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田舎の雑居ビルの3階フロアから眺める景色は、山ばかり。中国大陸から風に乗ってやってきた黄砂や色々な有害粒子のせいで、見える山の全てが霞んでいた。僕はその粒子のアレルギーか何かの影響で鼻がつまって息苦しかった。

絶望的な場所で、絶望的な景色を眺めている僕は絶望的な鼻づまりで、脳に酸素がうまく運ばれず、思考力が失われてしまっていて、これらの絶望的な環境にもかかわらず、目の前のつまらない景色を呑気に眺めながら、この雑居ビルにオフィスを構えているA社の面接官を待っている。

外の景色、窓、面接官が座る椅子、机、そして僕がいて、僕は椅子に座っている。ここがどんな会社なのか、記憶が朧げであるし、面接で何をどう答えればいいのか、はっきりとしていない。

いきなりドアが開き、20歳にもならないような女が入ってきた。女は大きめのデニムジャケットを着て、ベージュのハイカットブーツを履き、それ以外は黒でまとめられた格好をし、整った顔立ちをしていた。

「今日は、来てもらってありがとうございまーす。それじゃあ、メンセツをはじめまーす」と女が言ったので、僕は椅子から立ち上がって「よろしくお願いします」と言った。久しぶりに言葉を発したので、言った後、しばらく咳き込んでしまった。

「では、簡単な自己紹介と弊社への入社を希望した動機を教えてくださーい」と女が言った。「たなかそうじろう、と言います」と僕が話し始めると女はスマートフォンをいじり始めた。

部屋には僕と女のほかに誰もいない。僕は自己紹介した後、女の指示通りA社への入社を希望した動機について話を続けた。女は話が終わるまでに3度だけスマホから顔を上げ僕の方を見た。

「おわりましたかー?」と女が聞いたので「はい、以上でございます」と僕は答えた。「マジうけるー」と女が言った。

女の後ろの窓から見える霞んだ景色が晴れてきていた。遠くの山から煙が上がっている。山火事だろうか、それとも誰かがゴミを焼いているだけなのだろうか。

「すみません、ちょっといいですかー?」と女が言った。この女が面接官であることやこの採用面接、そしてA社の存在までも嘘だと僕はその時思っていた。

「なんですか?」と僕は尋ねた。「あなたはあなたが望む成果を得るために最大限努力してきましたか?」女はスマホを見ながら言った。

遠くの山から上がっている煙が消えかけていた。誰かが火を消したのだろうか。鼻が詰まって息がしにくい。遠くに見えるあの煙の匂いさえ僕には感じることが出来ないかもしれない。

遠のく意識の中で遠くに見える山から上がる煙を見ながら僕は女の質問に対する自分なりの答えを休むことなく喋り続けたが、それはきっと女にとって僕が言い訳をしているように聞こえたに違いない、僕は今までそれなりの努力しかしておらずそれなりの成果しか得ていないのだ。

でもそんなことどうでもいい。女はどうせ僕の話なんて聞いていないし、そもそも全て嘘かもしれないので、女にどう思われようとどうでもいい。どうせ山から上がっている煙も消える。しょうもない誰かが火を消してしまうに決まっているのだ。

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