45歳はじめての転職 第6話 ある日本企業のジレンマ

第6話 ある日本企業のジレンマ

自動車やデジタル家電関係の部品技術で急激に成長している会社がある。昨年東証1部に上場したそうだ。仮にC社とする。そのC社で人事の求人の話があった。元々人事課長を採用する話であったがそれはタッチの差で他の人に決まってしまった。その後に私の職務経歴書をみた人事担当常務が興味をもって話をしたいといってきたわけだ。

常務の話はこうだ。

「私は常務で人事部長を兼務しています。しかしもう今年63歳になり、今後の後任について考えなくてはいけないと思っています。そんな時に今まで期待していた人事課長が会社を辞めてしまった。そこで求人をだしたのです。あいにく課長のポストは決まりましたが、あなたの職務経歴書をみて、ぜひ会って見たいと思ったのです。」

「我が社は、非常に高い技術力をもって、xxの分野ではトップメーカーです。今や東証1部に上場し、海外への生産展開も盛んです。連結では3000人を超える体制になっています。しかしながら次世代を担う人材が育っていない。特に人事がそうです。海外に展開しているものの英語のできるものがいないことにかまけて、現地は何も手がついていない有様です。ビジネスの状況は非常に大きく変化しており、これからの組織や人事制度も大きく見直しをする必要があります。社内で候補者がいない以上、私は外からでも人材をとりたいと思っています。」

「あなたは今まで一流企業で働いてきたわけですが、本当に我が社のようなところで働いてみようと思っていますか?」

私は答えた。

「非常に興味があります。大きな組織にいるよりも、より広い責任を持って働きたいと思うからです。御社の話には魅力を感じます。」

1回目の面接はいい雰囲気で終わった。そして2回目の面接に呼ばれた。もう1人別の役員に会ってほしいということだった。この役員は経営会議の議長を務める実力者で、代表取締役社長と同じ苗字を持つ、多分親戚筋の人であった。2回目の面接でも話は盛り上がる。面接の印象は大変よかったと思う。

私も相手の話を聞くうちに、この会社に対する関心を深めていった。「これもご縁かもしれない。」と思うようになった。

しかしそれから2週間ほどたってのある日、ヘッドハンターから次のような連絡が入った。

「先方の常務も役員も大変あなたのことを気に入ってくれました。しかし、社長にこの話をもっていったところOKはでませんでした。その理由は人事のトップは生え抜きでないとダメだというものでした。本当に残念ですが今回はあきらめてください。」

私は自分のこと云々はさておき、社長の一言で前言が覆されてしまった会社の意思決定にあやうさを感じた。グループ全体で3000人を越すような企業であるのに、役員たちがOKしたことが社長の一存で、たいした根拠もなく覆されてしまうからだ。

必要な人材が内部にいないとわかっていても、人を外から取ることはできない。もしかしたら、今必要な人材がいるのに、外部の人間というだけで会うこともしない。この会社は、一方で変化したい、新しいことがしたいと言いながら、実は変化したくない。彼らにとってのプライオリティは、変化よりも秩序の維持なのだ。古いタイプの日本企業の多くがこれだけ厳しい時代になっても実はこんな状態ではないか。

人材の流動化が叫ばれて久しいが、現状はなかなか変えられていない。もし同じような状況にある外資があれば、このような場合、外部から人材を入れて課題を解決する手を打っただろう。競争社会の中でこの会社は後手を踏んでしまったのではないか。ここらへんに日本企業のジレンマがあるような気がする。


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