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歌舞伎町の住人

真夏の夜、一人で新宿の街を歩いていた。


JR新宿の東口にある交番前は定番の待ち合わせ場所で

大量の人が行き交っている。


金髪の髪の毛をツンツンに遊ばせた男、

ガリガリに痩せた女、

はたまたフリフリの女、


夜の住人が目を覚まして歌舞伎町の街まで
導かれるようにまっすぐに歩いていく。


自分の巣へ戻るようにまっすぐにである。


私も試しについていってみた。
この未知なる世界まで私も連れていってと思った。

まるでそれはジブリの有名な作品、千と千尋の神隠しで千尋が踏み込んでしまった不思議の町の世界に似ているように思う。

そんな「新宿っぽい」と評される男女の巣窟に入ると妙な疎外感に苛まれた。


「この人たちの時代は止まっているんだ。変わってしまうと失うからだ」と居心地が悪くなって、逃げるように歌舞伎町を後にした。


その後日、私は夕方に悲しいことが起きて、
無性にイライラしていた。

そんな時、なぜか歌舞伎町が浮かんだ。

この苛立ちと虚無感から救い出してくれるかもしれないとあの街を求め、私の足は歌舞伎町に向かっていた。


電光の間を徘徊する。普段はうざくて仕方がないスカウトと今日は雑談している。

落ちていく自分をこの街に受け入れられたいと思った。

受け入れてもらうにはお金がいるのかもしれないと思った。

それほどにどうしようもない人間を受け入れる器であるとさえ感じられた。


千と千尋の神隠しでは、長くいればいるほど姿が消え、名前を思い出せなくなる。


歌舞伎町も同じ匂いがした。

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