すべてが今に繋がっていたのだとしたら 【入社1週目】
同期を大切にしましょう、と入社前からたくさん言われてきた。
そんなこと言われても、採用人数が多いうちの会社では何かの交流会とか飲み会とかで会った人ともう2度と会うことがないということだってあり得てしまう。同じ部署でも一緒に仕事することはまあないだろう。実際に仕事をする上で関わるのは先輩後輩なのだから。
だからそんな、同期を重視しなくてもいい。
仕事が終わったら早く帰って夜ご飯を作って、自分の時間を楽しめたらそれで。
そんなふうに思っていた。
だから入社式、クラス発表の掲示を見て向かった教室で座席表を見ると、知っている気がする名前がいくつも並んでいて、驚いたんだ。
そしてそれは気のせいではなくて、30分前に到着した私の後から入ってきて、彼らは私の姿を見るとすぐに「俺のこと、覚えとる?関西の飲み会で会った、(自分の名前)やけど。」とナチュラルに声をかけてくれた。
その中の、誰とどこで接点があったかはあやふやだった。でも確かに見覚えのあるその名前や顔に「うん、覚えてる!よろしく!」と答えた。
女性比率が上がったとはいえ、まだまだ男性の方が多い業界だから、名前順だった私の座席の周りは右隣の子以外、男性ばかりだった。それでも彼らはナチュラルに「俺、(自分の名前)。(あだ名)でいいよ。」「何て呼べばいい?」「(私のあだ名)か。オッケ!よろしく!」と言って、その後も座席で喋る時には会話の輪の中に入れてくれた。以来、3日後の席替えまで、休み時間は座席周辺の5〜6人でしゃべるのが常になった。
その中に、私が何を話してもいつも、目を見て笑顔で話を聞いてくれる人がいた。もちろん私だけ、というわけでは多分ない。しかも、人生で出会った中でもトップレベルのイケメンで、こんなに完璧な人がいるんだと思った。私は入社1〜2日目にして、彼から人の目を見て話を聞く大切さを学んだ。ひとは、相手から目を見て話を聞いてもらえると受け入れられている、と感じて安心するし、嬉しくなる。
あれは4日目のことだったか。
その日は社用PCのセットアップで、その進捗がかなり良かった中で突然私のPCがバグり、初期化の末にPC交換になってしまい、お昼休みに入って数分まで作業が延びてしまった。その間に、いつも一緒にお昼ご飯を食べていた名前順でお隣の子が喫煙所に行ってしまって、今日はぼっち飯かなあ、なんて思いながら、私は食堂までの廊下をぼんやりと歩いていた。
すると前の集団から、1人男の子がこちらに向かって歩いてきて、私の前で立ち止まって「お昼、一緒に食べへん?」と言った。
いいの?と驚いた顔を向けた私に、「もちろん!あ、あの集団で良ければ、やけど。」と言った。たしかに男子だらけだったけれど、席替え前の座席が近所でいつも喋っていた5〜6人の、安心感のある顔ぶれの集団だった。
「ありがとう!!ぜひご一緒したい!」と言って、駆け寄った私を彼らは笑顔で快く迎えてくれた。「(私のあだ名)、なに食べる?」「ん〜、ハンバーグかなあ」「(相手のあだ名)はなに食べるん?」「俺もハンバーグかなあ」なんて喋りながら券売機に並んで食券を買って、サラダやご飯を盛り付けて、席についた。
私を誘ってくれた男の子はプレートをテーブルに置いたあと、席を外し、すぐに戻ってきた。そこには同じクラスでその日から私と同じ班になった女の子が2人とその子たちと仲良い女の子(私は面識がない)が1人いて、手にはお弁当を持っていた。
女子ひとりだと世知辛いだろうって思っての配慮だったのかもしれない。彼女らとも適度に話しつつ、お昼を食べている間のほとんどを私は彼と喋って過ごした。
以来、彼は私が困っていると必ず助けてくれる。
たとえば、渋谷のうるさい居酒屋で派手に騒いでいる他の集団に遭遇したとき「大丈夫?」「うるさいよなぁ」と声をかけてくれた。飲み会へ行くまでの道で会話に入れなくて手持ち無沙汰になっていると自然と会話から抜けられるのを待って、「お花見、行ってたよな。俺はちゃんとは行ってへんけど、俺ん家の近くの公園、めっちゃ綺麗やからそれで満足できちゃうねん。写真、見てほしい!」と話しかけてくれた。
「俺、陽キャにも合わせられるから。でも、ほんまは(性格が)(私のあだ名)タイプなんよね」と言う。
確かに彼は、みんなと盛り上がることができる。生粋の関西人だし、おもしろいことも言える。けれど、それはギラギラした太陽っていう感じの明るさなわけでも、ポカポカお日様という感じの柔らかい感じの明るさなわけでもない。他の人からは太陽と形容されそうな彼の明るさは、なぜだか私から見ると月のような明るさに思える。
***
もう1人、上記の彼とニコイチで、これまた関西人の男の子がいる。彼は、関西飲み会で、場に馴染めずにいる私に声をかけてくれた人で、クラスでもよく声をかけてくれる。そして、例の関西飲み会の日のことを
「俺、あのノリ無理やわ。あれ以来、関西飲み会行ってへん。しんどいんよね。」
「で、(私のあだ名)も、俺と同じタイプやろうなって思ってさ。あのとき声かけたんよね。」
と言う。
それ、2〜3回聞いてる(笑)と返すと、あれ?といつもとぼけている。
そんな彼には2年半付き合っている彼女がいる。いじられキャラの彼は、みんなから「お前に彼女おるなんて嘘や!」といじられているけれど、私はいないわけがないと思っていた。だって、誰と対しても何でも喋っているように見えて、彼はきちんと境界線を持っている。私には、何となくわかる。きっと、誠実で、めちゃくちゃ彼女のことを大切にしているんだろうなって。
***
最初のうちは、イヤフォンでガンガンにミスチルの東京聴きながら歩き回るといいよ、と教えてくれたnoterさんがいた。
上京したときは、この街に大切な場所なんてなくて、大切な人なんていなくて、東京ではないミスチルの曲ばかり聴いていたけれど、最近は東京も聴いている。そして、この歌詞が、ハマるようになっていて、私の瞳に映る東京の街が、再び輝いてきているのを感じる。
入社して、1週間と3日。
初めての社会人生活。1日は長いけれど、1週間は早かった。
その間に2回、金曜と月曜にクラスの飲み会があった。
どちらも二次会まであって、どちらも二次会の最後の最後まで参加した。
今まで過ぎることがなさすぎて気にしたことすらなかった終電という概念を初めて意識した。終電なんて無ければいいのに、この夜がずっと続けばいいのに、と思った。
初めてのリモートワークだった今日、17組のみんなに会えないのが寂しくて寂しくて、仕方なかった。
まだ8日なのに、ここに書ききれないくらい素敵なことがたくさん起きた。
今回は、男性陣の話ばかりしたけれど、女性陣もいい子ばかりなんだ。座席上しかたなかったとはいえ、もう輪が出来ていた女性陣に話しかける勇気がなくて男性陣とばかり喋っていた私を見ても、これまで出会ってきた女子のように「男好き」と嫌な顔をしたり、私を仲間外れにするような子なんていなくて、班活動や飲み会で少し喋ったら自然と輪に入れるようになっていた。
まだ8日なのに、あと1ヶ月ちょっとでこのクラスとお別れなんて嫌だなって、本気で思う。長いテーブルで席取りをして、17組の食堂組全員で集まってお昼ご飯を食べちゃうくらい仲の良いクラス。クラス代表が飲み会を企画すれば、初回から2日しか経っていないのに、半分近いメンバーが参加するようなクラス。週1回飲み会するのに、GW明けには福利厚生使ってみんなでディズニー行こうって企画しちゃうようなクラス。そんな青春、社会人には、私には訪れないって諦めてたの。
彼らといると、陽キャとか陰キャとか、今まで気にしていたような分類区別ジャンル分けが、心の底からどうでも良いものだって思う。みんながクラス全員と仲良くなりたいって思っていて、誰とでも話せるようなコミュ力のある人が、誰かと付き合ったら1年以上続く人がほとんどってくらい真面目で誠実で良い人が、集まっている。
おもしろいことを言えるようになりたいと思っていた私に笑いかけてくれる人がいて、真面目と思われて敬遠されてしまうことがコンプレックスだった私にそのままでいいよ、と手を差し伸べてくれる人がいる。
もしも、これまでの苦難が、彼らと出会うためにあったものだったのだとしたら。ゴミのような人間たちに傷つけられてきた過去がないと、彼らに出会えなかったのだとしたら。そんな過去さえも、私はありがとうって愛せてしまうと思う。
私は、彼らと肩を並べるにふさわしいと、判断されて入社したのだ。
その事実だけで、前を向ける。
***
中高時代の私へ
自分の弱さを嫌っていると思います。
何でこんなに上手くやれないんだろうって、自分を責めていると思います。
だけどね、君の人生は大学以降、最高なものになるよ。
自分がおかしい?と問い続けて心が壊れる寸前になる夜を越えて、それでも自分が自分で在ることを選んで、そういられる環境を追い求めた君は、もう直ぐ闇から抜けます。
あと6年、あと3年。
大丈夫、君の未来は、明るいよ。
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