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遠い雪解け|掌編小説

「冬は……苦手です」

 そう言ってしまったことを、今さらながら後悔した。でも、本音だから仕方ない。私は冷え性だし、雪かきも面倒だし、「嫌い」と言わなかっただけ、まだ気を遣った方だ。

「では、雪が解ける頃に、またお会いしましょう」

 その人はくるりと背を向け、まっすぐ歩いて行った。その後姿を思い出すと、少しだけ胸が苦しくなる。

 ――嘘でも、好きって言えばよかったかな……。

 ピリッと冷えた空気の中で、私は両手に「ふぅ」っと息を吹きかけた。
 地面に積もった雪が街灯の光を跳ね返し、闇夜をぼうっと淡く照らしている。

 北海道の冬は長い。雪解けなんて、永遠に来ないんじゃないかと思えてしまう。

「ちゃんと、春を連れて来てくれるかな」

 鈍色にびいろの空からは、あの人が連れて来た雪が、ただ降っていた。

(了)


以前、54字で書いた「春を待つ」を掌編にしてみました。

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