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【映画時評】マッドマックス:フュリオサ

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、アクション映画の極北、一つの到達点を示した作品といえて、そのルーツはジョン・フォード監督による1939年の映画『駅馬車』にまでさかのぼる。
駅馬車に乗り合わせた搭乗客と、馬を駆るアパッチ族との銃撃戦のクライマックスシーンは、“移動しながら戦う”というアクション映画の定石を打ち出すものだった。

ジョン・フォードのアクションに魅せられた監督は、スピルバーグとか(フェイブルマンズのラストね)黒澤明宮崎駿まで、それぞれ息もつかせぬスペクタクルを得意とする監督ばかり。
おそらくジョージ・ミラーもこの偉大なアクション監督の影響下にあるはず。

『怒りのデスロード』はハリウッドの黄金則、“語るな見せろ”を徹底した作品で、キャラクターの説明描写は最低限で済ませ、ビジュアルとアクションで2時間の上映時間を満たしてしまう。
これを成立させるには、アクションの連続を飽きさせないための手数が必要になるし、並のビジュアルでは退屈してしまう。手際の良い演出でスピード感を殺すことなく、キャラクターには感情移入させなくてはならない。銃と車の能天気な映画なのかと思うむきもあるかもしれないが、マッドマックスシリーズはとてつもなく技巧的で、派手なエフェクトに頼る映画とは一線を画す映画だ。

『マッドマックス:フュリオサ』は『怒りのデスロード』の前日譚に位置し、イモータンに反旗を翻すフュリオサの過去を描く。
プロットは章ごとに分かれていて、前作が三日の出来事を濃密に描いた作品なのに対して、本作は幼少期のフュリオサが母親を殺され、ディメンタスからイモータンへ渡り、復讐を果たすまでの長いスパンを描く映画になっている。必然、演出も変わり、一作目の爆走テイストは鳴りを潜める。直線的なストーリーラインから打って変わり、最近4Kリマスターで見た『荒野の用心棒』、ひいては黒澤の『用心棒』連想するようなストーリーで進行する。
二つの陣営に挟まれながら、うまく両者を利用しつつ生き残るというプロットで、フュリオサのたくましさや、どちら側の正義にも与しない孤高さが際立つ物語に
なっている。
さらにアクションシーンでは、前作では使われなかった空中戦とか、スナイプ戦とかが組み込まれて新鮮な風を吹き込んでくれる。
本作はマッドマックスシリーズの総括であるばかりでなく、さまざまなアクション映画のDNAを見ることができるのだ。

マッドマックスシリーズは二作目からポストアポカリプスの近未来に世界観をうつし、アクション映画でありながらファンタジー映画としても十二分に楽しめる映画になっている。
直感的にファンタジーだと思ったのは、空の色を眺めた時だ。
『怒りのデスロード』ではオレンジの砂漠と碧色の空が印象的なカラーリングで、アレックス・プロヤス監督の『スピリット・オブ・ジ・エア』に似ている。
ジョージ・ミラーもプロヤスも、おそらくメタル・ユルラン的な世界観、メビウスが描くような砂漠が念頭にあるのではないかと思う。ヨーロッパ的なカラーリングなのだ。

メビウスの名前も出たし、『エル・トポ』もついでに入れとこう。マッドマックスにはジョゼフ・キャンベルの英雄の旅の構造があり、ゆきて帰りし物語として魂の遍歴を語る映画でもある。ホドロフスキーとかの作品と一緒の系列で、瞑想的でスピリチュアルな世界を持っているのだ。本作ではそれがさらに前面にでたと思う。

復讐譚において最も需要なのは、仇をどうやって討つのかということだと思う。
ただ殺せばいいというものではない。死を後悔するような屈辱でなくてはなくてはならないのだ。
なるべく敵が地獄を味わって死ぬのが望ましいが、果たしてフュリオサは母親を殺したディメンタスにどういった鉄槌を下すのか、衝撃の復讐を是非、劇場で目に焼き付けてほしい。さすがジョージ。やってくれるぜ。

あとは個人的な発見なのですが、私がメタルギアソリッドの小島監督の大ファンでして、小島監督が『フュリオサ』を語る記事がある。そのなかで、ジョージ・ミラーのネーミングに触れて、フルネームが存在せず、あだ名しかないキャラが多いことに触れる。

余計なセリフがなくて、衣装やちょっとした仕草とか、それだけで魅力が十分に伝わってくる。あれも普通の監督にはできません。『マッドマックス』のキャラクターなんて、名前(フルネーム)すらないでしょ? みんなあだ名みたいなもんじゃないですか。それでもキャラの魅力がしっかり伝わってくる。僕もそういうやり方をジョージさんに教わったので、自分のゲームでもやろうとしているんですが、それには一個一個、しっかりとしたアイデアを考えなくてはいけないので、やろうとしてもできないんですよ。

これって“スネーク”もそうだし、フォックスハウンド部隊の面々とか、シギントとかパラメディックとか全部そうじゃん!と遅まきながら理解するメタルギアファンであった。デスストもそうだ。ママーなりダイハードマンなり、本名じゃねぇ。
スタイリッシュかつアイコニックで、覚えやすくもかっこいいよねー。こういうネーミング。
ジョージ・ミラー監督は『デススト2』にもまさかの出演をしていて、まんま本人でカッコ良い。映画ファンも必見のゲーム。

マッドマックスサーガはまだ終わらない。さらなる続編に、身を捧げよ。

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