、複雑化した状態にあるものを、対話のなかで、随意反射的な表現にせずに、溢れ出させる、伝わるようにするには、自分には時間が必要だし、時間をかけることが大切だということに気がつきました。まず、それに気づけたいうことが重要でした。」

——  必要な時間とは、どういうものだったのでしょう?

村田「特に、今回はコロナもあって、自分一人の時間をもつことが必然的に多くなりました。それは、自分が出した言葉、相手から出た言葉に対して、改めて向き合い、反芻し、執着してみる時間でもありました。とはいってもその時間は、ずっとその言葉だけを突き詰めるというものではくて。そうするとかえって視点が狭まってしまうので。その言葉から、あえて距離をおいてみて、他の情報を得ながら、その言葉と紐づけしてみる。対象となる言葉を意識しながらも、他の事象をとおして、向き合い直してみる。外的要因、刺激を入れて、行ったり来たりすることで、自分のなかで腹落ちがしてくる、そんな時間でした。」

—— 今回は、ビジョンを構築していくプロセスを通じて、いつも以上に、発した言葉に対するWHY? やどういう考え方がその背景にあるのかを問われること、また、言葉の解像度、抽象度を上げ下げするようなやりとりが多かったと思います。

村田問いの大切さ。言葉の壁打ちの重要性。プロジェクトのプロセスで実体験として得られたものがあります。問われることにより、自分と向き合う。自分と向き合ったことで出てきたもので対話して、また向き合って。自分のなかでの内省と他者を介すること。その連続で、その言葉の意味合いが濃くなって、整理されていくこと。ビジョンを構築するプロセスでは、それを凝縮して繰り返すことができました。言葉の解像度、抽象度を上げ下げすること、状態をイメージし言語化することなど、難しい部分もありましたが、チームとして得意な人たちと一緒にやりきることもプロジェクトにおける大きな価値だと感じています。」

—— 2020年7月の全社員に向けてのビジョン発表。そこでは、ビジョン推進室内でのある種、剥き出し、生々しい状態の言葉から、オフィシャルな言葉として語られました。

村田「全社員に語るとき、もちろん、密度や体温の低い、当てに行くような言葉ではだめだけれど、生々しすぎてビジョン推進室の3人だけで通じるような言葉でもだめ。多くに理解されるためには、耳になじみ良い言葉であることも必要。そういうラインの言葉が必要とされます。ただ、耳ざわりが良い状態になっているとき、どこを経てそういう言葉になっているかが重要。対話や自問自答を繰り返すなかで、一度、深淵までいってから、伝えて理解される言葉に戻しました。言葉の持つ意味性、密度を高めた上で、伝えるための言葉にできたと思っています。」

—— 同じ言葉でも扱い方に変化が起きたのでしょうか?

村田「同じ言葉を発するのでも心持ちが違う、深まったからグッと出てきたと感じます。言葉の引き出し、それは語彙が増えたとかそういうことではなくて、言葉に対する理解度、意味合いが高まったということ。同じ言葉でも、解釈は人によっても、文脈によっても違いが生じます。誰とのあいだに、どういうときに意味を成立させるかによって扱い方も異なります。そういうときに、一本槍の伝え方ではなく、使い方のバリエーションが広がった、言葉を挟んでのやりとりのアプローチが増えたと感じています。」

—— 私たちは、ビジョンを「未来における存在意義。他者との関係性のなかに存在し、価値をなすもの」と定義しています。私たちのビジョンはまだ生まれたばかりで、発表はしましたが、これからいろいろな相手と関係性を築いていくフェーズですね。

村田「まずは、社内に共有、浸透させていくフェーズです。生まれたてだけど、生まれたことによって、みんなから問いも生まれてきます。それを起点に対話することで、ビジョンも成長していくはず。そこは、しっかり時間をかけていきたい。また、時間をかけて自問自答、対話を続けることで、ビジョンをもっと自分のものにもしていきたいと考えています。」

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インタビューの最後「社長になって1年というタイミングで、会社の過去、いま、未来を考えられたことは、豊かな時間だった。豊かというのは、プロセスのなかで、苦しさもあるけれど、自分や組織の足りない部分を、直視できて、向き合うことができて、納得できて、結果として肯定感も持てたから。自分のなかでの満足感、納得感、それがあることが大事。」と話してくれました。

「内的な豊かさをつくる時間やプロセスから」 自分の考え。自分の言葉。密度や体温のある言葉。その言葉はどこからきたのか? そんな問いへの1つの答えだと考えています。

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デジタル・アド・サービス:https://www.dascorp.co.jp
Vision Management:https://www.dascorp.co.jp/vm/
竹内 悠(Takeuchi Haruka):https://www.dascorp.co.jp/blog/4598/

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