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随筆

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#ポエム

繋

中学生のとき、職場体験で隣町の病院に行った。

はじめに看護師さんからいくつか注意事項の説明があって、「患者さんの情報は、学校の先生や友達、家族にも絶対に話さないでくださいね」って言われてた。

1週間あった期間のうち、確か2,3日目だったはず。病室に入って、少しだけ患者さんと1対1で話すタイミングがあった。

自己紹介をすると、「あんた仁賀保の人だか?」と聞かれた。あんまりない苗字だから、ピンと

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凍てつく夜にこそ光れ

凍てつく夜にこそ光れ

実家の近所にあった家は、冬になるとたくさんのイルミネーションで広い敷地を飾りつけていた。わたしたち小さな子どもは、寒くなると毎年恒例のキラキラした光に目を輝かせた。

そのまばゆいイルミネーションには、どうやら理由があったらしい。その家の子どもが小さい頃に亡くなり、空からでも家が分かるように…いつでも帰ってこられるように、飾りつけをしてるんだと聞いた。

いつからか、その家のイルミネーションはしめ

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暗い夜を照らす月みたいに

暗い夜を照らす月みたいに

いいね、って言ってくれる人が必要だ。どんなに自信を持っていても、やっぱり人に肯定されないと不安になるもの。

最近は人に会う機会が多い。よく会う友達はもちろん、久々に会う人、初めて顔を合わせた人。その中に、テレビ見てるよ、とかnote読んでるよ、って伝えてくれる人が結構いる。

ありがとう〜って返すけど、わたしの嬉しさ、きっと100分の1も伝わってない。それぐらい、そうやって言ってくれる人がいるの

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いま、どこでなにしてる?

いま、どこでなにしてる?

遠くにいる人のことをよく考える。それは物理的な距離が遠い人だったり、なんらかの事情で会えない人だったり。近くにいても、しばらく会えてない人だったり。

悲しいし、切ない。きっとすぐには会えないし、もう一生会えないかもしれないから。

でも、朝は起きれたんだろうか、とか、どんな仕事をしてるんだろうか、とか、1日の中でなにか楽しいことはあったんだろうか、とか。本当のことは知り得ないけど、そうやって考え

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出会ってくれてありがとう

出会ってくれてありがとう

ずっと好きな人がいる。見たことはあるけど、会ったことはない。

昔から見ているその人は、決して売れてるミュージシャンではない。今は。だけど、誰よりもひたむきに音楽に向かい続けてきてることをよく知ってる。

純粋に音楽が好きで、優れた頭脳を持ってるのに進学はせず音楽を続ける道を選んだ。そのおかげで救われた人間がいること、彼は自覚してるかな。

曲のシンボル、アルバムのモチーフ、全てに繊細な意味を持っ

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変わってないって分かって

変わってないって分かって

本を読むのが好きだった君に、「作り話にまで心を揺さぶられてたら大変なのよ」と言った。
「それが楽しいんじゃん」と返す君は、普段は幼いくせになぜか気持ちに余裕があるように見えて不思議だった。

日々起こることに振り回されて、ジェットコースターに乗ってるみたいに気分が急降下する。
わけのわからないことにムキになって、明らかな冗談も笑って受け流せない。

そんな私の思春期も気づいたらいつの間にか終わり、

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夏は微量の毒を持つ

夏は微量の毒を持つ

夏の空気にはごくわずか、人体に有害な成分が含まれてるんだろう。
その成分はわたしたちの心拍数をほんの少し速め、感情の幅を上下に2メモリずつ押し広げる。

わたしたちはそんな微量の毒に急かされ動かされて、一瞬の夏を過ごしてゆく。

夏に起こったことは、なんだかよく覚えてる。
家の隣にある田んぼにほたるがいて、家族4人でぼーっと光をながめたこと。
庭で花火をしたとき、花火が消えていく瞬間がやけに切なか

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半減期

半減期

想いは半減期で変化していく。どれだけ時間が経っても、薄まるばかりで0になることはない。忘れることはあっても、永久に消えることもない。

何かの拍子に膨れ上がった気持ちは、心の大部分を支配するようになる。その想いが別の気持ちになるまで時間もかかる。

半減期は人によっても違うし、想いの種類によっても違う。早いこと想いの原子を分解したくても、そううまくいかないことも多い。

放射性同位体における本来の

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