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2022年のキーワードは「ウクライナ」と「ワクチン」(新聞書評の研究2022)

はじめに

筆者は2017年11月にツイッターアカウント「新聞書評速報 汗牛充棟」を開設しました。現在は「新聞メタ書評報 汗牛充棟」という名前です。

全国紙5紙(読売、朝日、日経、毎日、産経=部数順)の書評に取り上げられた本を1冊ずつ、ひたすら呟いています。本稿では、2022年に新聞掲載された総計3158タイトルのデータを分析しています。

なお、2019年~2021年のデータ分析は以下のマガジンにまとめています。

今回は、2022年の新聞書評面に紹介された本の特徴をタイトルから分析します。全タイトルをベースにワードクラウドを作ってみました。比較の対象として、2019年、2020年、2021年のタイトルも入れてみます。

2019年以降の書評本タイトルのワードクラウド比較

あまり差がないように見えますが、2022年には「ウクライナ」が大きい活字で出てくるのがわかります。「コロナ」も見えていますが、2021年、2020年ほど目立ちません。

なお、過去の分析では、「史」のつくタイトルが最強であるとの説を唱えましたが、2022年度もこれは変わることなく続いています。

次に分析手法を変えてみます。先ほどのワードクラウドを、元の計算式を一か所だけ変化させると、次のようになります。

あぶりだされた「ウクライナ」「ワクチン」

計算式をどう変えたかというと、

どの年にも出てくる単語はないものと考えて計算した

のです。これで、「史」、「日本」、「世界」といった単語を含め、どの年にも共通してでてくる単語は、無視されます。かなり荒っぽいやり方といえますが、差異だけを極端にデフォルメするには都合がいいわけです。

さて、2022年のワードクラウドを改めて切り出します。

こうしてあぶり出した単語のうち、活字が大きい上位10位(一つ一つの単語は数値を持っていて、その数値に応じた大きさになります。技術的な概観は過去の連載の「技術的補足」を参照してください)は、「ウクライナ」、「文集」、「与謝野」、「亜鉛」、「とんこつ」、「早送り」、「物価」、「ワクチン」、「づめ」、「タラント」でした。

さらに単語ごとに書籍を見ると、「亜鉛」、「とんこつ」、「早送り」、「物価」、「タラント」は1タイトルの重複紹介による頻出ですので、キーワードから外します。

対応する書籍はそれぞれ、『亜鉛の少年たち』『とんこつQ&A』『映画を早送りで観る人たち』『物価とは何か』『タラント』です。(このうちは、『亜鉛の少年たち』を除く4タイトルは、以下に紹介しています)

同様に、「文集」は4タイトル(『写文集 我が愛する詩人の伝記』『ヒカリ文集』『現代建築宣言文集[1960-2020]』『正岡子規ベースボール文集』)でしたが、「文集」という単語に、2022年的な特徴はありません。

「与謝野」は2タイトル(『よみがえる与謝野晶子の源氏物語』『ジャーナリスト与謝野晶子』)ですし、「づめ」は『谷中びんづめカフェ竹善 4 片恋気分の林檎フェス』『さばの缶づめ、宇宙へいく』『キリンのひづめ、ヒトの指』と、まったく意味の違う使われ方をしています。これらも、キーワード認定できない単語です。

これらの単語を除外し、2022年を代表するキーワードを「ウクライナ」(21タイトル)と「ワクチン」(5タイトル)に絞り込みました。以下、ラインナップです。

「ウクライナ」を伝える21タイトル

『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』

『ウクライナ戦争の教訓と日本の安全保障』

『「ウクライナ戦争」から日本への警鐘』

『ウクライナの教訓 反戦平和主義(パシフィズム)が日本を滅ぼす』

『非戦の安全保障論 ウクライナ戦争以後の日本の戦略』

『ロシアの思考回路 その精神史から見つめたウクライナ侵攻の深層』

『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』

『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』

『ウクライナ侵攻とロシア正教会』

『ウクライナ戦争の衝撃』

『ウクライナの夜』

『本当のウクライナ - 訪問35回以上、指導者たちと直接会ってわかったこと』

『中学生から知りたいウクライナのこと』

『ウクライナ戦争日記』

『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』

『ウクライナ戦争と米中対立』

『ウクライナ戦記 不肖・宮嶋最後の戦場』

『ウクライナ戦争の200日』

『ウクライナ侵攻に至るまで』

『ポスト社会主義の政治 ーーポーランド、リトアニア、アルメニア、ウクライナ、モルドヴァの準大統領制』

『国境を超えたウクライナ人』

ロシアのウクライナ侵攻は2022年2月24日です。そこからスタートして、大手紙に書評に紹介された書籍だけで、年末までにこれだけのタイトルがそろうところに、日本の出版界の底力を感じます。


「ワクチン」を考える5タイトル

『ワクチンの噂』

『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』

『mRNAワクチンの衝撃』

『ゲノムに聞け 最先端のウイルスとワクチンの科学』

『変異ウイルスとの闘いーーコロナ治療薬とワクチン』

ワクチンも2022年を象徴しています。

こうして振り返ると、2022年は戦争と疫病の年だったと改めて実感します。2023年は穏やかなタイトルが見たいところですが、どうなりますやら。

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