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ドレスは環境問題に貢献できるか? 排出されたエアバッグで作ったウェディングドレス

ファッションにもサスティナブルが当たり前の時代がやってきました。サスティナブルとはサステナブルとも言い、「持続可能な社会を目指す」価値観です。繊研新聞を見ても、毎日どこかしらにサステナブル関連記事が見つかります。

わたしはウェディングドレスのお仕立てとリメイクをしているのですが、近年は環境問題やSDGsへの関心から、リメイクのお仕事の依頼が増えてきました。お母さまのウェディングドレスのリメイクや、環境に配慮した素材(オーガニックコットンなど)を使用したエシカルなウェディングドレスをご希望のお若い花嫁さまもいらっしゃり、新しい、いい時代がきたなと思います。

普段はお客様からのオーダーにこたえる形で制作をしているわたしですが、自らのライフワークとして「ドレスは環境問題に貢献できるか?」をテーマに、廃材を使ったアート作品としてのドレスの制作も手がけています。

例えば、こちらはリメイクコンテストで最優秀賞をいただいたドレス。5着の廃棄される予定の洋服からリメイクしています。

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他にも、廃棄する端材をデザインポイントに使ったドレスなどの作品がありますが、今回ご紹介するのは、自動車の「エアバッグ」から作ったドレスです。

排出されたエアバッグを使ったドレス「my kingdom」

完成作品がこちらです。

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これ、車のエアバッグでできているんです。

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車のエアバッグって?

車のエアバッグ、作動する前はどんな形をしているのかご存知ない方が多いと思うのでご紹介します。こんな形です。

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べろーんと長いのです。白くてかたくてやわらかいナイロン製? プラスチック素材です。謎のヒモや金具が付いています。これが畳んで車に収納されており、いざという時に瞬間的にプシューと空気が入って膨らむ仕組みになっています。試しに空気を入れてみるとこんな感じです。

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なんでエアバッグ?

そもそもなんでエアバッグでドレスを作ろうと思ったかというと、コンペティションに向けて廃材を使ってドレス作品を作ろうとしていた時に、廃材を手作りパーツとして扱う事業(※現在も継続中かどうかは不明です)を手がけられていた先輩から「面白いものがあるよ」と教えてもらったのがきっかけです。どうやら、メーカーから型落ちなどの理由で廃出されたものらしいのです。エアバッグって見たことないし、おもしろいかも。それに白いし。

わたしにとって「白」は重要です。逆にいえばわたしは白かったら基本なんでもいいんです。なぜなら白は最強の色だからです。ちなみに白いドレスへの偏愛っぷりを書いたnoteがこちらです。

そんな感じであまり考えず、ただ単に色が白いだけの理由で決めたものの、まさかあんなにかたくて扱いにくいものだったとは…。

まずは観察

さて、創作を始めるにあたり、大切なのは「観察」です。まずはじっくりと素材を眺めます。独特の形やライン、型番の番号もかっこいい。

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この謎の紐もそのままデザインポイントに使いたい。ピンクと、移染した部分もアーティスティック。ちょっとマルタン・マルジェラみたいじゃない?

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リメイクの場合は、いちから作るわけではないので、「今ある条件のなかで」「いかに最良のイメージを作り上げられるか」がポイント。与えられた条件の中でどれだけ自由な発想ができるかが重要なのです。マルジェラから急に所帯じみた話になるけど、冷蔵庫の残り物ですっごく美味しい料理を作る、みたいな感じです。まあ今回はリメイクの中でもかなり特殊な素材ですが…。

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実際にトルソーに合わせてみたり、実際にピンで着せつけてみます。かたい素材なのでピン打ちに苦労します。そして布に比べて重みがあるのでズルズルと滑ってきます。

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それでもどうにかじっさいに着せ付けしてみたら、すぐにアイデアが思い浮かびました。エアバッグの「守る」という機能から発想し、「女性が自分自身を守るために身につける鎧」みたいなイメージが浮かんできました。デザインイメージはイギリスと結婚した女王、エリザベス1世です。よし、「自分の王国を守るための衣装」みたいな感じでいこう。

エリザベス1世

エリザベス1世:即位1558ー没1603 チューダー王朝第5代にして最後の君主。「イギリスと結婚したバージン・クイーン」として知られる。その権力の誇示のため、豪華な衣装を身に纏った多くの肖像画を残している。

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イメージをもとに、形にしていきます。元の素材の形から写したシーチングと言われる別布でトワルを作り、ボディに合わせて形をとります。

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不規則な形なので、どこで裁断するかも重要なポイント。素材の特性からどうしてもアシンメトリー(非対称)なものにはなりますが、パッとみたときにバランスが取れていることが重要です。西洋的な美の規範は対称性にあるからです。

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しかし、かたい。しかも密が詰まっていて吸い付くようなかたさで、針が通りにくいのです。そりゃそうですよね、空気で膨らませるわけだから簡単に針で穴が空いたら大変ですからね。しかし縫製には苦労しました。わたしの相棒ミシン、頑張ってくれました。いつも変なもの縫わせやがってって思ってるかもしれない。これが終わったらお掃除して油さしてあげるから頑張って!

縫うことでかたちが見えてきました。

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バストのところにあえて空気の入る場所を設定して、詰め物で少し膨らませる感じです。

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後ろは、編み上げです。かたくてハトメを開けるのに一苦労。腱鞘炎になるかと思った。たぶんなっていたかも。

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スカートは、エアバッグの膨らみを利用してバッスル風に。中に入れた詰め物も、緩衝材を再利用しました。ちなみに中にきているアンダードレスも、かつて製作したドレスの仮縫い用トワルを再利用しています。チュールペチコートもウェディングドレス制作中に出た端材を利用しました。

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どうでしょう。なんとなく中世のバッスルドレスに見えてきませんか?

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排出されるエアバッグからウェディングドレス

こうしてエアバッグのウェディングドレス「my kingdom」の完成です。排エアバッグを2枚使用しています。

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この作品は、「リサイクルアート展2017」というコンペティションで審査員特別賞をいただきました。展示会場入り口の目立つところに飾っていただけたようで、しかも来場者さんの反響も良かったようで嬉しかったです。ひとつ残念だったのは、会場の北海道にいけなかったこと。


白い作品を作っているアーティストとして

しかし、のちに「白い作品を作っているアーティスト」というくくりで、なんとあのセレブなホワイトディナー会場(神戸)に招待展示させていただくことになりました。ホワイトディナーとはパリ発祥の屋外パーティのこと。秘密のパーティです。もちろんコロナ前の話ですが。

「アーティストテーブル」として、会場ディスプレイにもアーティストグループとして参加しました。

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白いものを作っていたおかげで「白い作品を作っているアーティストとして参加しませんか?」と言われた時「白いものなら売るほど作ってるから、参加します」と即答できたのです。白いものを作っていて本当に良かった。

設置場所は重要文化財の旧小寺家厩舎です。かつては馬屋だったんですって。かっこいいところに飾ってもらいました。

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2019 KOBEホワイトディナー 相楽園 重要文化財「旧小寺家厩舎」にて


端材を使用したドレス

▼こちらは、帆布の工場で出る端材をデザインポイントにしたドレスです。(HANPUオカヤマPROJECT 最優秀賞)

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このように、廃材を利用してドレスを作る活動も、エシカルアーティストとして行っています。

「白いものを作っているアーティスト」「廃材を使ってウェディングドレスを作っているアーティスト」「サスティナブルな活動をしているアーティスト」「リメイクをしているアーティスト」

みたいなくくりでの展示・お仕事のご依頼があればTwitter、もしくはInstagramのDM、またはメールよりご連絡お待ちしております。白いものなら売るほどありますから(笑)

●Twitter:@TakechiHiromi  ●Instagram:@takechihiromi  ●Mail:classique.cloque@gmail.com 


今の若い世代は、生まれたときから環境問題に関心があり、SDGsが当たり前の世代です。かつてアパレル業界で仕事をしてきて、現在もドレス製作に関わるものとして、リメイクとドレスで若い世代に貢献できたらいいなと考えています。

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▼ドレスは環境問題に貢献できるか?シリーズ






だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!