必然の0-4。即席の無策で挑むには強すぎた南米王者~日本対チリ 分析~[コパ・アメリカ2019 グループC第1節]
事情がありますので週一本になってしまいましたが今回は、Jリーグをお休みしてコパ・アメリカを取り上げます。Jリーグは、コパが終わってからまた取り上げます。今回分析するのは、日本対チリ。オリンピック世代18人+オーバーエージ5人という23人のメンバーで南米に挑むことになった日本代表。初戦はコパ・アメリカ防衛を目指す2連覇中の王者、チリです。しかし、結果は皆さんご存知の通り0-4。結果を見ただけで、大敗ですし、かなり苦しい試合になったことは分かりますが、必然と言える結果だと思います。そして、オリンピック世代を18人招集しているということは、数年後の日本代表を引っ張っていく選手たちに、貴重な経験を積ませるという部分が大きな狙いにあるわけなので、選手たちにとっては、とても良い経験になったと思います。
ですが、0-4で負けたわけなので、では、大敗を喫した理由を戦術的に分析していきます。その中で、日本代表がいかに戦術的に乏しく、なぜ必然の敗戦であったのかを明らかにしていきます。
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前回のエルサルバドル戦の分析はこちら↓
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スコア 日本 0 : 4 チリ
チリ 41’プルガル 54’バルガス 82’サンチェス 83’バルガス
スターティングメンバー
まずはスタメンから。日本は、GKに大迫を起用し、杉岡、原、中山、前田、上田がA代表デビュー。前田が右SHで久保がトップ下に起用されました。直前の6月の2試合、トリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦では3-4-2-1を採用しましたが、それまでにずっと採用していた4-2-3-1を採用しました。
チリの方は、メデルや、イスラ、ビダル、アランギス、サンチェス、バルガスら主力が順当にスタメン起用され、システムは4-3-3。事前にルエダ監督が公言していた通りのスタメン11人となりました。
第一章 無策が露呈。積み重なり続ける課題
まずは、日本の守備から分析していきます。
まずは日本の守備のシステムと、チリの攻撃システムについて。
日本は、トップ下の久保とCF上田が横並びになり、4-4-2。第一PLをハーフラインに設定して守備的プレッシング。完全なゾーンディフェンスでブロックを組みます。チリの方は、5レーンにバランスよく選手がポジショニングして攻撃する、というコンセプトがあったわけではなく、4-3-3のままで攻撃していました。
では日本の守備を見ていきます。
相手CBにボールを持たれている時は、FWがボールを持っている相手CBに対してバックマークプレスをかけることができていたので、相手アンカーをそれで消すことが出来ており、FWが一人で二人をマークする守備になっているので、2ボランチは、相手2IHを見ればよいので、2対2という構図になっています。
しかし、問題はSBがボールを持った時の守備です。
CBがボールを持っている時はFWがバックマークプレスで、CBとアンカーをマークで来ていたのですが、SBに持たれた時、ボールから遠い方のFWが下がってアンカーをマークするタスクを与えられていなかったので、相手アンカーはフリーになっています。それは、2ボランチの中山、柴崎が2対3の数的不利に陥ることを意味します。
しかし、マークをしないと、フリーのアンカーにパスを受けられ、ボランチ前でボールを持たれ、後手に回ってライン間に縦パスを入れられたり、逆サイドに展開される可能性があります。ですから、一番ボールから遠い、逆サイドのIHをフリーにして、2ボランチはボール側IHとアンカーをマークすることを選択。マークがずれることは致し方ありませんでした。
ですが、エルサルバドル戦では、
このようにCF永井が下がってアンカーをマークする、ということができていたわけです。
しかし、3バックから4バックになるとそれが出来なくなった。SBに持たれている時にCFが下がってアンカーをマークする、という全く同じタスクなのですから、4バックになったことは関係なく、容易に落とし込むことが出来るはずです。ここから考えると、エルサルバドル戦のプレッシングは選手同士がコミュニケーションを取って決めて行ったこと、という仮説が現実味を帯びてきます。
また、今回の2ボランチに対しての数的不利という現象の影響が、ボールサイドだけで留まっていれば良かったのですが、そうはいかず、とても大きな問題が生じていました。それは、チリの攻撃における大きな狙いでもありました。
上図のように、チリは、左サイドからビルドアップをして日本の陣形を左に寄せ、左IHビダルから一本のサイドチェンジでスペースのある右サイドに展開。そしてSHフエンサリーダ、SBイスラ、IHアランギスの3人の連係で打開する、という攻撃の主軸となるプレー原則がありました。
それに日本は振り回されることになります。右サイド(チリの左)で2ボランチが数的不利の、マークがずれている状態での守備を課せられたところから逆サイドまでスライドすることになるのですが、右ボランチの中山はまだしも、左ボランチの柴崎は、相当厳しい役割になっていました。元々のポジションより、マークをずらしてアンカーを見るので、普通よりもスライドの距離が長く、左サイドにスライドした時には、左のSH中島が下がってこないので、左サイドでも相手の3人のユニットに対しての数的不利の守備を強いられます。
サイドチェンジをされているので、スペースと時間がある状態でボールを持たれているうえ、チリからすれば数的優位。日本は、このサイドチェンジ攻撃から何度もピンチを作られ、1失点目のCKのきっかけにもなっていて、失点の原因ともなっている。それは、
①SBにボールを持たれている時のFWの下がる守備の欠如。
②左SH中島が下がってこないこと。また、前残りを容認する場合の中島の背後をケアするプレー原則が無いこと。
この二つが理由です。また、左SH中島の守備貢献度の低さをどうケアするのか、ということは森保体制発足からずっとの課題です。これらを考えると、いかに日本がチリへの対策がない、無策ぶりが露呈していたのか、が分かると思います。
まだまだ炸裂 戦術的な欠陥
ここまでに書いただけではありません。まだまだ戦術的な欠陥、問題点がありました。一つ目はこちら↓
右SB原のプレッシングに対する連動です。右SH前田や、2ボランチがマークをずらして無理矢理プレッシングをハメかけても、右SB原の相手左WGサンチェスへのマークが緩いので、サンチェスが下りてきたときにパスを受けられてしまい、プレッシングを突破されてしまうことが複数回ありました。そして、サンチェスに対しての原のマークが弱かったので中山がタックルして、イエローをもらうシーンもありました。
これは、ただ単に原がマークを怠っていたというだけではないと思います。その側面もあるかも知れませんが、森保監督が、プレッシングを前がかけていったときに相手左WGをマークして、パスが入れば潰しに行く、というプレーを落とし込んでいないからだと思います。欧州のチームや、Jリーグでもそうですが、しっかりプレッシングを落とし込んでいるチームは、SBが相手WGをガチガチにマークしています。
プレッシングに対する連動に関しては、原だけではありませんでした。
原だけでなく、第三PL全体です。第一、二PLがプレッシングをかけて相手にロングボールを蹴らせることが出来ても、第三PLが連動できておらず、ラインを上げていないので広がったライン間でロングボールを納められてしまう、というシーンが前半に複数回ありました。
これも、やはりトレーニングで連動してラインを上げるプレー原則が落とし込まれていないことが考えられます。ですが、例えば6月の二試合は3バックを採用していましたが、ラインの統率を取っていたのは昌子でしたし、アジアカップでは吉田がDFリーダーだったと思いますので、冨安にしろ植田にしろ、リーダーシップを発揮してラインを統率することが出来なかったのかもしれません。
また、第三PLの統率に関しては、プレッシングに対する連動だけではなく、もう一つ問題が生じていました。
オフサイドを取りに行くか、行かないのか、です。植田、冨安、原の3人はラインを上げる判断をしたが、左SB杉岡だけ上げずに残っていて、杉岡のポジションがオフサイドラインになって、スルーパスで裏に抜けられ、決定機を作られるシーンが2回ありました。ここでも、ラインを統率できていないので、DFリーダーの不在が原因なのかな、と思います。
ですが、誰がリーダーシップを発揮してそのDFライン(第三PL)をコントロールするのか、統率をするのか、という役割を決めるのも、監督の役目だと思いますので、森保監督に責任がないわけではありません。
第二章 所々で輝きを放つが所々でしか輝いていない
では次に、攻撃を分析していきたいと思います。
チリは、4-1-4-1システムで、自陣にセットして守備的プレッシング。ですが、攻撃的プレッシング気味になることもありました。日本は、5レーンに基づいたポジショニングができておらず、SHとSBが大外Rで縦並びになってしまっています。右SH前田は、元々ストライカーの選手なので、中央に入っていくこともありました。
日本の攻撃の前に、少しチリの守備について触れておきます。IHのビダル、アランギスが日本のボランチ中山、柴崎を監視。パスが入れば、思いっきりチャージかまして潰しに行くよ、という構え。ボランチにパスが出れば、時にアンカーのプルガルも加勢して奪い、ショートカウンターに持ち込む。WGのフエンサリーダ、サンチェスも、しっかり下がって守備に参加します。
では日本の攻撃について。
前述のようにチリのIHにボランチが監視されているため、中央から攻めるのは危険。なので日本はあっさり外回りの攻撃をします。ですが、サイドでアタッカーにボールを届けても、そこからが大問題。ボール保持者へのサポートが全くなく、遅すぎるので保持者が孤立。選手間の距離を縮めているチリに封殺される、というシーンが何度もありました。
これに関しても、何度も何度も言っているのですが、プレー原則が落とし込まれていないことが原因です。フルメンバーのA代表で試合をしてもプレー原則ゼロなのに、オリンピック世代18人の即席チームにプレー原則があるわけない。なので、選手に責任があるわけではなく、森保監督に責任があります。
ですが、所々で選手同士の動きがかみ合って、コンビネーションでク崩すシーンはありました。しかし、上田が象徴ですが、チャンスを全部外してしまった。また、即興のコンビネーションなので、同じような崩しができない。なので、効率が悪いし、相手の弱点を突いて、相手の弱い所から攻める、というような論理的な、効果的な攻撃が出来ない。さすがに無理がありすぎます。
では最後に今回の代表メンバー23人で唯一の大学生・上田について。前述のように3.4回決定機があったのですが、決められず、海外メディアなどから結構な言われようをしているようですが、確かに上田はストライカーですので、決定機が3.4回あってそれを一つも決めていない、というのは大きな問題です。しかし、そこはまだ大学生の選手で、伸びしろはとてもあると思いますので、これからの向上に期待です。
今回フォーカスするのはそこではなく、「動き出し」について。上田は、ボールがない時(オフ・ザ・ボール)の動き出しがとても素晴らしい選手で、点を取るための動きが論理的にできている選手なので、決定力が上がれば、普通のストライカーよりも多く点を取ることが出来ると思います。ではその動き出しの例を図で示します。
上図のように、上田はクロスが入ってくる時に、相手CBの死角に入り込んでフリーになるのがとても上手い。右からクロスが入ってくるとすれば、相手CBはどのようなクロスが入ってくるのかを確認しなくてはならないので、ボールのある右を見ます。これに関してはCBは致し方ないですね。ボールを見なければ対応できないので。なので、CBはボールウォッチャーになってしまいます。それに対して、上田は相手CBの視野に入っているところから相手CBの死角となる、背中に入り込み、相手CBが自分のことを確認することが出来ないポジショニングをすることで、フリーになります。そして、クロスに合わせる。
それだけでなく、相手の死角に入り込む動きとは逆に、相手の死角に入り込んだところから、スッと相手の視野の中に出て来て、瞬間的にフリーになった時間を利用して抜け出し、スルーパスを引き出したり、プルアウェイ(相手に近づいてから離れて行ってフリーになる動き)の動きでフリーになるシーンもありました。
このような巧みな動き出しをこの大舞台でも見せており、2021年には鹿島に加入することが決まっているので、Jリーグでのプレーも、これからの代表チームでのプレーも期待が出来る楽しみな選手です。
前田、久保のポジションの是非
この章の最後に、前田大然と、久保建英の起用されたポジションについて。前田は右SH、久保はトップ下で起用されました。しかし、Jリーグの試合を見ても、本来のポジションは逆です。そして、今回のチリ戦でも、ポジションは逆であった方が良かったと思いました。
前田大然 Play Style
・松本では攻撃時右シャドーで、ライン間でプレー。
・ライン間で縦パスを引き出したりもする。
・サイドのボール保持者からDFライン裏に飛び出してスルーパスを引き出し、ゴールに向かってプレーする。
・サイドで仕掛けることでスピードを生かすのではなく、直線的にゴールに向かってスピードを生かす。
・守備では、しっかり組織の一員として参加するが、ゾーン1での守備となると前残り気味になり、カウンターに備える。
久保建英 Play Style
・右からIRに入ってパスを受け、ラストパスで決定的なプレーを演出する。
・最初から中央にいると、相手のマークをする選手も中央にいるので監視されてしまうが、右から中に入っていくことで、相手のマークは中央にいないので、フリーになることができる。
・右から中に入っていくことで浮いている状態でプレーに絡み、コンビネーションを発揮。
・低い位置まで下がるだけでない知性がある守備ができ、守備でも貢献度が高い。
前田、久保のプレースタイルは、↑のようなものです。上記を読んで頂ければ、前田は、中央で、久保は右SHで起用された方がより選手の良さを発揮できることが分かっていただけるはずです。
日本は4バックなので、右SHだと5バックよりも守備のタスクが重くなり、深い位置まで下がらなくてはならなくなるので、前田はカウンターにエネルギーを温存しておくことが難しくなる。そして、サイドでは直線的にゴールに向かっていくことが出来ず、窮屈になってしまう。
一方、久保は右から中に入っていくことでフリーになり、決定的なパスやコンビネーションを発揮。守備でも、知性的なプレーで貢献し、深い位置まで下がることになっても、FC東京で見せているように、カウンターになれば敵陣ゴール前まで飛び出していける推進力があり、長距離のスプリントをしてもプレーの精度が落ちない、という強みもある。
この点から考えても、やはり森保監督の起用方法は大きな間違いだったと言えます。事実、久保は中央でもインパクトを放ったものの、前田はノーインパクトでした。
第三章 データ分析
データ引用:WhoScored
では最後にデータ分析。今回はアタッカー同士の距離感から、フルメンバーの代表との違いを見ていきます。
まずは全体のタッチ数から見ていきます。前線の特に前田はタッチ数が少なく、久保は前線の選手としては多くボールに触ったと思いますが、チリの3トップと比べても、日本のアタッカーはタッチ数が少なく、パスが入っていないことが分かります。
次に個々人のボールを保持した時間について。これも、前田、中島、上田は、低い数字になっています。
この二つのデータを見ても、日本のアタッカーは、ボールに触った時間が少なく、アタッカーまでボールを届けることが出来ていないことが分かります。
では、ここからアタッカー同士の距離感を見ていきます。
↑に前田、中島、久保、上田の4人のタッチマップをまとめましたが、トップ下の久保は幅広いエリアに絡んでいるのですが、右SH前田はまずタッチ数がとても少ない上にピッチの横幅の右半分に散らばっている感じで、左SH中島も自分のサイドからは出ていないというか、全て左サイドの中でのボールタッチとなっている。CF上田は、左右50/50ぐらい。この4人のマップを見ると、ほとんど4人のボールに触ったエリアが被っていない。つまり、近距離でプレーしていない、ということが分かります。
そしてこれが4人を重ね合わせたヒートマップですが、左右に完全に分離しています。
このデータと何を比較したかったかと言うと、フルメンバーの代表のアタッカー陣との違いです。フルメンバー時の中島、南野、堂安、大迫だと、ライン間の大迫に縦パスが入ると、グイッと堂安、中島が入ってきて、4人が近い距離間でプレーし、コンビネーションを発揮します。
ですが、この前田、久保、中島、上田は、距離感が遠く、コンビネーションを発揮することが出来ていない。しかし、何度も書いているように、プレー原則はありませんので、アタッカーのアイデア、連係に頼るしかないのですが、その連係にも頼れないような状態だった、ということです。
次にこちらはSHとボランチのタッチマップについて。WhoScoredでは、左が中山、右が柴崎となっているのですが、柴崎が左にいることの方が多かった印象なので、逆にしましたが、左の中島&柴崎はまだしも、右の前田&中山は、前田の高い位置でのボールタッチに対して、中山はその近い距離でほとんどボールタッチがない。ここからは、前田に対してのボランチのサポートが無く、ボールを持っても前田が孤立状態にあったことがわかります。
結論は「即席のアタッカー4人は、距離感が遠く、プレー原則がチームに落とし込まれておらず、アタッカーのアイデア、連係に頼らなくてはならない中で、そのアタッカーの連係を発揮することもできないような状態になっていた。そして、特に右サイドの前田は、ボールを持った時にボランチのサポートが得られず、孤立状態になっていた。」としたいと思います。
終章 総括
守備
・相手CBにボールを持たれている時は、FWがアンカーを消すバックマークプレスをかけることができていたので、2ボランチに対する数的不利は生じていなかった。
・しかし、SBに持たれている時は、FWが下がってアンカーをマークするタスクが与えられておらず、2ボランチに対して2対3の数的不利が生じる。
・右から左にサイドチェンジされたとき、左SH中島が下がってこないので、中盤でも左サイドでも数的不利の状態での守備を備えられる。
・第三PLのラインの統率が取れておらず、これはリーダー不在、という原因が考えられる。
攻撃
・チリの中央監視の守備に対し、日本は素直に従って外回りの攻撃になる。
・サイドからアタッカーにボール・を届けても、プレー原則が無く、サポートが遅すぎるので、パスのテンポが悪い。
・連係が確立されていないし、アタッカー4人の距離感が遠いので、頼みの前線のアイデアにも頼れない状態だった。
・決定機を3つ4つ外した上田だが、動き出しがとても巧みで、ゴールを取るための動きが論理的にできる選手。
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