『耳の長い宇宙飛行士』(超短編小説)
おかしな色をした雲だった。
紫と赤が混じり合った不思議な色が街を覆っていた。確か、外国の偉い予言者が言っていた。空が宇宙と融合し始めている時、こういう紫の空が現れると。
顔を上げたまま歩いていると、私は蓋の開いたマンホールに落下してしまった。視界が一気に真っ暗に染まり、数十秒落ち続けた。地面にたたき付けられたかと思ったら、トランポリンみたいな柔らかい布の上に落ちて、ボヨヨーンとはね上がった。その勢いのままマンホールを飛び出て、体はどんどん上昇して、紫の雲にぽっかり穴を開けて、宇宙まで行った。
「うわあ〜、プラネタリウムよりきれいだあ」
星の絶景を眺めながら思いだした。そういえば、炊飯器のスイッチを入れたままだ。ノリの佃煮を買うためにちょっと外に出ただけなのに、まさかこんなことになるとは。
無重力の中を遊泳していると、金色の月の方から何かが近づいてきた。うさぎの宇宙飛行士だった。よく見ると、近づいてきたのではなく、自分の体をコントロールできずに、もがきながらふわふわ流されているだけだった。うさぎは助けを求めるような涙目でこちらを見てきた。
得意の平泳ぎでうさぎの方に行って、背中のあたりを掴んだ。
「もう大丈夫だよ〜」
「・・・」
「よし、ぼくが泳ぎ方を伝授してあげよう。ほら、よく見といて。両手と両足をこうやってやるんだ・・・」
私はうさぎに平泳ぎを教えた。悔しいことに、うさぎは私より平泳ぎが上手になった。
「ところで、うさぎくん、お腹はすいてないかい?」
「もちもちもち・・・・」
「ああ、そうなんだ。おもちが食べたいんだね」
「そろそろご飯が炊ける頃だから地球に帰るけど、来る?」
「もちもち・・・」
「もちろんもちろんって、キミはノリがいいね。じゃあついてきて」
私とうさぎの宇宙飛行士は平泳ぎで地球に戻った。
「どうぞ。狭い家だけど。ご飯が炊けたいい匂いがするねえ」
「もちもち・・・・」
「なるほど。いいアイデアだね。ご飯をおもちにしてくれるんだ」
うさぎは慣れた手つきで、もちつきをし始めた。あっという間におもちができあがった。食卓はおもちでいっぱいになった。宇宙遊泳の後のおもちは格別だった。うさぎは食べ過ぎて体が丸くなってしまった。
「もちも・・・」
「ああ、そうか。もしも、このまま月に戻れなかったらどうしようって心配してるんだね。大丈夫。ずっとうちにいていいよ」
「もちもち・・・」
「えっ、この本のこと?」
「もちもちもち・・・」
「あ、そうなんだ。すごいね!かぐや姫に会ったことがあるんだね」
その日、私たちは朝まで語り明かした。どうやら、かぐや姫に失恋した話を誰かに聞いてほしかったらしい。
(了)
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