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《詩》雪と雷

初雪が降る
遠くの峰々にかすかに積もり始め
半透明な幕が空から落とされたようだった
最近の寒さに慣れたと思っていたけれど
さらに寒さは増していく
心で瑠璃鶲(るりびたき)が鳴いているような
こまかに震えだしてしまう朝だ

白く色づいた山や道がとっぷりと沈む夜中
どこからか何か張り裂けたような音が聞こえた
うっすら雷線がみえる
また空が光り、先ほどよりも早く雷鳴がする
瑠璃鶲はひそかに震えだし
見えないところに隠れてしまった

二つの実を持つちいさな小鳥は
羽根をぷるぷるとさせながら山間を渡っていく
栄養の行き届いた、緑豊かな美しい山もあれば
すべての心が死んでしまったような朽ちた山もあった
しかしどんな環境だとしても
小鳥はもともと持っていた二つの実を食べて生き永らえた
ある日、小鳥は見知った懐かしい山にたどり着いた
美しい川の流れる桃色の花が咲く地だ
しかし小鳥は不思議な言葉をかけられた

おまえはそろそろ自分の故郷へ戻った方がいい
もう十分桃色の花を楽しんだだろう

小鳥はそこを飛び立ち
つぎの慣れ親しんだ山へたどり着いた
澄み切った湖と甘い梨の木が生えていた
美味しそうな湖水を飲もうとしていた小鳥は
また不思議な言葉を聞いた

ようこそ客人、ここには初めて訪れたのかい
あなたの素晴らしい故郷へ是非もって帰ってくださいな

梨の実をひとつ受け取る
すでに実を二つ持っていたので梨はその場で平らげた
味は甘かった
小鳥はまた山から山へと飛んだ
今度は四角い建築物が並ぶ、
今までに見たことのない地にたどり着いた
川も湖もないけれどすべてが白い幕に覆われていて
寒かった
水を求めてしばらく彷徨っていると
どこからともなくはげしい光と音が伝わってきた
それはだんだんと小鳥の方へ近づいてくる
空から轟く音は大きくなっていき
光の柱がいくつも乱立していった
次の瞬間、小鳥はその柱のひとつに触れてしまった
あまりに突然のことで訳が分からぬまま
公園の芝生に落っこちた
目の前が白黒に明滅し意識を失ったが
雷に打たれた体はみるみる青色に変わっていき
羽根は美しく輝きはじめた
目を覚ました小鳥は新しい羽根を震わせて
高らかに鳴き、
今までで一等高く舞い上がった

古屋朋