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(4) 頼る先を、間違えてやしませんか?(2024.7改)

ロイヤルブルネイ航空の王族専用機がオーストラリアのメルボルンを目指し、飛行していた。ファースト席にはブルネイ第5王女と、こちらは隠密でビルマのズーチー最高顧問が搭乗している。
ニュージーランドから移動してきた金森知事とプルシアンブルー社の幹部と共に、夕刻のオーストラリアvs.ニュージーランド戦をズーチー氏も観戦し、試合後に知事たちと会食する。
翌日、ズーチー氏はメルボルン国立病院に診断のために訪れ、同病院の医療チームと共に感染学者で医師でもある前厚労大臣の越山が立ち会い、同氏を診断する。

一方のモリは、養女の3人、平泉 杏と蜂須賀 翼、そして新中3生の村井 彩乃とシャン族のチームと共に、バーマ(旧ネピドー)の邸宅からラングーン(旧ヤンゴン)の邸宅へと、滞在拠点を代えていた。2日後、隣国バングラデシュのコックスバザールを訪問し、ビルマ・アラカン州に居住していたロヒンギャ族の難民キャンプ地を視察する。
その移動の為に、首都から国内最大都市に移動したのだが、別件で米国から客人が来るらしいので、早々に首都から逃げた。

平泉 杏から送られて来たラングーン邸宅の映像を、ビルマからオージーに向かっている王族専用機で杏の妹の平泉樹里と彩乃の姉の村井幸と、2人と同じクラスだった東山柚子が各々のタブレットで再生していた。 ビルマ首都の邸宅並みのケタ外れの室内よりも、モリが映っている映像の方にどうしても村井 幸は注目してしまう。
「お宝動画がまた増えた」と一人でホクホクしていた。カメラを回しているのが杏と翼なので、どうしてもモリ中心の撮影となってしまう。それでも、時折、レフ板とライトを持ってアシスタントとして働いている妹の彩乃が時折映るので、ほっこりしていた。
観光ゼロの海外視察への同行は妹にとって初めての経験となる、目的地は難民キャンプ視察から始まり、その次は内乱勃発の可能性が出てきたアフガニスタンだ。
その2か国で養父の人と也を知り、規格外の仕事ぶりを目の当りにするに違いない。あわよくば彩乃の過去の清算に携わって欲しいとも願っていた。今回の経験は彩乃の財産となり、きっと生涯忘れないものとなるだろうと、幸は目を潤ませる。
“元教師"の教え子である大学生の養女たちが踏襲してきた「社会科教諭・何某の授業聴講法」を、彩乃を始めとする中高生が引き継いでいる。
社会科と英会話教諭であった元教師は自身の授業内容を反省と授業内容のブラッシュアップの為に動画に撮っていたのだが、生徒たちにもその動画を公開していた。動画を復習用に活用して貰うのと、当日の欠席者の為だ。
大学生養女達が高校時代に、具体的な動画活用法を見出していた。

教諭が話した内容で、生徒本人が分からなかった箇所は、映像と音声を止めて、ネットで調べて理解してから再生を始める。そのようにして、教諭の一字一句を血肉の様に吸収してゆく。
もし、理解がされていないなら、教諭と付き合う権利を剥奪すると勝手に定めて、お互いで理解されているかどうかのチェックをしていた。

「授業の復習というより、宗教みたい」と、幸の母親の幸乃・岐阜県知事と知事秘書で叔母の志乃が娘達の習慣を誂うが、それが最善な手段なのだと養女の誰もが認めており、譲らない。
おそらく妹が最後の”信者”世代になる。教師では無くなったので、もうこれ以上"生徒"は増えないからだ。

「でもさぁ、国会議員として活躍しちゃうと、やっぱり信者は自然に増えるんじゃない?それにアジアじゃ王様扱いですぜ。ビルマの女性だって、放っとかないって。気付いた時にはビルマの邸宅はセンセの側室だらけになってるかもしれないよ」
と、隣に座っている柚子が言うので訝しみ、柚子を無視して、サチは映像を見続けていた。

***

アフガニスタン・カブールに滞在していたワインバーグ大統領補佐官と前大統領補佐官のボルドン特使が、アフガニスタン国防相のアジル氏を伴って、急遽ビルマ入り、という情報がニュース速報として飛び込んできた。

前共和党トランブ大統領がタリバンとの間で、アフガニスタンからの米軍撤退合意に応じてしまった。撤退期日が近づく中で、アフガニスタンと米国の両国政府からビルマ政府に対して、米軍撤退をスムーズに実現する為に、ASEAN軍に、暫定政権の「対抗勢力」の“下草刈り”と米軍がスムーズに撤退するための“環境つくり”の要請が、ビルマ入りの目的だと明らかとなる。要は軍派遣と武力行使の要請だ。
ビルマ側のメンバーにはズーチー最高顧問も、モリも居ない。ワインバーグとボルドンには両名の不在は、もっけの幸いとなる。障壁となる2人が居ない、攻略案「プランB」となり、ツイていると安堵する。
駐日米国大使を通じて、モリには前々からアフガン介入を打診しているのだが、「ビルマには無理だ」「国作りの真最中に、超大国が我々の様な微細な存在に関わらないで欲しい」と不快感まで示しており、当事者たちが出向いて直談判する事になった。

「アフガニスタンの内乱状態を抑え、混沌した治安を回復するという当初の米国のアプローチは失敗した」とワインバーグ大統領補佐官は、ビルマ正副大統領を前に、正直に述べる。

前大統領が駐留経費を払いたくが無いために、アフガニスタン撤退を決断した。撤退までの間で、出来うる限り秩序を回復し、内乱状態を収める様にタリバンとの合意を目指してきたのだが、結局米国は何一つとして達成できないまま撤退を迎えることになるという。
タリバンと合意した撤退の期日に米軍が強硬的に撤退を始めると、首都カブールは大混乱となるのは確実だという。米軍撤退完了後、タリバンがカブールへ進軍し、アフガニスタン暫定政権はいずれ崩壊、もしくは降伏すると予測しているらしい。嘗てのタリバン政権による治世に懲りている民衆は、暫定政権が劣勢と見ると、国外脱出を求めて空港や軍事基地に殺到すると予想される。

膨大なコストを投じて、大部隊と大量の兵器を送り込みながら、何一つ成果を上げられずに終わる米国。何の反省も分析も出来ずに撤退する米軍の苦悩。ソ連のアフガニスタン侵攻から撤退の再現となる。ソ連は其の後まもなく崩壊してしまったのをダフィーが揶揄する。
「米国は崩壊しないんですか?」と、ビルマ副大統領がクィーンズイングリッシュで聞いたら、「大丈夫だ」と帰って来たので、「その代償として、暫定政権が崩壊しても、あなた方は構わないんですね」と速攻で返して、米国側は嫌な顔をしていたらしい。

自分たちの大失敗談を延々と話し続け、前政権の安易な合意に従わねばならない苦悩を聞きながら、ダフィーは眠っていたという。ビルマには何の関係も無い話だからだ。

現職のペンタ大統領としても、当人が副大統領時の合意でもあるので、米軍撤退を踏襲せざるを得ないというので、「そういう判断をなさるんですね、今の大統領は?」と大統領補佐官を見据えてダフィーが言う。大統領も、ダフィーの態度の悪さに気が気ではなかったらしい。   

1時間半ほど「アフガニスタンにおける米国の失敗劇」を聞いて、ようやく本題となる。前大統領とタリバン間の2月に締結した米軍撤退の合意から、14ヶ月以内の撤退を履行せねばならない。現政権はタリバンに米軍駐留の継続を要請しているが、当時副大統領だった大統領も噛んでいるので、合意は覆せないと拒否されている。
駐留の継続が適わぬのなら、米軍に成り替わる軍の参加がベターという判断を国連サイドも概ね認めているらしい。             

「理解に苦しむのですが、何ゆえにビルマに米軍の代役を求めるのですか?」
ビルマ大統領が米国側に問う。
世界最強と言われる米軍が出来なかったの事を“やってほしい”と言うのだから、普通の人には理解できない。ましてやビルマは発展途上国、ちょっと前までは鎖国をやってたような国だ。頼む相手が違うのは誰もが分かっている。

「クーデターを鎮圧したテクノロジーを、アフガニスタンで活用して、タリバンを掃討して頂きたいのです」とアフガン暫定政府のアジル国防相が深々と頭を下げる。  

「あなたが言ったテクノロジーとは、自律型AI兵器のことでしょうか?確かに我々は国内軍のクーデター制圧の為にそれらの兵器を多用しました。"掃討"とのご要求ですが、他国の兵士を我々が殺傷するという意味で、国内での防衛用途とは訳も意味合いも大きく違います。
“ソ連のアフガン侵攻”がイメージとして近いし、しっくりくる、それが掃討です。そんな場に我が軍を送る訳にはいかない。そもそも、自分たちで何とかすべきと考えて、大金を投じて暫定政府を打ち立てたのでしょう? 
その為の軍隊まで何年もの時間と多額費用を費やして作ったのですよね?
我々はクーデター未遂から2か月しか過ぎていない国です。そんな国に頭を下げて、頼んでいるあなた方が理解できません」  
ダフィーが言うと、アフガン暫定政府の国防相は困惑し、視線で米国の2人に助けを求める。
アフガン暫定政権、実に無駄な組織を米国は作ったもんだ、とダフィーは厭きれていた。    

マイゲル・ボルドン特使が口を挟む。
「ならば、プルシアンブルー社の協力だけでも仰げないでしょうか?あなた方がモリさんに助けを求めたように」
確かにボルドンの首長は筋が通る。内乱の鎮圧とクーデター阻止はその国の国内の話だ。
「ややこしい爺さんだな」と白髭眼鏡のボルドン氏をダフィーが睨む。2人の大統領の補佐官を務めただけあって、タカ派で知られたボルドンはダフィーの視線に動じない。見かねて末席に居る不在中のスージー最高顧問補佐の山岸が発言する。

「確かにボルドンさんが仰る様に、アフガニスタン内の国内問題です。しかし、米軍が何の成果も上げられなかった事実を私達は先ほどの説明を伺って、理解致しました。
旧ミャンマー軍を相手にしたのと、全くレベルが違う話だと良く分かったのです。内乱だからと、タリバンと旧ミャンマー軍を同じ土俵で物事を考えるのは危険すぎると我々は考えます。明らかにタリバンの方が何枚も何枚も上手です、世界最強の米軍を手玉にするのですから」 
ダフィーが山岸に親指立ててサムズアップする。大統領も嬉しそうだ。           

「そこを何とかして欲しいのです。我が国を助けて頂けませんか?」             

「米軍が派遣した部隊や設備、暫定政府軍設立の為に投入した人員数と費やしたコストを明かしもせずに、何とかして欲しい、助けて欲しいって言うのは、酷すぎると思いませんか?
兵力的にも、コスト的にも米軍以上の戦力が必要だって話だ。あんたらは対峙している相手のタリバンの戦力すら説明もしない。普通なら、助けてくれとは言えないでしょう。身勝手にも程がある」
「暫定政府が出来る限りの費用を出します。ですので・・」                 

「あなた、私の話を聞いてました?単純に米軍の年間コスト以上の額、暫定政府軍に投じたが必要になるって話ですよ。分かってます?米軍が負けたんだから、倍の金を貰ったって勝てるとは思えない。仮に3倍としたら、そんな金出せるんですか?金も出さずに助けてくれって、発展途上国の政府に向かって良く言えますね」

「途上国だなんて・・、そうは思っていません」

「そんなことも知らないでお見えになったのですか?あなたは我々の事を全く知らずに、ただAI兵器を使ってほしい、助けてくれの一点張りだ。何しに来られたのか。
ビルマは国連の基準で完全に底辺に居る国です。潤沢な資金を国際社会や米国から出して貰って、悠々自適の暫定政府の方が格上だ。
ビルマを援助してくれる国は、ゼロだ。
そんな国に軽々しく軍を出せと頼むなよ。ビルマ兵の命を軽く見てるんじゃねえか?
アメリカへ行って、大統領と議会に頭下げろよ。アフガニスタンを助けて欲しい、駐留を延期して欲しいって、そっちの方がよっぽど現実的だ」

「それはもう出来ないのです・・」

「試して見たのかよ? 前の暫定政府の大統領は何度もアメリカを訪問してたけど、今の大統領は何をした。そもそも、ソイツがここにいないのはどういう了見だ?」

「ですから決定事項を覆す段階ではないのです。異なる手段を考えねば・・」

「なら、欧州の先進国、中国、ロシアに頼みに行けよ。途上国に来たって時間の無駄だ。出来ねえものは出来ねえ。自分の兵を危険に晒す訳にはいかねえんだよ。
そうだ。まずはあんたが暫定政府軍全軍の指揮を執って、タリバンに総力戦を挑めよ。そんでタリバンが如何に強大な相手だったか、レポートを作って、手前たちの暫定政府軍がいかに弱かったかを伝えて、先進国に頼めばいい。誰か助けてくれるかもしれんぞ」

「副大統領!やめたまえ。言い過ぎだ」大統領がダフィーを睨みつける。プロテスタントのダフィーは、仏教徒の様に合掌して首を垂れる。ビルマ側の役割分担が効果的に機能しているので、山岸は満足していた。
アフガン国防相はダフィーから罵倒されて、意気消沈しているし、ビルマ側の予想外の態度に、米国は動揺している。事実ビルマ側の言い分の方が正しい。負けた米軍の代わりには普通は誰も立ち上がらない。

「皆様、今回は話が平行線のままになるでしょうから、そろそろお帰り下さい。わざわざお越しになられたのにお役に立てずに申し訳ありません」 大統領が頭を下げる。

「お待ち下さい。あの、4倍・・いえ、我々の年額駐留費の5倍を年末までの費用として出します。我々が持っているデータは全て提供して、敗因分析も包み隠さず開示します。その上で検討いただけないでしょうか!」 
ワインバーガー補佐官はそう言った後で、アフガン国防相に威嚇する様に囁く。「暫定政府の債務だからな」と言って頷かせた。

ワインバーガーもボルドンも認識を改める、「この国の責任者はズーチーでもモリでもなく、この2人だ。我々の認識が誤っていた」と。

クーデターが勃発したら、最高顧問と大統領も保護しないと判断したのは間違いで、救出したモリの判断が正解だったと、米国大統領補佐官は項垂れた。両名とも、ビルマ側の演技に騙されただけなのだが。

***

大統領府から出てくる米国大統領補佐官と元大統領補佐官で特使、アフガニスタン国防相に記者が一斉に群がる。補佐官に選出される人物は感情を殺し、表情を隠す術を持つが、暫定政権の国防相は明らかに意気消沈し、会談が低調で終わった可能性を告げている。交渉が上手くいかなかったか?と記者達は思いながら、矢継ぎ早に質問する。

ビルマ大統領府の発表した、出席者のリストの中にはモリの名前が無かった。国内に居るのは把握しているので、記者の誰かが問う。いや、実は会議の場に居たのだろうと誰もが思っていた。するとワインバーガー大統領補佐官が「居なかった」と残念そうに応えるので記者達が驚く。居ない方が米国に有利で、やり安かっただろうに、と思った。

「結果から言えば、断られました。仕切り直して次回に集中したいと思います」

「ビルマが派兵を受け入れる余地は有りそうですが?」

「その可能性は極めて低い印象です。 我々は諸々見直す必要があります。さて、飛行機の時間もあるのでこの位でご容赦願います」
大統領補佐官はそう言って、一行と共に空港へ向かう日本製のミニバスに乗り込んだ。

大統領府の常設送迎バスで、運転ロボが操縦している。バスの前後には実に小さな乗用車が付く。日本の警察が利用するミニパトという車種だと、日本人記者が周囲の海外メディアに紹介する。
ミニパトにはビルマ警察の山岳民族警備チームが2名づつ乗り込み、3台の車種が動くと、ミニパトの屋根に装着していたドローンが飛び立ち、上空から警備に当たった。

「日本の警備はこんなに進んでいるのかい?」 英国の記者が日本人のカメラマンに訊ねる。彼が写そうともせずにカメラを構えないからだ。物珍しさで他のカメラマンが撮りまくっているのに。

「いや、残念ながら一部の地方都市に限られているんだ。何れ、日本中そうなると思うけどね」
アジアビジョン社のカメラマンはそう答え、その後方に居た小此木クリムトン瑠依記者は、何やら考え込んでいた。アフガニスタン派兵は決定事項だとモリから聞いていたからだ。
「ビルマ側の会見を聞かないと・・」
瑠依は大統領府の建屋を振り返って見る。見送るビルマ政府関係者の中に、日本の総務省の官僚だった人物を見つけると、足早に近づいてゆく。

「おい、何処へ行くんだ」カメラマンが小此木記者に言うと、「トイレ!」と瑠依は応えて、小走りで向かう。 小此木が近づいてくるのを察した山岸は、大統領府の建屋に入ってしまう。
「話すつもりは無いってか!」瑠依は、踵を返してスタッフたちの元へ戻って行った。

***

「派兵交渉、合意に至らず」

この報をアフガニスタンの放送局はトップで報じて、放送を見たタリバン側は狂喜し、政権奪取は確実とアルコール抜きの祝杯を上げる。タリバンを支援する中国もパキスタンも安堵する。「米国はソ連に引き続き、アフガンの地で恥を晒すのが確定した」と北京では、アチコチで祝杯が交わされた。

日本政府は米国がビルマに頼る、派兵を要請するという状況が理解できず、アフガニスタンとビルマの日本大使に状況の報告を求める。
外務省も大慌てだ。カブールの日本大使館の閉鎖も含めて検討し始める。大使と大使館員、それに加えて在留邦人の脱出ルートを確保する必要が出てきた。「米国はタリバンに負けた」と見るのが普通だからだ。
タリバンの勢力拡大傾向に対して、アフガニスタン政府とアフガニスタン軍が自立するだけの組織に成り得たのか?と言うと、そこは米国流の支援なので、賄賂や横流しが当然の様に横行する政治と軍部となり、甚だ心許ない状況となっている。タリバンがアフガニスタン暫定政権を批判するのはお約束とは言え、余計な批判の材料を与えてしまった格好になっているのも、米国流支援の賜物に他ならならない。
敗戦後、米国の支援を仰いだ日本政府は困惑した。今でも対米従属に邁進している最中に、米国がベトナム、イラクに続いてアフガニスタンでも失敗し、今回は米軍が完敗した。当然ながら米軍主体の安保体制に懐疑的な意見が出てくるだろう。米軍に頼りきっていて、大丈夫なのか?と。

首相は、ビルマ大統領府を去る米国大統領補佐官一行の映像を繰り返し再生していた。
日本製ミニバスがビルマ工芸の塗装を施されている点ではなく、アフガニスタン暫定政府の国防相の落胆ぶりが気になって仕方が無かった。国防相というよりも、人生を諦めた人物か、首を宣告されたばかりのサラリーマンのように見えた。

総務省の元官僚がズーチー最高顧問の秘書官に就任しているらしいが、会談に同席したでどんな話があったか、その元官僚から聞き出せないものかと、考えていた。
元官僚の上司や同僚に仲の良い者が居ないか、調べさせることにした。情報源は幾つあっても困らない・・

ビルマ・ラングーンの邸宅に滞在中で政府オブザーバーであるモリの元には、ビルマのメディアが電話でのインタビューで良いので、取材を受けて欲しいと申し入れが殺到していた。

ビルマのメディアだけでなく、ビルマ入りした日本のメディアも何処で調べたのか、モリの邸宅内のビルマ社会党の電話をジャンジャン鳴らす。
シャン族メイド長の「リタ」は電話が鳴るたびに、どうしても反応してしまう。

「いちいち対応するのも面倒だろうから、電話線を引っこ抜いときなよ」と言って笑いながら、起き上がった体を旦那様は引っ張って、胸を吸い始める。旦那様は胸好きだと自分は思うのだが、妹はお尻だと言い、そこは姉妹で噛み合っていない。掛かって来た電話自体は誰かが対応している様なので、まぁいいかと思い、旦那様に身を委ねる。

そもそも、旦那様が議員になると、私達姉妹も義理の姉アリアには“秘書”という肩書を頂くと聞いている。メイドも調理係も、夜の相手も含めて奥方として仕事を全てひっくるめて、“秘書”と呼称するのが議員となったモリ家の定義となり、他の家ではまた内容も若干変わるらしい、と義姉から説明を受けて「リタも納得した。そもそも 「セクレタリィ、秘書」と言う言葉と概念が、シャン語には無いのだ。

「あなたは2人目、私は3人目の子作りが今年の私達の目標だから、親族から後任を2人を選んでおいてね。先生が好む娘が居ればいいけど、お眼鏡に適ったらあなたの株も自ずと上がるよ」と義姉が言うが、その旦那様好みの女性を探すこと事態が悩ましい。

「リアはまだ妊娠しなくていいからね・・」と今も旦那様に抱かれながら、言われる。
自分の妊娠は後回しにして、義姉の後任探しを、シャン州の地元の村でしようとも思っている。
とは言え、他の女に旦那様を知られたくはないと思っている了見の狭い自分が居る。以前に、
「マイはどうでしょうか?姉さんの娘なのでシャーマンの血が流れていますし」と、義姉と旦那様に聞いたら、

「まだ子供だよ」と2人から言われた。旦那様の相手は容姿だけではダメで、女性、人としての魅力が必要なのだと悟った。

我を忘れて乱れた後、旦那様の胸の中でいつも私は冷静になる。

やっぱり、この時間は無暗に他の女に与えてはいけないと改めて思う。日本人妻や娘達の様な、容姿の同胞がやって来たなら、私や妹の立場が無くなるかもしれない・・

(つづく)


タリバン兵

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