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22人の死者が語った「人生で最も大切な思い出」 僧侶が読み解く映画『ワンダフルライフ』

松本智量のようこそ、仏教シネマへは、「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

映画「ワンダフルライフ」

是枝裕和監督 1999年日本作品
 
 霧の中、古びた建物の一室に集められた22人。年配者がほとんどですが、10代20代の若者もいます。この人たちはみんな死者。亡くなってすぐにこの施設に迎えられ、7日間を過ごします。

 その間にひとつの課題を与えられます。「自分の人生の中で最も大切な思い出をひとつ選び、施設職員に語る」こと。

 語られた思い出は、施設の大勢のスタッフにより忠実に映画化されます。その映画を最終日に全員で鑑賞した後、晴れて(?)それぞれ死後の世界へ進めるというのです。世界観が仏教的でも浄土真宗的でもない? いえ、そうでもなくて。

 実はこの作品において語られる思い出の多くには、脚本がありません。役者も、役者ではない人も、自分の言葉で思い出を語るのです。それが必ずしも事実とは限りません。でもそれがその人にとっての大切な真実なのです。
 
 中には「自分の人生には何もなかった」と、どうしても思い出を選べない人がいます。そういう人のために施設には、その人の一生分の記録ビデオが保管されています。それを見せて、中から大切な思い出を選ばせるのです。ここでひとつ奇妙な思いがします。記録ビデオがあるのに、なぜわざわざ再現映画を作るのかと。

 映画製作には大勢のスタッフの助力が必要です。作品化は、自分の思い出を他者と共有する作業です。それは自分の事実を客観視することでもあります。それにより人は、自分の思い出や、ひいては自分の人生について、自分の思いを超えた受けとめを恵まれることとなるのです。

 自分の人生を「ワンダフルライフ」として確かに豊かに引き受ける上で、「他」の介在は不可欠であること。これ、浄土真宗が伝えていることと大きく重なります。
 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。


※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。



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