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11章 都議ですが?(1)紆余曲折 (2023.12改)

「富山県知事に内閣顧問要請?連立政権も打診か?」
「杜 都議を議員外の外相として招聘か?」

斑山政権時に社会党との連立政権を組んだ前例があるので、その手の噂が広まる。
その前例があるからこそ、社会党に母子は合流したのだろうと勝手な憶測が流れた。実際、打診があったらしい。しかし、泥舟に安安と話に乗るつもりは微塵も考えておらず、逆に恩を売ってやろうと企んでいた。それも、トラップを当然の様に仕込んだ上で。

外相辞任やむ無しの状況で与党は大揺れとなっている。
外相の後任探しも重要だろうが、最大派閥の長でもあり、石場政権の立役者でもある人物がつまづいた。自滅党の次の総裁候補と言われ、一心に人気を集めていた梅下がスキャンダルで瓦解したのだから、政権と与党に与えるダメージは大きかった。
政権を維持するには、支持率を上げている社会党との連立しかないだろうとマスコミも論じ、無責任な記事を記者たちは書いていた。

県庁を出る際に記者達に囲まれ、立ちんぼの会見に臨んだ金森知事は、社会党として来年の補選で擁立を考えている国際政治学者を与党に推薦したと述べた。
高校大学が同じ、友人という繋がりを知事が打出し、タイに滞在中の外務次官が「意義なし」と賛同したので、勢いで後任が決まってしまう。

「社会党の未来を担うホープを紹介したついでに、もう一人受け入れて欲しいって政府にはお願い致しました。この冬、コロナ対策が必要になるでしょうから、感染学が専門の越山あかりさんを厚労省に特別顧問として放出します。越山教授は、富山県でもコロナ対策のブレーンとして支えてくれました。彼女も来年の補選に立候補します。当然ですが、我が国のコロナを血祭りにしちゃうでしょう。その成果を掲げてトップ当選を目指します。
厚労省の感染対策のイロハを知らない諸君、特に訳も分からずに椅子に座ってるだけのアルファベットのGさんどもは、彼女に従わないと痛い目に遭うわよ〜。それとね、PCR検査キットをどの党の誰かさんが提供してるんだか 考えなさい。
批判ばかりして、プランを何も出さないままなら、厚労省とあんた方の病院には一切支援しないからね。先ずは国民を守るあんたがたの使命をよーく自覚して仕事をしなさい。では、次の予定があるので以上で終わりまーす」

知事は記者たちに手を振りながら県庁を去っていった。金森が政府に2人を送り込んだのは勝算があったからだ。

金森知事の発言通りに外部招聘で前田未来外相の就任が内定し、同日梅下氏は外相辞任と与党からの離党を表明する。針のむしろ状態になるのを承知で議員は続けるらしい。

懸念は大臣では無くなったのでSPが居なくなり、プルシアンブルー社の警備用ドローン等も当然のように引き上げた。自腹で警備会社に委託するしかないだろう。

ーーーーー
モリ一行が外相辞任を知ったのは、トラートにある王族の別邸でご馳走になった後だ。
モリは作為的なものを感じ取った。処分に至るまでが早すぎるように思えた。
「文春々砲」で知られる週刊誌の場合、雑誌発売日の前日の時点で掲載内容が分かるので、前日の時点で騒ぎになる。しかし、市議による告訴的な内容は完全に伏せられ、当日になって公開された。AIに過去の同紙のスクープを検索して貰っても、そんなケースは見当たらなかった。前日の時点で「追加情報」が提供され、内容が急遽変更した可能性を想像した。
この話題に注目してしまう理由は、女性問題が原因となると他人事とは思えないのと、元外相の元カノが手元に居るからだろう。

また、何故妹の真麻の写真が掲載されていたのか?タイに居るので状況が分からず、理解に苦しんでいた。

日本への帰路に着くに辺り、ボルネオ島のマレーシア・コナキタバルで一時着陸し、ボルネオ/カリマンタン調査隊の面々をピックアップする。
その面々の中にブルネイの第5王女と執事2人が加わっていた。里子の預りが増える。タイ・カンボジアに続いて3カ国目の王族となる。

問題は第5王女が予想よりもかなり若かった。年齢を聞くのを失念していた。
執事に聞くと「お嬢様と同じ年齢でございます」と言われて頭を抱える。お友達扱いで娘にガイドしてもらおうと考えたのだろう。短絡で迷惑なのが王族だ、指示するだけで全てが動く世界で暮らしているので、相手の事など考えたりしないのだろう。極めて非常識な連中だ、と理解し始めていた・・。
王族を富山に連れてゆく訳には行かない、いや面倒だ、富山でいいだろう?と暫く葛藤していた。

ーーー

母親の妊娠が判明して、村井姉妹と平泉姉妹は複雑な感情に囚われていた。
弟妹が生まれるのは喜ばしいのだが、生まれた子とは父親が異なるのと、事前の取り決めで杜姓ではなく、母方の平泉家の子となる。姉妹の4人は養女を想定しているので、杜を名乗るようになり、村井家と平泉家の相続権を失う。
母親の喜びようは尋常な状況ではなく、生まれてくる子に全ての愛情が注がれるのは間違いない、とも確信していた。要は家族形態の変化が想像出来ず、漠然とした不安を抱いていた。

空港に迎えに来た平泉姉妹の杏と樹里は、20近く下の赤ちゃんを見た時にどう思うのだろう?どんな感情がするのだろう?と話し合ってきた。姉妹はイタリア人の父との間の子なのでハーフだと分かるが、赤子は普通に日本人となる、外観からして異なるのだ。
「今更どう言っても仕方がない」
「なるようになるさ!」と、毎度のように締め括っていた。


「お疲れさま〜」杏と樹里が手を降って居るので、3人で近寄ってゆく。

「あれ、誰よ?」「さて?どちら様でしょうねぇ?」と姉妹が言ってるのが分かる。一番辛いのは本人なのだろうが・・

「えっと、こちら外務省の櫻田さん、江東区にお住まいなんだけど、アパートが火事で水浸しなんだってさ。今夜泊まって貰うことになった」

「櫻田です。ご迷惑をお掛けいたします。誠に申し訳ありません」
到着早々で物凄く辛いのに、申し訳なさそうに頭を下げる。基本的には良い子なのだ。

「そうですか、それは大変ですね。とにかく参りましょう」杏が棒読みで返して歩きだす。
動きながら先導役を玲子と由真に託すと、こんどは姉妹が後退し始める。

「ちょっと話がある、ツラ貸しな」的なモードで挟まれて立ち止まった。まぁそう思うのも仕方がないのだが・・

「あの子とは何の関係もないよ。仕事上の接点だけだ」と、先制攻撃を仕掛ける。

「本当に? どうみても先生の好みでしょ?」
樹里がモリの前で仁王立ちする。見上げる状態になるので本人の意図に反して、可愛らしい。

「源家の皆さんが富山に行ってるから泊まれるんだけどね。まさか、自分の部屋に泊めようって考えてた?」杏がモリの背中に指を立ててスーッと引いた。

「外務省の判断に関与できないし、明日はアメリカに一緒に行くから、空港に近いウチでいいかなって思ったんだ。・・で、何しに皆さん富山へ?」

「外相の辞任絡みらしいんだけど、教えてくれなかった。ママは知ってるみたい」
「外相絡み?」

「歩きながら話そっか。先ず、北米行きのメンバー変更が変更になった。由紀子お婆ちゃまは変わらずで、真麻さんの代わりに由真さんに変更になった。
先生の狩猟チームはアメリカには入らず、自衛隊の一部と一緒にカナダ専門になるんだって、それで急遽調理班を配備することになって翔子叔母様とウチの理子叔母さんが調理班として帯同する。商店も無いような地域なんだってさ」
杏が歩きながら腕を絡ませてくる。

「なんだろうね、よく分からんな・・誰が決めたんだろう?」

「外務省かな?選挙前に先生がアメリカ内に居る状況で、2つの陣営が「よく来てくれた、ありがとうって」ハグする映像をニュースで流すんじゃないかって思ってたのよ、私は。要は、そういう選挙のPR映像が使われるのを避けたかったのかもしれないって考えた」

「もしくは日本政府が社会党のポイントになるのを敬遠したか、だろうね」
妹の樹里がモリのキャリーバッグを転がしている逆の手で握ってきた。
今夜は2人が相手?それで、櫻田に盗られるとでも思ったか?・・と思いながら、樹里の意見の方だろうとモリも想像していた。

首相も取り巻きのスタッフも、必死なのだろう。空港に、マスコミが誰も来ていないので「妙だな?」と思っては居た。

ーーー

日本側が提示して来た資料の中にモリの名前が見当たらないと、回答を求めているのだが未だに日本政府からの回答が無い。
カナダ大使館に確認すると、カナダ側に提示されたリストには1兵卒として記載があるという。モリの判断なのか?と考えた米国の大使館員は、大使に事情を説明し、モリはこのままではアメリカ入りしないだろうと伝えた。

外相更迭により、副外相に説明を求めた大使は副外相の知らぬ存ぜぬの態度に激怒し、一度富山で会った、村井志乃に連絡をした。

新宿オフィスに米国大使館からの連絡で名指しされた志乃は、恐る恐る受話器を取る。

富山の旅館で会った米国大使からで、「あなたは今回は猟に行かないのですか?」と冒頭で言われ、カチンとスイッチが入った。

モリがカナダ行きを望んだわけではなく、日程とチーム分け等の全てを取り決めているのは日本政府で、直前のカナダ行きの変更で、その上補給が十分でない地域を担当する事になり、兵站担当の人員追加の必要が出て、甚だ迷惑している旨を伝える。
実際、志乃は同行したいのだが娘を残して2週間滞在は無理なので、翔子と理子の2人が調理班として同行することになった。アメリカ側の判断でないのなら悪いのは日本政府だと確信し、優しいイメージしかない大使に、現場は怒っている旨を志乃は伝えた。

やはり民主党と日本政府の画策だと察した大使はイキリ立つ。大統領宣誓が終わるまでは、共和党が政権を担ってる。それまでは我々が主導権を持っている。勝手な真似はさせんと共和党が日本へ送り込んだ大使は決意する。
「モリのスケジュールを数日空けろ!」
「最低1日はホワイトハウスで滞在させろ!」
と騒ぎ出した。

北部で猟を視察し、当地でモリとの会談を予定していた大統領代行側のスタッフは、急遽北部での演説会をキャンセルする。
そして空軍の輸送機を手配し、カナダからモリをワシントンまで運ぶように段取った。
その間のカナダ側の作業が遅延しようが、穴が出ようが共和党陣営の知った事では無い。
大統領代行とモリが会談し、双方で関係を築き上げるのが共和党、引いては大統領代行にとって重要だった。今回の選挙で民主党に破れたとして
も、共和党と日本社会党のパートナーシップを醸成し、2年後の中間選挙と4年後の大統領選で党の勢力を取り戻すのが陣営の目標だった。大使としても、再任されて日本に来たいと願っていた。

「志乃さん、あなたも来て欲しい。保育園はお休みにしてお嬢さんも一緒に行こう。あなたが猟をしている間、私が護衛達とともにお嬢さんを預かるから」
再び電話を掛けて来た大使の発言に、志乃は驚いた。

「前日で申し訳無いのだが、スーツを持参してほしい。あなた達にホワイトハウスにまで来てもらう必要がある」
大使との通話を終えた志乃は、里子と理子の姉妹と再協議した。

ーーーー

家で酔っ払って寝ていると、「センセ、お酒クサイ」「お顔、真っ黒」と弄られているので目を開けると「おかえりなさい、ダンナさま」と保育園児が三指立てて頭を下げているので起きて早々に吹き出す。由紀子お婆ちゃんのマネなのだろう。

「ただいま〜」頭を撫でていると「あのね、私も、わいとうすに行くよ」とこの日の美帆ちゃん報告会が始まった。しかし、単語が分からないので流す。

「行くんだ?良かったねぇ」

「うん、楽しみ。ミッキーとミニーちゃんいると思う?」幕張か?と思い、

「ディズニーラ○ドでしょ?そりゃ居るよ、いっぱい居るって」後で、教えてもらう。1ペアしか園内にいないらしい。お子様に適当に返答してはならない。

「おかえりなさい。あの大使から私達も招待されました。2人でお供させていただきます」
志乃に言われて余計に混乱する。理解が追いつかない。

「シノさん、旦那、バグってます!」
杏がカウンターキッチンからサポートして来た。「ディズニ○ランド、ミッキーと女の子のねずみ・・、で、招待?」

「あースイマセン、全部忘れて下さい。えっとハンティングに私も参加します。美帆はその間、由真と翔子さんに預けていきます。ログハウスがカナダでの私達の拠点ですが、アメリカ大使館員が日中は護衛していただけるそうです」

「じゃあ、ミッキーって?」・・カナダにディズニーランドってあるんですか?
「えっと、うオルトディズニーのオフィシャルグッズってカナダ製が多いんです。美帆のミッキーのぬいぐるみがカナダ製でして」
「そういう話ですか・・」
「はい、色々すみません」
「ミッキー!ミニー!いっぱい!」

田舎街で売ってるのだろうか?泊まるのログハウスでしょ?と思い、笑うしかない。

下手な約束は身を滅ぼすのを知っている。娘に何度も泣かれ、その度に絶望を味わったからだ。

(つづく)


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