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マンガ体験記『龍子』エルド吉水

最近ビビッときたマンガがあったので、みんなにも読んでもらいたく記事で共有。


〈出版事情〉フランスから日本へ

エルド吉水『龍子』は、2010年に作者が自費出版したマンガで、その後2016年にフランスで出版、さらに逆輸入という形でリイド社のトーチWebが掲載、2023年、日本で出版が果たされたというやや特殊な漫画。

フランスからの逆輸入という形では、ジャンプ+の『リヴァイアサン』、ヤンマガの『虎鶫』など、AC メディア社の「キューン」なんか個人的に存在があって、東京に出版社があってフランスに漫画を出している会社なのですが、新しいルートのマンガだなぁということで印象に残っている。
『龍子』はキューンではないが、フランスからやってきたマンガではある。

〈作者について〉東京藝大、45歳、劇画家

まず作者は、東京藝術大学卒の彫刻家で、デビュー作である『龍子』を書き始めたのが45歳だという。芸大から来た系のマンガ家ですね。『ドロヘドロ』の林田球先生とかと同じ。

自ら、劇画家を名乗り、どことなくオールドルックなスタイルだが清新なセンスも感じさせる、松本零士とかモンキーパンチの絵に似ているような、あまり深入りできる知識を持っていないので分析できませんが、『龍子』はまさに令和の劇画と言える内容です。

〈漫画の内容について〉ヤクザ軍人テロリストの冒険小説的ノワール漫画

一体どんなマンガなのかというと、ヤクザやテロリスト、軍人などが入り乱れる、冒険小説的でノワールタッチの漫画。

中東のフルセーヤ王国という架空の国が、クーデーターにより打倒され、その国王の娘二人が、黒龍会というマフィアのボスである龍子の元に匿われ、密かに育てられるというのが冒頭の展開。

龍子の父は、フルセーヤの国王を裏切って、軍部のラシード将軍と手を結び、麻薬の利権を得るために恩を仇で返すのだった。龍子はそんな父に失望し、自ら手にかけるが、その後父は、死んだはずだと思っていた母親の身代金を払うために、日本へ金を送金していたことがわかる。ラシード将軍と手を結んだのも、母を救うためだったのだ。
父の真意に気がついた龍子は、己を恥じて自害しようとするが、ラシード将軍に止められ、母を救う使命を託される。

龍子は日本へと渡り、死に別れたと思っていた母と再会する。
しかし、そこで驚愕の事実が明らかになる。
龍子の母は、歴史の闇で暗躍する秘密結社「黒華」の龍頭ー王朝の圧政に抗い、世界中に散らばった大鳳民族を束ねる影の皇帝だったのだ。
龍頭が命じれば、世界中で黒華の構成員たちが武装蜂起を開始する。
龍子は次期「龍頭」の継承戦に巻き込まれてしまう。

〈激アツポイント〉

最初に惹かれたのはまず“絵”。
オールアナログで描かれていて、しかもアシスタントを使わず、作者が一人で作画しているという。
ものすごい熱量と疾走感で、荒々しいタッチはときに、画面に何が描かれているのかわからないレベルにまで達することも。(だがそれがいい)
アドレナリン全開かつ、漫画文法的にも型破りな構成で、ひらすら圧倒される。

なのでとにかく、表紙の絵か、あるいは画像検索とかしてもらって、絵が気に入ったなら是非買うべき作品。それだけ作者の美学が充満していて、ひたすらクールでかっこいい漫画を求める向きには、うってつけの一作。

ハードボイルドものとか、冒険小説、スパイ小説が好きな人とかは、男臭いロマンチズムがブッ刺さり泣かせる。と言ってもメインキャラは女たちなので、韓国ノワールの『悪女』みたいな華麗なアクションが、野暮ったさを吹き飛ばしてくれる。

今の時代にこんな漫画が読めるというのが、ちょっとした奇跡ですね。

2024年6月30日現在で、コミックスは2巻まで発売中。
A5判というやや大きめの判型になっていて、紙の書籍で買うとなお良し。


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