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書評『砂漠の救世主』『砂丘の子供たち』新訳版

ヴィルヌーブ版の『デューン PART2』を無事、劇場鑑賞した私は、冷めやらぬ熱気のまま、映画の続きであるフランク・ハーバートの原作小説『砂漠の救世主』『砂丘の子供たち』の新訳版を手に取ったのであった。

ハルコンネン家とシャッダム4世の陰謀を打倒し、新たに皇帝となったポール。
映画はそこで幕を閉じるが、原作ではさらにポールのその後が描かれる。
ハーバートはデューンシリーズを『砂丘の子供たち』までの三部作で一区切りとしており、もともと三部まで書かれる物語だったのだ。
映画が消化不良だった諸君も、原作を読めば万事OKということだ。

ところで、ヴィルヌーブ版の『デューン』の面白さですが、初め私は、ヴィジュアルセンスとライティングが作るリアリティが魅力だと思っていたのですが、それは全て、原作を読んでいるということが前提になっていて、原作で描かれた世界がどんな風にヴィジュアル化されているのかを楽しむものだったのだな、と気がついたのです。
なのでPART3が公開されたときは、ぜひ『砂漠の救世主』を先に読んでおくことをお勧めしたいと思います。


砂漠の救世主

前作から十二年の歳月がたち、ポールはその間、聖戦と称して周辺惑星を次々に支配下に収め、期せずして専制君主として君臨することになる。
そんなポールの独裁政権を打倒するため、同盟が密かに組まれ、陰謀が計画されるというのが本作。

フレメンたちの間でカリスマとなってしまったポールは、皇帝になったはいいものの、加熱する聖戦の熱を抑えることができず、結果的に大量虐殺者となってしまう。
さらに世継ぎの問題もあり、愛妾であるチェイニー(映画版だとチャニ)との間には一向に子供ができなかった。

一方、陰謀をめぐらすために集まった同盟のメンバーは、ベネ・ゲセリットの教母モヒアム。(ジェシカの師匠で、ポールに苦痛の箱の試練をした人ね)プリンセス・イルーラン。(映画だとフローレンス・ピューが演じてた人)
さらに新キャラとして、踏面術士フェイスダンサーと呼ばれる、変身能力を持った男スキュタレー、ギルドの航宙士エドリックの計四人が集まる。

映画には航宙ギルドが出てこないので、なんのこっちゃかもしれませんが、デューン世界ではAIとの大戦争があって、高度な機械が禁止されているという設定があり、だから演算能力者メンタートと呼ばれる人間コンピュータを育成して、機械の代わりに計算をさせている笑。結構ぶっ飛んだ世界です。

だから宇宙船を操るのにも、メンタートが必要で、航宙ギルドは運輸を一手に管理する組織です。

集まった四人の同盟には、ポールに対する一つの秘策があって、それが死んだはずのダンカン・アイダホの偶人ゴウラだ。
ゴウラとはいわばクローンのようなもので、スキュタレーという男が、男版ベネ・ゲセリットとでもいうべき組織、トレイラクス会の技術を使って、前作で死んだはずのダンカンを蘇らせてしまう。これをポールに献上しようというのが、彼らの秘策です。

復活したダンカンのクローンが最大の陰謀なわけですが、それが一体どんな奇策となってポールを陥れるのか、これが最大の見どころの一つだろうと思います。
変身能力を持ったキャラがいるのも、陰謀におあつらえ向きでワクワクさせてくれる。

今作の読み味はとても悲劇的なカタルシスがあって、クライマックスである人物が死に、同時にある人物が復活を遂げるという構成になっていて、ドラマチックな対比で見事に盛り上げてくれる。
ハーバート自身は今作を次回への中継ぎの巻と位置付けていて、今作で用意された展開『砂丘の子供たち』へ、さらなる弾みをつける。 
ヴィルヌーブ版はここまでの映像化を計画しているらしく、製作ももうスタートしている。早くも映画化が楽しみです。

砂丘の子供たち



『砂漠の救世主』のネタバレします。注意。



前作でポールが砂漠に消えて10年が経ったアラキス。
砂漠には緑が生まれ始め、フレメンたちには文明がもたらされた結果、退廃が進む。

胎内で忌み子として覚醒し、先人たちの全知識を継承する、ポールの双子の遺児、レトとガニーマ。
先帝の孫であるコリノ家のファッラディーンと、彼と手を結ぶレディ・ジェシカ。
重積に耐えられずスパイス漬けになり、ハルコンネン男爵の亡霊に取り憑かれるアリア。
そして、政権を批判し辻説法をかます謎の伝道者。彼は死んだはずのポールなのではないか…? 衝撃の噂も囁かれる。
この四者が入り乱れる卍どもえのデューンシリーズ三作目、『砂丘の子供たち』。

前作『砂漠の救世主』でポールは皇帝の座につくものの、聖戦によって夥しい血を流してしまい、フレメンたちの間に退廃を招いてしまいました。

そしてアラキスの破滅という確定した未来に耐えることができず、自ら砂漠に去ってしまった。
そんな父の失敗を見ていたレトとガニーマはいかにして、同じ轍を踏まず、アラキスを取り戻すことができるのか?
『砂漠の救世主』が本作へのブリッジを果たす中継の作品だとして、『砂丘の子供たち』はデューンシリーズの一つの区切り、ブリッジを受けて発展する解答編という感じです。

まずポールが陥った失敗とは、砂蟲ワームの青い血をすすり覚醒してしまったことで、確定した未来予知に囚われてしまったこと。そしてその重積を担えなかったこと。
アリアにしても、メランジ中毒に陥ってしまい、先人の魂と対話するのはいいものの、ハルコンネン男爵に取り憑かれて闇オチしてしまう。
頼るべき人もおらず、結果的に一人で問題を抱えてしまった。
忌み子であるアリアと対等に接することができる人物が、誰もいないというのが大きい。

その点、レトとガニーマは双子というのが象徴的で、相補い合うような関係で、二人ともが忌み子として覚醒している。
最大の問題点は、未来予知にどう対処するかで、最初双子は、ポールが踏み込んだような危険ゾーンへの深入りを避けていた。
しかし、レトが奥砂漠で密輸業者と取引をしているフレメンに捕まってしまい、砂蟲のエキスを飲まされてしまう。
これによってレトは覚醒してしまい、ポール以上の予知を獲得してしまう。
予知はタイフーン・ストラグルと呼ばれ、アラキスに大量死をもたらす…父はこれを知って絶望したのだった。
レトも同じ境遇に立たされてしまうわけですが、まさかの解決方法で父を乗り越えます。


ここから『砂丘の子供たち』のネタバレ注意。


真面目に内容の話をすると、レトは砂鱒(砂蟲の幼体?)と一体化して全身を覆うことで、人蟲一体の天然保水スーツに身を包んで、超越的な力を手にします。
大量の砂鱒が体を覆うと聞いて、自分の脳内にはジブリ的なビジュアルが組み上がっていくんですが、どんなスーツなんだ笑
覚醒したレトは怪力を手にし、アリアを(マジのマジです)足を掴んでぶん回すというプロレス技を決めて勝利します
その後、長命化したレトが3000年にわたって新たな政権を築き上げるぞ!というところで物語に幕。

解説で堺三保さんが書いていることですが、デューンシリーズは前の世代の失敗を訂正しながら、新たな世代を築いていくストーリーになっていて、本作で皇帝となったレトの治世もまた、次の世代によって打倒されるという展開になっているという。
永遠に続く体制や支配など存在しないというのが暗に込められているわけで、下手な正解を出すより、よっぽど誠実なメッセージだ。政治も生態系と一緒で、循環して機能するものなんだ。

本作は前作よりも、一読しただけでは含意がつかみ切れないところもあって、難解かもしれない。分厚いし。
レトが皇帝になったのはいいけども、肝心なタイフーン・ストラグルがどんなものなのかはまだわからないし、ここまできたら残りのシリーズも新訳して出して欲しいなぁ。酒井さん頼むぜ~。


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