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若者がいるのにいない街 巣鴨

「おばあちゃんの原宿」巣鴨は中高生の街?住宅街??


 私が高校時代を過ごした巣鴨という街はちょうど豊島区と文京区の区界にあり、駅前にはサミットや西友などのスーパー、ドラッグストアなどが並ぶ。
住宅街では、私立の小学校の制服をきた子供たちや仲睦まじいカップルを見かける。池袋まで山手線で二駅、地下鉄もバスもあるし、大塚方面に行けば都電もある。なかなか住みよい街だ。

「おばあちゃんの原宿」 とは何か


 なんと言っても巣鴨は「おばあちゃんの原宿」として知られている。
巣鴨駅前の大きな横断歩道を渡ると、あの有名な「地蔵通り商店街」がある。これが「おばあちゃんの原宿」のメインストリートだ。

 「おばあちゃんの原宿」と言う呼び名がついた由来について、出典の確認できるマスメディアで最も古いものは1986年5月10日号の雑誌「クロワッサン」だそうだ。
ファッション評論家の川本恵子さんが「とげぬき地蔵の人出はまるで、お年寄りの竹下通りだけれど、見るものすべてが新鮮」と見出しをつけていたことが確認されている。さらに1987年(昭和62年)には「おばあさんの原宿」と言うコピーが特集記事で活字になっている。この呼び名は地蔵通りの入り口にある亀井寿司のご主人が言い出したものだとのこと。
 また巣鴨は旧中山道で、古くは江戸時代から商業が栄えていた。実は徳川の第15代将軍、徳川慶喜が居を構えたこともある場所なのだ。また「とげぬき地蔵」のある高岩寺は延命、怪我の治癒を願うお年寄りに人気の信仰の場である。巣鴨では無名の状態であった高岩寺の住職が、婦人服や女性向け商品の露店を集めて女性客を呼び込んだ。また、団子やおせんべいなどの定期的な縁日の開催で、淑女なおばあちゃんたちも人目を憚らずに食べ歩きができ、その様が若者の街、原宿のようだったため、「おばあちゃんの原宿」と呼ばれるようになったという説もある。
 私も小学生の頃に祖母を連れて地蔵通り商店街を観光したことが一度だけある。当時はまさか5年後に毎日そこに通うことになるとは思いもしなかった。

「おばあちゃんの原宿」の朝は中高生だらけ


 実は巣鴨には、実はおばあちゃんに混じって中高生がたくさんいる。本郷、文京、十文字など、巣鴨駅周辺には私立の中学高校が多く存在する。
「おばあちゃんの原宿」の朝は、実は通学する中高生で溢れかえっているのだ。

私もかつてはスクールバッグを背負って巣鴨駅を抜けていく学生の1人であり、月曜日から土曜日まで学校に通い、夜は駅の近くの塾へ行く生活をしていた。

塾終わり、「巣鴨のアパホテルに泊まればいいじゃん。帰るのめんどい〜」と言いながら電車に揺られて自宅に帰る毎日。
夜10時の巣鴨駅にはそんな塾帰りの高校生がたくさんいて、
みんな頭良さそう、ここで参考書開くの嫌だな、と思ったり。

ついつい寄ってしまうコンビニ、唐揚げ棒片手に友人と歩いた夜道。
たぶん私は巣鴨で紡いだ思い出を愛している。

「巣鴨に通う高校生」から、「巣鴨に通う高校生を見守る立場」になって


 さて現在私は、かつてお世話になった巣鴨の塾でアルバイトをしている。
 私が出勤する時間はちょうど中高生が下校して塾に行く夕方、だから下校中の中高生集団をよく見かけるのだ。どうやら塾の近くに共学があるらしく、楽しそうな高校生カップルによくすれ違う。こう言う時、女子校に行った自分を少し恨めしく思ったり…してないと思う、多分してない、してないんじゃないかな。
 よく考えたらおばあちゃんより、中高生に会う方が巣鴨では多いんじゃなかろうか?
だったら巣鴨は「おばあちゃんの原宿」ではなく「中高生の街」になるよな?

高校生はそもそも遊ぶ暇がない?


 中高校生は休みの日にどこへ遊びに行くのだろうか。
 ある日の終業後、塾長先生とバイトの同僚2人の4人で新年会としてお夕飯をいただいた。
実はこの日のバイトは全員同じ高校の出身、もちろん話題に上がるのは、自分達の高校時代の話。

 「高校時代に巣鴨で遊ぶことってありました?」
「うーん、やっぱ池袋行くよねえ。」と2人。やはり定期券があるし、池袋の方が遊ぶところは多い。高校時代に巣鴨で買い物と言ったら、文化祭の買い出しで駅前の西友とおかしのまちおかに行ったくらいだそうだ。

確かに。そういえば私自身が高校時代に巣鴨で遊んだ記憶がほとんどないじゃないか。
ほとんど、池袋のサンシャインで遊んでいたように思う。


 2021年に日経リサーチが出した「首都圏利用商業施設(集客力)ランキング2021年の春」によると、一位が西武池袋本店、二位が新宿伊勢丹、三位が渋谷ヒカリエであった。四位に池袋サンシャインシティ、七位に東武百貨店がランクインするなど、池袋エリアの商業施設は3施設も入っている。また、中高生向けの商業施設で言うと十位にラゾーナ川崎プラザがランクインしている。そりゃ中高生は赤ぱんつは履かないかもしれない。中高生はやはり池袋サンシャインやそのほかの商業施設の方が楽しいだろうな、単純にそう思ってしまう。
 さらに驚くべきことに、今時の中高生はそもそも遊ぶ暇がないのかもしれない。ニフティ株式会社の子供向けサイト「キッズ@nifty」での「休みの過ごし方」に関するアンケート調査によると、中学生の59%が休日を1人で過ごすと回答し、66%が休日の過ごし方として勉強と回答し、これが最も多い意見であった。またいずれも6割以上がスマホ、ごろごろする時間に費やすと回答した。
 1人で勉強するか、家にこもるか、それほどまでに時間の自由が効かない今時の中高生とはなんなのだろうか。

 一つ考えられるのは、試験制度の変革だ。
私の受験生時代も、コロナ流行直後かつ共通テスト一回目の世代であり、どう対策していいのかわからない振り回された世代である。
さらに来年、共通テストが新課程に変わる。今年の受験生は絶対に浪人できない。みんな必死で勉強しているのだ。もちろん、指定推薦で、「挑戦」ではなく「確実」な合格を掴む子もいるが。
私も中高生時代の休日は家で勉強している日の方が圧倒的に多かったと思う。今の中高生は遊ぶよりも勉強の方が急務なのかもしれない。

また、先ほど引用した調査にもあったように、今の高校生は「お篭りがち」だとも言える。学校でも塾でもオンライン授業が当たり前になったこの時代、生徒から急なオンライン対応を求められることも少なくない。生徒は移動する手間が省けて楽かもしれないが、授業する方はなかなか大変なのだ。
家の中にいても外界と触れることができるようになった現代において、わざわざ物理的に外出をすること自体、無駄なのかもしれない。

巣鴨に通う中高生は「巣鴨を素通り」する


 巣鴨には遊ぶところがないと言いつつも、巣鴨にも遊ぶところはある。駅前にはサイゼリヤもあるし、安いカラオケも二軒ある。今流行りのコメダ珈琲もある。今の中高生が池袋やそのほかの商業施設に出かけたり、そもそも中高生が休日に外出しないことだけが巣鴨で遊ぶ中高生がいない理由だろうか。自分の高校時代を思い返してみる。
 例えば学校が早く終わった日でも、地蔵通りに遊びに行くことがなかったのは、校則によるものではないだろうか。
 巣鴨駅周辺にあるのは私立高校ばかりである。私立高校は学校のブランドを重んじるため、自校の制服を着た生徒が登下校中に問題を起こすことを良しとしないところが多い。巣鴨駅周辺の高校はそのような校風の私学らしい。実際に母校の生徒手帳にも「登下校中の心得」として「登下校中に他の場所に立ち寄る事は禁止。やむを得ず他の場所に立ち寄る際には家庭または学校の承諾を得た上責任ある行動をとること。」とある。
 要は「買い食い、寄り道はするな」である。これでは巣鴨の街で中高生が遊ぶことはできない、中高生による経済効果はないだろう。
 巣鴨を歩く高校生を眺めながら、そういえばお淑やかに会話をしながら住宅街の中を下校する、先輩のお姉さんたちに憧れて入学を決めたっけ、なんてことを思い出したりした。

さらに、もう一つ思い出したことがある。そもそも地蔵通り商店街周辺を通学路にする高校が少ないのではないか?Googleマップを眺めながら検証してみると、やはり地蔵通り方面に高校の通学路がないことがわかる。毎日巣鴨に通う高校生は地蔵通りを「素通り」している。素通りどころじゃなく遠くから眺めるだけなのだ。

巣鴨に中高生は「いるけど、いない」のかもしれない。

でも、私も知らない巣鴨の素顔

 最近お仕事終わりにお食事をいただいて帰るようになった。すると意外にも巣鴨駅の裏手、豊島区側に居酒屋が多いことに気づく。駅前ではガールズバーのお姉さんたちが客引きをしているし、怪しいお店は意外とある。巣鴨にもナンパはいる。

 お正月気分も終わった頃、バイトの帰りに同僚が「巣鴨で一番美味しいラーメンを食べに行こう」と誘ってくれた。
  麺や いま村  
巣鴨駅の裏手、路地を一本曲がった少し暗い路地の方に案内される。日本料理店のような佇まいのラーメン屋だ。このエリアには初めて来た。
 濃厚な鳥の出汁はこってりしているのにお上品、多分絶対日本酒に合う。明日テストがなければ飲むのになぁ。



…あれ、巣鴨ってなんの街なんだっけ?



参考

巣鴨地蔵通り商店街 「5分でわかる巣鴨」
https://sugamo.or.jp/easy_method/

とげぬき地蔵尊高岩寺 「おばあちゃんの原宿」
https://togenuki.jp/grandma_harajuku.html

kids nifty 休みの過ごし方について
https://kids.nifty.com/research/202106dayoff/

PR TIMES 「首都圏利用商業施設 トップ10に池袋から3施設、レジャー併用施設が集客力発揮」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000003053.html

あとがき。このルポ的なものは私が大学の最終課題で提出したものを加筆修正したものです。

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