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2023年6月の記事一覧
塩人|毎週ショートショートnote
昨晩の、まるで獣の咆哮のような海鳴りは止み、砂浜には潮騒の音が優しく響き渡っていた。
――今日は良い砂が取れるはずだ。
夕暮れを待ち、僕は波打ち際に立った。水平線の向こうに少しずつ太陽が落ちていき、やがて辺りは暗闇に包まれる。
――よし。
僕は小さな麻袋に砂を目一杯詰めて家に帰り、透明なガラスの瓶に砂を移し替えた。ちょうど10個の瓶を、月が良く見える場所に置く。
しばらくすると、月明かりに
アナログ巌流島|毎週ショートショートnote
――Island GANRYU
「Island 8JO」(八丈島)の隣にあるその島は、いつからか国内のデジタル嫌いの懐古主義者達が住むようになり、50年前の昭和の様相を呈していた。噂によれば、政府関係者も内密にこの島に出入りし、提灯居酒屋で昔を懐かしんでいると言う。
「よし! 送信完了!」
「今日は電波が2本立つな!」
港の廃倉庫の中で、40を過ぎたおっさん2人が携帯電話と電波増幅器を持って
顔自動販売機|毎週ショートショートnote
「証明写真撮りに行かないと……。面倒だなぁ……」
就職活動は今のところ全滅。証明写真を撮りに行くのも、これで3度目だ。近くのスーパーに行くと、証明写真ボックスの横に似たようなボックスがある。前に来た時、こんなのはなかった。
「こんなの2台あっても無駄だろうに」
そう思いながらそのボックスをよく見ると、「あなたの笑顔、買い取ります。このボックス内で笑顔を撮影してください」と書いてあった。
「
メガネ朝帰り|毎週ショートショートnote
目が覚めて、ここが自分の部屋だと気付くのに数秒かかった。昨夜、調子に乗って飲み過ぎたようだ。仕方ない。飲み会自体が久々だったんだし。
とりあえずメガネを探すが、どこにも見当たらない。
「どこかに落としたのかな……」
その時、玄関の方で「カタン」と音がした。何かと思って玄関に行くと、ドアの郵便受けに茶色の封筒が入っていた。中を見ると、俺のメガネだった。きっと友達が届けに来てくれたんだろう。