キップル

99年生まれ。SF小説と映画を楽しむ者。読んだ本の書評と劇場鑑賞した映画の時評で遊んで…

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99年生まれ。SF小説と映画を楽しむ者。読んだ本の書評と劇場鑑賞した映画の時評で遊んでいます。好きな作家は伊藤計劃、ジョン・ヴァーリィ、ウィリアム・ギブスンなど。映画監督だと、ドゥニ・ヴィルヌーブ、スコット兄弟、押井守などです。小島秀夫監督なども好きです。

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  • マンガ体験記

    洋の東西を問わず、マンガ、コミック、バンド・デシネ、なんでも読んだ感想をここに置いておきます。

  • 《書評》SF小説

    “テクノロジーが社会と個にどのような作用を及ぼすのか、そして社会はテクノロジーをどのようにかたちづくるのかというダイナミクスのもつ面白さ”

  • 《書評》ノンフィクション

    小説じゃない本でも、娯楽として読むよー。

  • 映画時評2024

    2024年に劇場公開した映画のレビュー記事をまとめたものです。

  • 映画時評2022&2023

    2022年10月から2023年12月に劇場公開していた映画の感想記、時評をまとめたものです。

記事一覧

マンガ体験記『龍子』エルド吉水

最近ビビッときたマンガがあったので、みんなにも読んでもらいたく記事で共有。 〈出版事情〉フランスから日本へエルド吉水の『龍子』は、2010年に作者が自費出版したマン…

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9日前
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書評『砂漠の救世主』『砂丘の子供たち』新訳版

ヴィルヌーブ版の『デューン PART2』を無事、劇場鑑賞した私は、冷めやらぬ熱気のまま、映画の続きであるフランク・ハーバートの原作小説『砂漠の救世主』と『砂丘の子供た…

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2週間前
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書評『ヴィクトリア朝時代のインターネット』トム・スタンデージ

本書は1998年に出版された本で、2011年に翻訳、単行本化した書籍の文庫バージョン。 SF者ならタイトルを見ただけで、ある小説が思い浮かぶと思います。 タイトルの『ヴィク…

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3週間前
8

【映画時評】マッドマックス:フュリオサ

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、アクション映画の極北、一つの到達点を示した作品といえて、そのルーツはジョン・フォード監督による1939年の映画『駅馬車…

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1か月前
7

『WMH』とタル・ベーラの映画

タル・ベーラは1977年から活躍するハンガリーの映画監督で、代表作である『サタンタンゴ』は7時間18分という長大な作品として知られている。 すでに引退ずみですが、名…

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1か月前
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書評『心の仕組み』スティーブン・ピンカー

そもそも手に取るきっかけは伊藤計劃の小説『虐殺器官』に端を発する。解説のあとがきで、作中のバックボーンとなる理論として紹介される文献の一つに、スティーブン・ピン…

キップル
2か月前
7

【映画時評】REBEL MOON

『三体』が見たくてネットフリックスを契約した私ですが、せっかくなので、契約を切る前にほかにもなにか観たい。 そういえばザック・スナイダーの新作があるなあと思って…

キップル
2か月前
7

色々見てきたけれどこの瞳は永遠にきらりだった『ソウルフル・ワールド』

この映画、公開は2020年ですがパンデミックのため、やむなく配信限定となり、劇場でかかったことのない映画でした。それが今年になって、同じく配信限定となった『私ときど…

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2か月前
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20代男、BLを読む。

前回好評を博したSFマガジンの『BLとSF特集』、その第二弾。 やっぱりというか当たり前かもしれないが、自分の部屋を見渡してもBL本は一冊も見当たらない。萩尾望都の短編…

キップル
2か月前
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最近の映画はなぜ長いのか【映画時評】『デューン 砂の惑星PART2』

原作は1965年出版のフランク・ハーバートによる小説で、幼いときにこれを読んだ監督が、ずっと映像化したいと心に念じていた一作である。 過去に二度の映像化と、一つのボ…

キップル
2か月前
10

ひとりぼっちの宇宙交流『中継ステーション【新訳版】』クリフォード・D・シマック

『中継ステーション』は『デューン 砂の惑星』(雑誌連載版)とカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』などを押しのけて、1964年のヒューゴ賞長編小説部門に選ばた小説で…

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3か月前
13

これは読むドラッグであrrrrrrr。『ソフトウェア』『ウェットウェア』ルーディ・ラッカー

そもそもラッカーとの出会いは、伊藤計劃先生が影響を受けたサイバーパンクの作家の一人ということで、いつか読みたいと思っていたのが始まり。 それが去年の年末くらいに…

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3か月前
8

ここ最近マンガを描いていて忙しかった

『哀れなるものたち』の記事を最後にぱったり更新がとだえ、2ヶ月なにも更新しませんでしたが、マイジョブに勤しんでおりました。 というわけで、2月3月は、ひたすらマン…

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3か月前
10

【映画時評】哀れなるものたち

去年から楽しみにしていたヨルゴス・ランティモスの新作。かれの過去の映画を見ていて感じたのは、キューブリックのような、ドライで突き放した人間描写と、皮肉っぽいユー…

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5か月前
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『キングダム エクソダス〈脱出〉』感想メモ。

前作の感想はこちら。 感想は、鑑賞しながら右手でとったメモをもとに、再構成しています。 物語の設定など、思い違いをしている部分があるかもしれません。記事をご覧に…

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5か月前
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【後編】ラース・フォン・トリアーの『キングダム』にハマる。季節外れの感想メモ

前編はこちらです。お先にどうぞ。 前回のあらすじを簡単に整理すると、デンマーク、コペンハーゲンのキングダム病院は、かつて洗濯職人たちが布を洗い清めるために使っ…

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5か月前
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マンガ体験記『龍子』エルド吉水

最近ビビッときたマンガがあったので、みんなにも読んでもらいたく記事で共有。 〈出版事情〉フランスから日本へエルド吉水の『龍子』は、2010年に作者が自費出版したマンガで、その後2016年にフランスで出版、さらに逆輸入という形でリイド社のトーチWebが掲載、2023年、日本で出版が果たされたというやや特殊な漫画。 フランスからの逆輸入という形では、ジャンプ+の『リヴァイアサン』、ヤンマガの『虎鶫』など、AC メディア社の「キューン」なんか個人的に存在があって、東京に出版社が

書評『砂漠の救世主』『砂丘の子供たち』新訳版

ヴィルヌーブ版の『デューン PART2』を無事、劇場鑑賞した私は、冷めやらぬ熱気のまま、映画の続きであるフランク・ハーバートの原作小説『砂漠の救世主』と『砂丘の子供たち』の新訳版を手に取ったのであった。 ハルコンネン家とシャッダム4世の陰謀を打倒し、新たに皇帝となったポール。 映画はそこで幕を閉じるが、原作ではさらにポールのその後が描かれる。 ハーバートはデューンシリーズを『砂丘の子供たち』までの三部作で一区切りとしており、もともと三部まで書かれる物語だったのだ。 映画が消

書評『ヴィクトリア朝時代のインターネット』トム・スタンデージ

本書は1998年に出版された本で、2011年に翻訳、単行本化した書籍の文庫バージョン。 SF者ならタイトルを見ただけで、ある小説が思い浮かぶと思います。 タイトルの『ヴィクトリア朝時代のインターネット』とはずばり電信のこと。 本書は19世紀に誕生した発明である「電信」をめぐる小史であり、21世紀のインターネットに先駆けて、情報化とグローバリズムを体験した時代として19世紀を捉える。 テレグラフというのは、電報といえば僕はギリギリわかるのですが、モールス信号を使って打電して、短

【映画時評】マッドマックス:フュリオサ

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、アクション映画の極北、一つの到達点を示した作品といえて、そのルーツはジョン・フォード監督による1939年の映画『駅馬車』にまでさかのぼる。 駅馬車に乗り合わせた搭乗客と、馬を駆るアパッチ族との銃撃戦のクライマックスシーンは、“移動しながら戦う”というアクション映画の定石を打ち出すものだった。 ジョン・フォードのアクションに魅せられた監督は、スピルバーグとか(フェイブルマンズのラストね)黒澤明、宮崎駿まで、それぞれ息もつかせぬスペ

『WMH』とタル・ベーラの映画

タル・ベーラは1977年から活躍するハンガリーの映画監督で、代表作である『サタンタンゴ』は7時間18分という長大な作品として知られている。 すでに引退ずみですが、名実ともに巨匠の域にある監督といっていい。 2022年には日本初公開だった、『サタンタンゴ』以前の過去作が一挙上映し、再評価の波を感じる。僕はこのとき初めて名前を耳にして、実際映画に触れるのは今年になってようやくだった。 今回は『ヴェルクマイスター・ハーモニー』を劇場で見ることができたので、その感想をメインに、予

書評『心の仕組み』スティーブン・ピンカー

そもそも手に取るきっかけは伊藤計劃の小説『虐殺器官』に端を発する。解説のあとがきで、作中のバックボーンとなる理論として紹介される文献の一つに、スティーブン・ピンカーの『心の仕組み』があったからだ。ずっと読みたいと思っていた本だったので、念願である。 ピンカーが試みるのは、人間の“心”ーその様々な機能の、科学的な説明である。 知覚、推論、感情、人間関係、芸術、宗教それらがなぜ、人間に備わっているのか、何の役に立っているのか。ピンカーが武器とするのは、『心の演算理論』と『ダーウ

【映画時評】REBEL MOON

『三体』が見たくてネットフリックスを契約した私ですが、せっかくなので、契約を切る前にほかにもなにか観たい。 そういえばザック・スナイダーの新作があるなあと思って、期待せずに『REBEL MOON』を再生ポチ。 感想をひとことで言うと、ボンクラオタク映画だった。なかなか笑かしおるので、つい感想を書きたくなってしまった。 『REBEL MOON』はNetflixオリジナルの映画で、二部作存在する。 パート1は去年の12月に配信、パート2は今月配信された。 両方一気に見たので、以

色々見てきたけれどこの瞳は永遠にきらりだった『ソウルフル・ワールド』

この映画、公開は2020年ですがパンデミックのため、やむなく配信限定となり、劇場でかかったことのない映画でした。それが今年になって、同じく配信限定となった『私ときどきレッサーパンダ』『あの夏のルカ』とともに、劇場公開することになり、今作だけなんとか見ることができたので感想。 見事な映画だった。近年のピクサー映画の中でも屈指のクオリティ。 テーマに対するアプローチの明快さ、深度、ともにハイレベルな完成度で、見応えがあり、傑作だと思う。 僕はこの映画を、眠って見る「夢」と、憧れ

20代男、BLを読む。

前回好評を博したSFマガジンの『BLとSF特集』、その第二弾。 やっぱりというか当たり前かもしれないが、自分の部屋を見渡してもBL本は一冊も見当たらない。萩尾望都の短編集に、一個だけそれっぽいやつがあるが、それだけだ。 知識は皆無といってよい。なので特集記事で基礎から勉強することに。 そもそもBL、ボーイズラブというのは90年代くらいに“JUNE”とか“やおい”とか呼ばれていたものが、ボーイズラブに統一されたのが始まりとのこと。 初期はまだジャンルが未分化で、活字媒体では、

最近の映画はなぜ長いのか【映画時評】『デューン 砂の惑星PART2』

原作は1965年出版のフランク・ハーバートによる小説で、幼いときにこれを読んだ監督が、ずっと映像化したいと心に念じていた一作である。 過去に二度の映像化と、一つのボツ企画が立ちあがったことがあり、初めは1976年に『ホドロフスキーのDUNE』として結実するはずだったが、未完のプロジェクトとなってしまった。 ホドロフスキーといえば、『エル・トポ』や『ホーリーマウンテン』といった、シュルレアルなアート映画を撮る監督で、その監督が急にSF超大作を撮るという暴挙に出るわけですが、こ

ひとりぼっちの宇宙交流『中継ステーション【新訳版】』クリフォード・D・シマック

『中継ステーション』は『デューン 砂の惑星』(雑誌連載版)とカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』などを押しのけて、1964年のヒューゴ賞長編小説部門に選ばた小説で、錚々たるメンツを下した当時の傑作です。 著者のクリフォード・D・シマックはアメリカのウィスコンシン出身で、緑の裾野が広がる大自然のなかで生まれ育ち、新聞記者をしながらSF小説も執筆していたという人物です。 『中継ステーション』もかれの生まれ故郷であるウィスコンシンが舞台の小説で、SFとは似つかわしくない、牧歌的

これは読むドラッグであrrrrrrr。『ソフトウェア』『ウェットウェア』ルーディ・ラッカー

そもそもラッカーとの出会いは、伊藤計劃先生が影響を受けたサイバーパンクの作家の一人ということで、いつか読みたいと思っていたのが始まり。 それが去年の年末くらいに、岡山の丸善で、ゲリラ的に開かれていた古本市でたまたま、『ソフトウェア』と『ウェットウェア』を見つけ、購入。読んでみたというわけです。そのときの古本市の様子を写真に撮らなかったのは一生の不覚。テンション上がりますよねー古本市。 他にもハヤカワ文庫を探してストルガツキーの『波が風を消す』なんかも発見。ラッカーもストルガ

ここ最近マンガを描いていて忙しかった

『哀れなるものたち』の記事を最後にぱったり更新がとだえ、2ヶ月なにも更新しませんでしたが、マイジョブに勤しんでおりました。 というわけで、2月3月は、ひたすらマンガ。寝ても覚めてもマンガ、夢もマンガという状態だったので、ギャスパー・ノエの『ヴォルテックス』もカウリスマキの『枯れ葉』も、リバイバル上映の『ヘルレイザー』と『戦場のピアニスト』も見に行けませんでした。泣 ですが『ゴジラ−1.0』と『ボーはおそれている』は見たので、短評を後で記事にします。ちゃっかり二本は見ている

【映画時評】哀れなるものたち

去年から楽しみにしていたヨルゴス・ランティモスの新作。かれの過去の映画を見ていて感じたのは、キューブリックのような、ドライで突き放した人間描写と、皮肉っぽいユーモアで、ギョッとする映画が多いことだった。『女王陛下のお気に入り』と『聖なる鹿殺し』を初めにみたものの、これははずれだった。それからしばらくして『ロブスター』を観たとき、この監督のことが好きになった。『ロブスター』はラブ(ブラック)コメディとでもいいたい、ディストピア世界で繰り広げられる、バチェラー争奪戦で、独身者は4

『キングダム エクソダス〈脱出〉』感想メモ。

前作の感想はこちら。 感想は、鑑賞しながら右手でとったメモをもとに、再構成しています。 物語の設定など、思い違いをしている部分があるかもしれません。記事をご覧になるさいには、善も悪もあることを心得よ🤟 第9話 ハーフマー 25年ごしの続編。主要キャスト数名が亡くなるほどのブランクを、監督はどう埋めるのか。『キングダム エクソダス』の主人公は、前作でスウェーデンからやってきたヘルマーでも、仮病使いのドルッセ夫人でもない。カレンと呼ばれる夢遊病患者のおばさんだった。新キャラ

【後編】ラース・フォン・トリアーの『キングダム』にハマる。季節外れの感想メモ

前編はこちらです。お先にどうぞ。 前回のあらすじを簡単に整理すると、デンマーク、コペンハーゲンのキングダム病院は、かつて洗濯職人たちが布を洗い清めるために使っていた洗濯池があった場所に立っており、そこで死者の国の扉が開かれようとしていた。 そんな幽霊病棟にやってきたのは、スウェーデン人のヘルマー主任医師。 かれはいま、モナという少女の手術ミスを責められていて、カルテをなんとか隠蔽しようとしています。 しかし、クロウスホイという若い医師にカルテを奪われます。そこでヘルマー