見出し画像

(6)オブザーバー参加の国際会議で、無双してみた。

イタリア・ナポリでNATO加盟国の会議が行われている際、各国からの反対を受けながらも新型の超音速ミサイルの発射実験を行うと公言していたアメリカが、発射テストを敢行したらしいとの一報が、会議を取材中のメディア各社から齎された。

体制変更後、ミサイル発射テストを行っていない民主ロシアは緊急声明を出して「蛮行だ」と強く非難し、世情と逆行するアメリカの姿勢の変更を再度求めた。
ロシアに遅れて数分後にベネズエラ政府を初めとする中南米各国の報道官が、新型ミサイルの開発に費用を投じるのではなく、混乱する国内事情を沈静化する方が先だろうと、アメリカがミサイル開発に費やした資金総額を晒し、アメリカ国内世論向けに訴えた。
報道官に続いて、ベネズエラの外相兼国防相のタニアが今回のテスト内容を全て暴露する。

「ミサイルは何らかの原因で失速したようです。出力が足りなかったのか、突然レーダーから消えました。破断分解して消滅したと思われますが、何れにせよ、今回のテストは失敗に終わったのではないでしょうか」とコメントする。
軍の分析チームを率いる中佐が詳細のテスト内容を包み隠さず紹介し始めたので、集まった記者はどよめいた。

米西海岸沖でB61爆撃機から発射された、外気吸入型極超音速巡航ミサイル(HAWC)と推定される飛翔体はマッハ9で飛行、高度約2万2千Mを超えた辺りで消え、約530キロ飛行したデータの詳細が開示された。中南米軍がこれだけの監視体制を持っていると明かしたようなもので、今までなら分析能力を明かしたりしなかったが、アメリカを愚弄するかの様に公開したのも、米軍など我々の眼中には無い、と切って捨てたようなものだ。

「中南米軍は米軍をもはや敵視すらしていない」「ベネズエラが公表した開発費が事実ならば、近年稀に見る無駄使い と言っても良いだろう。国は国防ではなく、内政に目を向けるべき」というアメリカのメディアの論調が大勢を占めた。

トップシークレットにしていた開発費やテスト費等の全ての項目が漏れている事にアメリカ政府は驚き、情報が漏れた原因と経緯を調査するように指示を出した。
既存のミサイルの改良型として国民に公開しようとしたのだが、莫大な開発コストと期間から、新型ミサイルであるのは容易に知れてしまう。ベネズエラの暴露は、政府に批判的な層を刺激するだろう。
合わせて暴露されたテスト失敗の報道は、NATO会議に出席していた米国国務長官と国防長官のメンツを失い、会議出席者の失笑の対象となり、盟主アメリカの転落を揶揄する象徴となってしまった。
このタイミングで超音速の新型ミサイルを成功させて、アメリカの軍事力未だ健在だと誇示する事で、NATOに於けるアメリカのポジションはまだ揺るがないと胸を張る予定だったのだが、「テスト失敗」という最悪の結末と共に全てが水泡と化した。
テスト成功後、大統領が新型ミサイルの早期導入を進めるとホワイトハウスで発表する予定だったが、開かれる事も無く終わった。

「たまたま落下してきた隕石」が、何故かミサイルに正面衝突し、レーダーから消えたのだが、軍事衛星や偵察衛星の無くなったアメリカには何処の国の仕業だと特定が出来ない。隕石にはエンジンが付いている訳ではなく、まだ大気圏に突入していないので燃えておらず、恐らくアメリカのレーダーは熱源探知が出来なかったのだろう。

柳井前首相と里子外相はタブレット内の日本のバックヤード部隊の騒ぎを見ていた。
アメリカの新型ミサイルを僅かなコストで簡単に迎撃し、アメリカ側のマル秘情報を全て晒して見せた。この段に至って、防衛省も流石に悟る。
爆撃機から放たれた超音速ミサイルでも、巡航ミサイルであっても、大気圏内から放たれたミサイルは、初弾や第一波攻撃を隕石で破壊し、第二波、第三波と波状攻撃された場合でも隕石と迎撃ミサイルの2本立てで破壊する技術が確立されたのだと。
また、米中の潜水艦は現在地の特定が常に出来ており、SCBMや巡航ミサイル等、潜水艦から放たれるミサイルも即座に対応できる。つまり、核弾頭搭載ミサイルを含めて、中南米軍には撃ち落とせない地上兵器はないと立証された。・・対外的には声高に言えない話なのだが。

「どうよ!これ、全部私が手掛けたのよ!」って感じで、ベネズエラの前国防相だった櫻田がドヤ顔で居るんだろうなと柳井前首相が想像していると、目論見通りの表情をした櫻田の顔写真が添付されたので、柳井前首相と里子外相が「プッ」と思わず噴き出してしまった。 2人の吹き出し音をマイクが拾ったので、異音が会場内に響いた。
「I’m terrible sorry..」柳井純子が即座に一言詫びたが、日本チームが噴き出したのはアメリカの失策を笑いやがったと、アメリカチームの誤解を招く。

ミサイルが消滅してから、米国国防省ペンタゴンはB61爆撃機が飛びった空軍基地でミサイル発射を見守っていた開発者チームと、ネット越しに喧々諤々と議論しあっていた。

「ミサイルの軌道上には一切障害物が見当たらなかった。日本がミサイルを逐一監視していた通り、想定していたマッハ10.5には至らずにマッハ9手前で飛翔していた。しかもミサイルが消滅するまでの飛行距離も正確に把握している。速度が予定に満たなかったことから、出力系統に何らかのトラブルがあった可能性も考えられる。正直、破損した部品を中南米軍に回収して貰い、原因究明のにも調査したい」という開発側の申し入れがあったが、ペンタゴンは同盟国ではないので無理だと一蹴する。
軍事衛星や偵察衛星が無い状態で、ミサイル発射テストに踏み切ったのも開発側の力強い自信があったからなのだが、出力が出なかった事をこの場で言い出す始末だ。開発委託先の変更も含めて考えなければならない。
「日本から監視していた際のデータを貰うわけには行かないだろうか・・恥を偲んででも、お願いすべきではないだろうか・・」制服組のトップが呟いた一言が今のアメリカの脆弱さを象徴していた。

隕石が破壊した超音速ミサイルは、モビルスーツが投網のようなネットを投げて、破損した部品を出来るだけ回収した。別にミサイルを分析したり、証拠隠滅しようとしていた訳ではなく、単なる地球周辺の宙域の清掃活動の一環だった。月面基地建設を進めながら、使われていない古い人工衛星やロケットの切り離したエンジン等の様々な宇宙ゴミ:デブリを網を使って収集し、月面の小屋をゴミ箱として格納している。お陰で地球周辺の宙域は、かなりキレイになった。デブリが何時、地球に落下するか分からないし、自分達のテリトリーにしつつある中南米軍の機体が、宙域を航行するのにキズに成らずに済むからだ。

ーーーー

「・・私が杜家の養女になったのは20歳の時でした。父は高校時代の担任でもあったんです。その時は30代後半でした・・そんな関係ですので、教師になる前の父を知らないんです。前職の会社関係の人とは今でも仕事をしているので、人物像は聞いているのですが、学生時代の友人と遊んだり、家に連れてきたことが無いので、家族は若かりし頃の父を誰も知らないんです。本人も過去を語りたがらないですし・・」

「Maderas profundas」(深い森)と名付けられたバンド メンバーの白川優希と長井理美をスタジオに招いて、モリの養女の一人、杏がインタビューをしていた。毎週ゲストアーティストを紹介する30分の音楽番組で、まだデビューもしていないアルバム発表前のバンドが、番組に出演出来たのも、日本政府からの政治的な圧力が掛かったからに他ならない。それでも番組の最高視聴率を記録してしまう。既に投稿された動画で曲が拡散し、興味を持った人々が数多く居たからだろうか。インタビューアーも今回は前首相の特命で、Angle社の社長の杏が担当していた。

「私は小学、高校と同級生だったんです。小学校に入学して、隣の席が 杜くんでした」

「杜くん・・凄く新鮮な響きです。どんな男の子だったんでしょう?」

「顔は然程変わらないです。今みたいに髭跡も当然無いですし、本当にお人形さんみたいな顔立ちで・・物静かな少年で、休み時間はいつも一人で、窓から外を眺めてましたね。あ、そうだ。これ1年生の時のグループ活動の時の写真です」

と言うことは、窓の外を眺めている少年を意識していた可能性がある。お人形さんだもんね・・杏は優希に対して軽い嫌悪感を抱いたが、インタビューアーとして動じずに話を合わせてゆく。

「出た!外を眺める習慣は今でもありますが、その頃からだったんですね。あれ?これ、杜家ですよね? 亡くなった祖母のピアノが置いてある部屋です。この部屋、今もこの配置のままです」

「大学生の頃は、この部屋で練習してたんですよ」理美がここぞとばかりに絡んでくる。

「へー、この部屋で・・知りませんでした。そうだったんですね。でも2人共変わってませんね」自分の子供たちも含めて似過ぎて動揺したのを、杏が圧し殺す。

「この写真を撮った頃、ハーモニカのグループ練習をしていました。杜くんのハーモニカはピカピカで、傷一つ付いていませんでした。どうしてだと思います?」優希が突然、杏に振る。

「ええっと・・モノを大事にする人なんです。未だに高校生の時に着ていたラグビージャージを着てますしね・・あ、ラグジャって頑丈じゃないですか。とにかく長持ちする服や機械が大好きなんです・・ハーモニカのお手入れをマメにしていたんじゃないですか?」

「んー、着眼点は良かったのですが、残念ながらハズレです。実は彼はハーモニカが苦手だったんです。特に吸う音、レ、ファ、ラが苦手にしていました。音楽の授業って、全員で一斉に演奏したんですけど、口パクみたいにして、音を出してなかったみたいなんです」

「あー、そっちですかぁ・・つまり、唾液類がさして含まれていないハーモニカ・・」

「そうなんです。女子はリコーダーも含めて、休み時間で楽器をちょこまかと練習しますけど、杜くんはロッカーに入れっぱなしで練習なんかしません。それがグループ練習になったものですから予定が狂ったんでしょうね、凄く動揺して慌ててました。
グループの女の子で居残りして、彼のハーモニカの特訓に付き合いました。特訓の後で女子を律儀に家まで送ってくれて、そういう意味ではプラマイゼロでしたね。車道側を率先して歩いて、犬の散歩とすれ違う時には犬から女子を離そうとするんです。お母様が噛まれたことが有るからって」

「また出た!天然のたらし野郎ですね〜」 杏の言い方に、優希と理美が腹を抱えて笑う。

「でも、それがキッカケでちょっとだけ仲良くなりました。2年生まで同じクラスで、後は別々で疎遠になってしまいました。中学も学区が違うので別々でした。高校入学でこの3人が同じクラスになります」

「なるほど、高1がバンドの始まりですか」

「えっとですね、3年生になってからなんです。高2の時にバンドが男子3人で発足します。杜くん以外のメンバー2人から誘われて、高3の1学期に私達女子2人が加わりました」

「そうだったんですね。あ、今度の写真はサッカー部の練習風景でしょうか・・あ、これだ。この一番背が高い彼がモリですね?」

「はい、そうです。私は彼のファンの一人だったので、カメラで写しまくっていました」
理美が余計な方向へ話を振る。

「ファンの一人って、当時はモテたんですか?」

「モテたなんてものじゃなかったですよ。それこそ、他の学校からも女子が練習の見学に来てましたから」

「あらー、じゃあ付き合ってた人も居たのかな・・あれ?ちょっと待って下さい、高校生の時は首相? 前首相?あれ、どっちだっけ・・」

「高2まで阪本首相で、高3から柳井前首相ですね。先日、柳井幹事長と会食した際に確認しました」

「なるほど。高校生のくせにやる事はしっかりとやっていた話は今では国民全員が知っているのでここでは割愛致しますが、まさか校内で2股掛けたりはしてないですよね?」

「あー それは無かったと思います。少なくとも学校内で彼と噂になった人は居ません」

「さすがです、元ファン!安心しました。ここで二股疑惑が出たらどうしようって、質問してから焦りました」

「でも、高校の誰も、彼が大学生と付き合っていたのは知りませんでした。それが分かったのも、後年になって首相経験するお二人が与党の議員になったからです」

「そのバンド仲間が議員になりました。当時は、政治的な発言をする若者だったのでしょうか?」

「正直、政治家は意外でしたね。2人で当時を回想してもその種の発言はありませんでしたし、元々口数の少ない人ですので、思い出しても音楽の話ばかりだったように思います。あー そうだ。お子さんたちは彼の歌声って、聞いたことあります?」

「いえ・・そうですね、歌ってるのは聞いたことが無いですね。家族で集まると誰かが歌ってるような家なのですが、時折りギターを弾いてるくらいですかね」

「そうですか、当時練習用の曲をこの間もやってみたんです。2人で内緒にしていて、せーの!でイントロを流したら、その気になってマイクの前まで来たんです。楽譜が無くてもベースをブイブイ弾いてましたし、歌声も当時のままでした。覚えてたんですね・・映像を持ってきたんですけど、見ます?」

「えっ、見たいです!・・でも、ちょっと待って下さい。30分番組なので曲を変えなくちゃ行けません・・一旦収録を止めましょう。映像を見てから、もう一度判断しましょうか」

「ごめんなさい。予定に無い発言をしちゃって・・」 優希と相談して、トーク担当に任命された理美が、思わず脱線してしまったようだ。

ーーーー

カラカスのミランダ空軍基地にロシア政府の専用機が到着し、セルゲイ・レオノフ首相とアルテイシア・フアウル外相がタラップから降りてくると、モリ大統領とタニア外相が出迎えて抱擁を交わす。
アルテイシアがモリの耳で2人にしか分からない言葉を囁くと、モリは「了解」と返す。
盟友との久しぶりの再会となり、タニアを除く3人はじゃれ合うように移動し始める。ここに中国の梁振英外相が揃えば、完全に同窓会のようになっただろう。

2期目のモリ政権が稼働して2ヶ月弱、最初の訪問国はやはり民主ロシアだった。
空港での歓迎式典も開かずに4人が1台のミニバンに乗り込むと、空軍基地内の作戦室のある棟に移動する。
NATO会議の共同声明を行なわれる最終日に、NATOの仮想敵国ロシアがベネズエラを訪問するという動きに、ロシア側のNATOを牽制する思惑が透けて見えた。それに与するベネズエラもNATO加盟国の数か国に中南米軍を派遣しているので、双方に関与している格好だ。
ベネズエラにもEU会議とNATO会議に参加要請を出したのだが、予定が既にあると言われて断られた。モリがバンド活動を再開し、ロシア訪問が理由だったと判明して、敵対関係になりつつある米英仏は憤慨していた。

ロシア訪問の表向きの理由は大統領再任を祝いなのだが、セルゲイ、アルテイシアと長年タッグを組んできたベネズエラの会談が軍事協力も含めて、多岐に渡って議論が交わされるのは間違いなかった。滞在日程も4日間と長い。最終日はパナマに移動して、中南米諸国連合の首脳会談にも参加する。
今回の日本とベネズエラのシフトも注目された。日本がNATO側に立ち、ベネズエラがロシア、CIS側に立って双方の仲介役となる、一見、どちらにも配慮したかのように見せて、実態はロシア、CIS側に立っているのは明白だった。

各国が驚いたのが、ロシア到着から直ぐにミサイル発射テストが行われた。こちらは国際条例外の宇宙空間でのテストなので、事前通達外となる。
サンダーバード輸送機にロシア製とベネズエラ製の超音速ミサイルが搭載されると、南米ギアナの宇宙センターから飛び立った。
高度10万キロの宇宙圏に到達すると、それぞれのミサイルの発射テストが行われた。

地球上で配備しているロケットを月面基地に配備して防衛任務に当たるためだとベネズエラの報道官が述べたが、結果はロシア製がマッハ40、ベネズエラ製がマッハ50を記録した。
無重力で空気抵抗の無い宇宙空間ならではの数値だが、アメリカのマッハ10は話にならない。超音速ミサイルとはとても言えないと軍事評論家達が扱き下ろす。
「NATOは未だに国家間の国防体制でしかない。中南米諸国連合とロシアの視線は地球防衛に向けられている」と。スケールの違いを見せつけている。

また同じ輸送機2機に、エンジンをベネズエラで積み替えたスホーイ戦闘機4機を載せて宇宙センターから打ち上げた。宇宙空間で待機していた強襲揚陸艦のパイロット役を務めるロボット4体が乗り込み、飛行実験を行った。
セルゲイ、アルテイシアもスホーイが地上ではあり得ない飛び方をするので、拍手喝采して上機嫌だった。ロシア軍もパイロットを月面に送り込むのだろうと誰もが思う映像だった。片や、NATO陣営に付いた日本は国内専守防衛に転じた自衛隊だ。
自衛隊も空自のパイロットと潜水艦クルーだった自衛官を月面基地派遣を決定しているが、自衛隊は宇宙空間向けの輸送機やシャトルを持っていない。従って、ロシア、インド、パキスタンのように核廃棄、脱原発の意思表明をし、中南米軍の支援を得られる国のみが、月面基地に参加出来るという話になる。

フランスが最後の最後で共同声明への署名を辞退した。大統領が署名を辞退した理由を会見で述べる。
「本会議で検討した事項を議会で再度協議したい。勿論、核廃棄も選択肢の一つに加えて各党間、議員間で意見を交わし、専門家の意見を聞いて、我が国としての見解を明確にしたい」と発言した。

「フランス、遂に米英と袂を分かつ」という見出しでフランスのメディアが一斉に報じる。大統領の会見の裏の意図を、国防省の高官が事実上の方針転換だとマスコミに明かした為だ。高官は匿名を条件にして、コメントしたと言う。
「ロシアが中南米諸国連合と緊密さを増す中で、宇宙空間での防衛協定に踏み切るのは時間の問題だろう。宇宙空間の迎撃システム、ヤマタノオロチがロシアをカバーするようになれば、落下する隕石どころか、核ミサイルも迎撃されてしまう。つまり、核兵器保有はロシアに対しても抑止力にはならず、無用の長物になってしまう」

ホワイトハウスは2重3重に意気消沈していた。自分達のミサイル計画をあざ笑うかのように、ベネズエラとロシアが宇宙空間用のミサイルを開発していたからだ。仮にアメリカのテストが成功していても、ベネズエラとロシアのテスト結果の方が上回り、アメリカの技術力が両国に劣ると知らしめたかったのだろう。
それが失敗した事で、さらなる恥となった。テストに成功したところでフランスは去った可能性が高いが・・。

地球に落下する隕石を破壊出来る速度のミサイルをロシアも手に入れた。
地上で発車した場合の速度と航続距離は分からないが、マイナス マッハ10としてもマッハ30、その速度で迎撃出来るミサイルはアメリカには無い。隕石の落下速度と同じものを撃ち落とす術はない。ロシアが既に配備しているのかどうか分からないが、こちらには失敗したミサイルしかない。
屈辱的な展開、徒党を組んできた一角が方針転換するのは、もはや避けられないだろう。
だからと言って、イギリスも我々も、フランス同様に方針転換すれば社会党の台頭を促すだけで、共和党のみならず、従来政党として見られる民主党も衰退の可能性がある。
そこにフランス大統領からのNATO会議で役割を果たせずに申し訳ないとの詫び状が、親書として届く。その言い訳めいた文の中に最終通告のような一文が潜ませてあるので目を疑った。こうなるのは分かっていながらも、フランスはまだ足掻いてくれるかもしれないと一縷の可能性に期待していた。
「フランスは欧州の国々と共に歩みます」とある。これで詫び状の体を取りながらも「アメリカに対して離脱の意向を書面で伝えた」として、この親書が位置づけられてしまった。

「別離宣言か・・」完膚なきまでに叩かれた、と大統領は椅子に沈んで溜息をつく。
前任者の辞任に推されてこの国のトップになったが、この四面楚歌の状況で我が国は日本連合の支援以外の方法がもはや見出だせなくなった。
彼らに真っ向から挑んだところでもはや勝算など無い。もし、日本連合に抗えば、投じた資金も人材も何の成果も出さずに、無に帰してしまうだろう。

巷ではモリが音楽活動を始めたと、あちこちで取り上げられている。
古いヒット曲を演奏しているが、そこで歌うモリは驚くほど上手かった。曲を作ったバンド以上に見事だと賞賛される程で、モリにもヴォーカルを担当させるべきだと評価されている。
諸々が上手く行き、笑いが止まらないのだろう。バンド活動が出来る余裕が生まれたので、自らのスキルを晒して、世界を手にした権力者として己を神格化したいのかもしれない。
日本連合、中南米諸国連合、アフリカ諸国連合の事実上のトップで、アジア各国が日本に擦り寄っている。月面基地に人が滞在を始めれば、その話題が先行して関与できない国は更に蚊帳の外に置かれるだろう。

国連事務総長を経て、世界の頂点に立った。戦闘機にも乗り、作曲活動も始めたと思ったらこの美声だ。老いたとは言えルックス的には俳優のようだ。ソコソコ売れてしまうのだろう。今まで以上にモリは民衆に受け入れられるだろう・・
数々の名声を得て、多様な才能をひけらかすようになったのも、自らを英雄視させるためなのだろう。一般市民が成り上がって権力を得たので、やはり己を神格化し、権力を牛耳ろうとでも考えているのかもしれない。
片や同じ大統領である自分は、モリよりも年長者で、身長すら劣り、腹の出た典型的な白人の老人だ。民衆受けするような特技も無い。男として比較されれば惨敗は必死だ・・
軍事的にも、経済的にも、人物像であっても真っ向から挑めないのなら、何らかの弱みに付け込んでヤツの足元を浚うのと同時に、日本連合の成長を止める方法は何かないだろうか。モリの増長に歯止めを掛ける手段はないのか・・

モニターの映像は切り替わって、今度はテレビ局のスタジオでの演奏に変わった。ベースを弾いて歌っていたモリが居なくなり、ロボットがモリのフィンガー奏法ではなく、ピックを使って弾いている。ドラムもサイドギターもロボットで確かに上手い・・日本の音楽シーンにはロボットが演奏するようになり、人間が不要になるのか?と、ラウンド大統領が思い、受話器を取り上げた。

「CIA長官を呼んでくれないか。私がアイディアを求めてると伝えて欲しい」

(つづく)

マルちゃん、ビルマの国境地帯に接するインドのインパールって街を知ってる?
更に増殖中。内閣官房費や使途不明金の行き先(?)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?