見出し画像

旅を楽しめなかった海外添乗員が泣くほど感動した絶景ーその2

ペリトモレノ氷河は、世界でも稀な、"前進している氷河"である。

ペリトモレノ氷河(撮影:山本すず)

世界には有名な氷河が数多くある。例えばグリーンランド、ミルフォードサウンド、サザンアルプスなど。
いずれも近年の地球温暖化で、その堆積は減少の一途をたどっている。南極の氷河は年間1,500億トンのスピードで溶けているのだとか。
(参考:世界経済フォーラム「南極大陸の急激な氷の融解に対応するためのアプローチ」2023年11月27日)

ところが、ペリトモレノ氷河は不思議なことに前進している(堆積が増えている)のである。
この不思議な氷河は、南米アルゼンチンとチリの境目にある世界自然遺産ロス・グラシアレス国立公園内にある。
山間部の険しい場所で、平衡線(=万年雪の境界線。「雪線」ともいう。)よりも高い場所となっているため、気候変動が大きな影響を与えないらしい。
(参考:ナショナルジオグラフィック「パタゴニアの氷河、温暖化でも謎の成長」John Roach 2009年6月22日)


私は2016年12月に海外ツアーの添乗員としてここを訪れ、その迫力と美しさに心を奪われた。
「仕事」として世界各国を訪れ、絶景やグルメなどを楽しむ余裕がなかった20代そこそこの私が、出会って言葉を失った絶景のひとつだ。

何がすごいって、まずはそのスケール。自然でできた、あんなに大きなものを間近で見たのは初めてだった。いや、富士山とか琵琶湖とかは見たことあるのだけれど、巨大な氷のカタマリはない。
私のこれまでの人生で初めて出会う、ある種の"異様さ"があった。月並みだが自分の存在をちっぽけに感じ、突如とてつもなく遠くへ来た不安感に襲われた。(実際に日本からするとパタゴニアはほぼ地球の裏側だ。)

また、自然が生み出したなんともいえない色の美しさ。氷河の青色ってなんであんなにきれいなのだろうか。空の青とも海の青ともちがう、少し白の入った浅葱色のような青。吸い込まれそうな、それでいて心を洗われるような、絶妙な色だ。

それから、気温の上昇により見られる、氷河の崩落。
ゴォーッという地鳴りのような音とともに、目の前で氷河が崩れ落ちるのだ。
大なり小なり、だいたい20分に一度ほどは崩落がある。観光客の多くはこれを見るため、パタゴニアの短い夏にここを訪れる。私もそれなりに大きな崩落を目撃し、興奮とともにやはり少し恐怖を覚えた。


私が "感動"する絶景には、ある種の恐怖・不安感が関係しているのかもしれない。

同じく南米の、ギアナ高地にいったときもそうだった。
このときのツアーのお客様は6名。ベネズエラの首都カラカスから国内線とセスナ機でカナイマという町まで約2時間、そこからラトンシート島までスピードボートで約1時間半。さらにそこから木が生い茂る山中をハイキングで約1時間半……。

あいにく、雨が降っていた。(ギアナ高地の降水量は年間4,000mmにもおよぶらしい。)
舗装された遊歩道などはない。岩や土を踏みしめながら進んで濃緑の木々をかき分けかき分け、びしょ濡れになりながら、お客さんに明るく声をかけながら(添乗員なので)、進み続けるとふと急に視界が開けた。

見上げると、曇天の真っ白な空から、雲に紛れて一筋、煙のようなものが降っていた。
文字どおり、天まで届きそうな崖から落ちてくる、滝。
顔にかかるしぶきは雨なのか滝なのか分からなかった。
天気は最悪で、視界は悪くて、それでも霧の向こうに天から降ってくる滝に息をのんだ。

それは、世界一の高低差の滝、世界遺産・ギアナ高地のエンジェルフォールだった。

雲と霧の間に現れたエンジェルフォール(撮影:山本すず)
上空から見たエンジェルフォール(撮影:山本すず)



この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

52,953件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?