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真夜中ドライブ

父は、自由闊達な人だ。

小学校一年生のある日の夜、僕は父親から揺り起こされた。夜10時。よい子は夢を見る時間である。父はやけに高テンションで、対照的に僕は寝ぼけ眼だった。母は苦笑しながら僕らを見送った。弟たちはぐっすりと寝ていた。

父は、コンビニが大好きだ。

僕らを乗せた車は、コンビニに到着した。父親は「何でも好きな物を買っていいぞ」と言った。僕はポケモンパンを二つ買った。父はチキンを二つ買って、そのうち一つを僕にくれた。父は「やはりチキンに限る」と満足そうに言った。


父は、話が上手だ。

父は、自分の好きな物を永遠と語っていた。僕が話し始めると、打って変わってよく聞いてくれた。何時間話していても飽きなかった。


父は、いたずら好きだ。

車が暗い山道を走っている時、父は身の毛もよだつ怪談話を披露した。僕は少しちびった。震えている息子を見て父親は微笑むと、さらにギアを上げて怪談話を始めた。僕の父にはそういうところがある。僕が半泣きで話を聞いていると、父は乱暴に頭を撫でてくれた。大きな手だった。

父は、子供っぽい人だ。

「お、カブトムシ!」と言って、父は車を路肩に停車した。前方にはメスのカブトムシ二匹とメスのクワガタ二匹がいた。父は「ウシシ」と言って、そっと虫網で捕獲した。父は「オスのカブトムシいねえかな」と頭上を見上げた。僕もつられて上空を見つめた。

父は、ロマンチストだ。

夜空には、満天の星が散りばめられていた。遠く高く巨大な宇宙が眼前に広がった。父は「お前はチビだからなあ」と悪態をつくと、僕を肩車してくれた。僕と宇宙の距離は、父の身長分だけ近くなった。父は、「やっぱり星空はいいなあ」と呟いた。

父は、優しい人だ。

真夜中ドライブの帰り、僕は車の心地いいリズムにうとうととしてしまい眠ってしまった。夢の中には、怪談話の妖怪とカブトムシと父と星空が出てきた。何だか妙に楽しい夢だった。父が眠っている僕を起こさずに運んでくれたらしく、朝起きたら僕は布団の中にいた。僕は父に感謝して階下に降りた。




父は、寝起きが悪い。

ひどい寝癖をつけた父は、何だかとてつもなくイライラしていた。目の下には、宇宙みたいな大きなくまが広がっている。



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