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SXI代表理事・富田が語るコロナとシステムデザイン「ニューノーマルがノーマルになる準備をできているかが重要」

 5月に緊急事態宣言があけてから今もなお、全世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス。プロ野球やJリーグといった大型スポーツイベントもなんとか開催にこぎつけてはいるものの、コロナ時代に入り、大会のあり方、ファンの行動にも変化の波が訪れている。

 今回はSports X Initiative(SXI)の代表理事・富田欣和に、コロナ禍におけるスポーツ界やシステムデザインそのものにどのような影響があるのか。そして、コロナ時代にSXIが進めるプロジェクトについても聞いた。

そもそもSXIが取り組む「システムデザイン」とは?

 日本スポーツ界も社会も、新型コロナウイルスによる影響ははかり知れないものになっています。北米とか欧州のベストプラクティスを持ってきて実施すれば解決するという状況ではなくなった。私はこの状況こそ、構造から考えることが求められると思っています。

 スポーツは世の中を変革するうえで、非常にユニークなインターフェース(接点)になると思っています。世の中では様々なスポーツにまつわる活動がありますが、われわれSXIの活動はスポーツの構造を変えていくというのが柱になります。今こそ、われわれの活動を示さなければいけない時が来たと感じています。

 スポーツも含めて、われわれが解決しなければいけない課題というのは、年々複雑なものになってきています。すぐに解決できるものではなく、どこから手を付けていいのか分からないような課題が目の前に置かれています。それを考えるには、論理的思考で細かく分散し、分けて考えていても答えにはたどりつきません。複雑なまま全体を理解し、それを組み直していくような思考法が求められており、それこそがシステムシンキングです。

 ただ、「そもそもシステムとは何か?」というところは明確にしておかなければいけません。ソフトウェアやプログラムの話ではなく、複数の構成要素から成り立つ集合体は、全部システムとして捉えることができます。つまり、スポーツや組織経営など、世の中にあるものすべてがシステムとして捉える事ができます。

 その中で、スポーツをシステムとして考え、スポーツの中にある複雑な課題を解決していこう、という試みがSXIの取り組む「システムデザインプロジェクト」になります。

コロナ禍で考えたい「変化の質の違い」

 システムで物事を考えるときに大事なことは、「自分たちが仕組みとして作ろうと思っているもの」と「それ以外」を分けて考えることです。われわれのプログラムではコンテクスト分析という呼び方をしています。

 作ろうと思っているものは単体では存在していません。作ろうと思っている領域以外からも、いろいろな影響を受けたうえで成り立っています。

 コロナ禍においては、自分たちの領域が変わらなかったとしても、周りの環境が激変しました。シンプルに言うと、人々の価値観と行動が制限されています。これまでは「コミュニケーションを密にしよう」「人と人の関りがやっぱり大事だよね」と言われていたのが、今は「近寄るな」「集まるな」になったわけです。スポーツで言うと、スタジアムでのあの盛り上がりを感じようと思っても、「来ないでください」となったりと、自分たちでこうあるものだと思っていた価値観が崩れました。それに伴って、今までとは全く違う行動を強いられるようになった。それが、システムにとっては非常に大きな変化です。

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 コロナ禍の状況は、「変化の質の違い」であり、もともとのノーマルがニューノーマルになっていきます。しかし、さらにこの後に控えているのはニューノーマルがノーマル化する段階が控えています。その段階に対しての備えはできているのか? というのが、スポーツ界でのコロナによる影響の第2波になるのではないかと思っています。

 今のような状況になると、ニューノーマル化に対応することに注力しがちですが、ニューノーマルはノーマルではありません。ニューノーマルはまだ特別感があるが、それが日常化したときにスポーツの世界は何をすればいいのかが今とても重要なことなのではないかと思っています。緊急事態の対応ではなく、変化したものがノーマルになったときの対応で、団体や個人の力量の差が明確に表れると思っています。


Willを実現するためのメソドロジーの重要性

 ニューノーマルのノーマル化に備えるためにも、様々なアプローチによる思考を多く繰り返し、状況も踏まえ、全体を全体として捉えながら次の全体を作っていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

 大きな変化が起こったときに、多くの人は予測をしようとします。そして、「こうなるんじゃないか」と仮定し、ビジョンを描きます。ただ、予測なんて当たるわけがない、というのがコロナの時代に代表されるVUCAワールド(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の考えです。

 今求められているのは、何もない中で自分たちのWillで未来をつくっていくことです。その時に、単にやりたいことを語り、熱量だけで作っていくのではなく、混沌としている時代だからこそWillを実現するためのメソドロジーを持っていることが非常に大事です。

「未来をこうしたい」というビジョンと現実の『間』に、リアル感のある世界をしっかりと作り切ってあげることが、今とても求められていると感じています。

 システムデザインは、総合格闘技みたいなものです。サイエンスの知見だけではだめだし、アートだけでもダメだし、エンジニアリングだけでもだめ。全体をデザインするためには、全体をデザインし続けなければいけない。たくさんの細部を分析し、たくさんの細部を作ってから全体を作るというのは本質的には難しい。どんなに小さくても粗くてもいいから、最初から全体を作り続けていく。粗い全体から、より精緻な全体を作っていくことをしないと、自分たちが作りたい世界を作るのは難しいと思います。

SXIのプロジェクトが北海道で進行中

 SXIの活動には「Sports X Lab」というシステムデザイン・ファームがあります。ここでは「われわれが作りたい世界」の実現に向けて、一つのプロジェクトが進行中です。

 人口が約5000人ほどの北海道鹿追町において、スポーツコミュニティーの形成を目指しています。より具体的に言うと、小・中・高すべての部活動を学校から独立させて地域に移管し、それを税金などを原資とした行政からのお金に頼らずに、民間のお金で回すことです。このプロジェクトにはNECさんを始め、多くの企業や個人の方にご賛同していただき、一緒に取り組んでいます。

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 なぜ北海道の鹿追町を選んだのかと言いますと、人口動態や経済指標などを見ると、この地域でスポーツコミュニティーが自律的に回る仕組みを作れたら、全世界のどこでも使える仕組みになると思ったからです。

 これまでの仕組みは、会費や広告費を元手にして運営しているコミュニティがほとんどでした。ですが、鹿追町では人口が5000人しかいないので会費では賄えないですし、広告費を売り上げることは難しい。複数の要素がそこにあって、複数の要素をちゃんと設計をしてあげると全体の仕組みとしてサステナブルになる、というシステムデザインに取り組んでいるところです。

 まだまだ答えは出ていないですが、制約条件がある中で社会にスポーツがしっかりと根付き、ビジネス化も行われ、社会的なQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる仕組みをしっかりと作り上げたいと思います。そして、世の中に発表し、これこそがシステムデザインであり、SXIがやろうとしていることを早く示していきたいと思っています。

(取材・構成:SXLP 2期/澤田和輝)

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