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最期の聲(こえ)|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 ――凍った星をグラスに。

 友人がそんなことを言い出した。バカなことを。死んだ星はガスとチリになって、宇宙の中を漂うだけ。わざわざグラスの中に入れて何になると言うのだ。

「まぁ、そう言わずに」

 友人はそう言って、灰色で、死にかけている星の下でグラスを構える。

 ――カラン。

 死んでしまった星とは思えないほど心地いい音を立てて、星はグラスの中へと吸い込まれた。

「いい音だろう? 星の最期さいごこえだよ。長く生きた星ほど、いい音がする」

 なぜか得意げな友人に、呆れながら「そうだね」と言った。酔狂な奴だ。これに酒でもいで、星見酒でもするつもりだろうか。

「そんなことはしないよ。音だけで十分酔える」

 そう言うと、友人はからのグラスを差し出した。私はそれを黙って受け取る。

「あっちの星にしよう。いい音がしそうだ」

 さっき友人がすくい取った星よりも、幾分か大きい星が、ぶるぶると震えながら最期を迎えようとしている。私はそっと、星の下にグラスを持って行った。

 ――カラン。

「いいねぇ」

 友人は目を閉じて、満足そうに頷いた。不本意ながら、私もその福音ふくいんのような乾いた音に酔いしれた。

「あの星は? 奇跡の星って呼ばれてるらしいけど」

 私は青い星を指差す。

「ああ、あれは俺がずっと前から目を付けている星だ。まぁ、そう遠くないうちに、最高のこえを聴かせてくれるだろうさ。もうすでに、断末魔の悲鳴を上げてるからな」

 あまり上品とは言えない笑みを浮かべる友人に、「悪趣味な」と言い放った。

(了)


小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」、参加用です。

前回の「奇跡の星」に重なるように書いてみました。

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