見出し画像

あの時、巻紙は街を浮遊する少女たちは傷つかないと言った。二十年後、闇の女神が見えて来る。そして知らされる美頼の死、或いは『フワつく身体』第十四回。

※文学フリマなどで頒布したミステリー小説、『フワつく身体』(25万文字 366ページ)の連載第十四回です。(できるだけ毎日更新の予定)

初回から読みたい方はこちら:「カナはアタシの全て……。1997年渋谷。むず痒いほど懐かしい時代を背景にした百合から全ては始まる。」

前回分はこちら:雨の武蔵小杉から戻ると、環に襲いかかったのは危険ドラッグでトリップした男。そこから、ヒネの正体が浮かび上がり始める。或いは『フワつく身体』第十三回。

『フワつく身体』ってどんな作品?と見出し一覧はこちら:【プロフィール記事】そもそも『フワつく身体』ってどういう作品?

八割方無料で公開いたしますが、最終章のみ有料とし、全部読み終わると、通販で実物を買ったのと同じ1500円になる予定です。

●一九九七年(平成九年) 八月九日 世良田美頼の日記

 夕方をすぎても、むしむしとして、今日も東京は熱帯夜になるらしい。

 でも、憂鬱なのは暑いからだけじゃない。

 援交の値段が暴落しているんだ。ほんとう、一回、三万とかくれればいい方。最近は二万五千円とか、二万とか提示して来るのもいる。

 理由は夏休みになって、暇を持て余した田舎の女子高生が援交にやってくるようになったから。

 テレビで、女子高生の援助交際が問題だとかさも、真剣ぶってやっているけど、ああそうすれば簡単にお金が稼げるんだ、ていうか流行っているんだ、と思って、どんどん田舎からやってきてそう言うことをする。

 しかも、夏休みで暇だし、テンション上がってるし。

 結局、テレビが広めちゃってる。

 センター街のマックはもう夜の七時を回ったっていうのに、激混みだった。

 マックの奥の方では、ガングロたちが陣取っていて、騒いでいる。真っ黒に焼いた肌に白いパールのリップやシャドウ、色を抜いた上にパーマをかけたボサボサの金髪。

 まるで、幼稚園のころ、ひょうきん族で見た島崎俊郎のアダモステみたいだった。

 ああいうのは、オヤジも買いたがらない。向こうは向こうで、オヤジに声かけられたくないから、ああいう格好になっていったらしい。だから、アタシたちみたいな、そんな派手じゃないのに援交やってる子のこと敵視している。

 狭い店内の中で、他のグループのハイビスカスのついたカゴバッグとかが、ガンガンぶつかりながら、カナとアタシは伝言ダイヤルを聞いていた。

「ダメ、みんな二万五千円とか。えーもう、ワンピ一着も買えないじゃん」

 って、アタシが言うと

「本当、昨日の交渉決裂したオヤジみたいに、値切ること覚えてきて、超ムカつく」

 カナは昨日、三万でいいと伝言ダイヤルでは言っていたオヤジに会ったら、値切られたんだそうだ。

「本当、さっきも言ったけど、船橋ならイチゴとか言うんだよ」

 イチゴは一万五千円のこと。

「だったら、船橋行けよ、船橋。総武線ですませとけよって感じじゃね?」

 カナはもう、昨日から何回も同じことを言っている。

「ダメだ、こいつも二万五千円とか言ってる。渋谷でエッチありなら、本当は四万なんだよ。舐めんなバーカ」

 カナは伝言ダイヤルを聞きながら、毒づいていた。そしたら、カナの表情がちょっと明るくなった。

「あ、この人四万くれるって。相場下がったこと知らないのかな、やった」

 そう言って、カナはその人のメッセージを、ピッチのスピーカーをオンにしてから再生した。

『こんにちわ、えっと、ヒロって言います。三十五歳、身長は一七五センチ。体型は太ってもやせてもいないです。こういうところ電話するのはじめてなんですが、よろしくお願いします』

 マックの騒音にところどころかき消されながら聞こえた声は、三十五歳と言うには、ちょっと若いと思ったけれど、悪くはなさそうだった。

 アタシは四万出してくれる人を探すのはこれ以上難しそうだったので、三万でいいって言う人で妥協した。

 で、その三万の人にはあとで値切られたりすると嫌だから、前金でもらって円山町のホテルでエッチした。

 正直、嫌な感じだった。

 と言うか、夏のオヤジは臭い。

 歳は四十代半ばぐらいだったかな。なんかもう、サカっていて、シャワーも適当だったみたいで、本当にオジサンの臭いがキツかった。

 金払ったからいいだろう、みたいな感じでなんか乱暴だったし。

 アタシは早くカナに会いたかった。

 そしたら、アタシのピッチにカナから着信があった。

 いつものカラオケボックスの前で待っていると言う。どうして、中で待っていないんだろう、となんとなく嫌な感じがして、スペイン坂下のカラオケボックスに急いだ。

 そしたら、カナは手や足になんか擦り傷がいっぱいついているし、S女の夏服もしわくちゃだったし、ブラウスのボタンも何個か外れていた。

「どうしたの?」

「財布の中身、盗られちゃって、中入れないからさ」

「マジで?」

「先にホテルで待っててって言われたから、待ってたら、伝言ダイヤルに吹き込んできたヒロってやつ、三十五なんかじゃなくて、ハタチそこそこの大学生かなんかでさ、仲間と一緒に三人で現れて」

「えっ?」

 アタシが聞き返すと、カナはゆっくりと言った。

「輪姦されちゃった」

「え? えっ?、えっ?、マジで?」

「大丈夫だよ、ミヨリ。ただ、お金なくて待ってるしかなかったからさ」

 カナは笑った。

「そんな、大丈夫って、大丈夫じゃなくない? 警察とか行った方が良くない?」

「大丈夫だよ。だいたい、援交なんかやってるせいだって言われておしまいだよ、きっと」

「そんな。でもどうしよう」

 アタシがうろたえていると、カナはアタシの手をとって、

「だいじょうぶ、指輪は無事だったから」

 って言った。たしかに加奈の細い指には、あのインペリアルトパーズの指輪がはまったままだった。街灯の蛍光灯に照らされて、さみしく光っていた。

 そして、加奈はアタシの方を見て

「だから、今日はいっぱい清めて」

 と言った。

 アタシのお金でカラオケボックスに入るとアタシたちはいつもよりも、長く丁寧に、深く清め合った。

 隣の部屋から、誰かが「砂の果実」を歌っているのが聞こえてきた。音程はとていたけど、裏声で賛美歌のように聞こえた。

At that time I became sinful adult
who we're despising and ridiculing

I felt annyoing your pride like a boy
I was kidding your true heart
I also abandoned your love

You would rather not be born in this world, acttualy
I'm revenged my voice to you at that day

I was weakling and hypocrite
Please look down on my corruption beyond the world

Without realizing, I became empty adult
who we're despising and ridiculing

I would rather not be born in this world, acttualy
love is the sand fruit

The sky is below freezing blue

Even now I feel like crying
when I remember your tweeted voice " I'm proud of you"

My voice is echoed with sad nostalgia
It seems like a preliminarily lost revolution


 カナの体は擦り傷もいっぱいで、アタシがさわると痛そうにするのに、ぎゅっとぎゅっと抱きついてきた。

 そして、アタシの目を見て言った。

「前にボクたちのことを天女のようって言って来たオヤジがいたけど、ミヨリこそ天女だと思う」

 そうして、カナは私にキスをした。

 アタシたちは深く深くキスをした。

 カナの格好はボロボロで、とりあえずスカートはクリーニングに出せばなんとかなりそうだったけど、S女の夏服のブラウスは破れていたところもあったし、買い換えようという話になった。

 アタシたちは私服のアルバのワンピに着替えると、ああいうところは深夜までやっているもんなので、ブルセラショップに出かけた。

 ブルセラショップは道玄坂の裏手のマンションの一室で、今日はたむろっているオヤジがいつも以上にキモく見えた。

 やっぱり、夏休みなんでいつも以上に置いてあるものが多かった。そこで、アタシたちはS女のブラウスを仕入れた。

 お嬢様学校のS女の制服は高くて、ブラウスだけでも三万もした。

 アタシが今日稼いだお金はぜんぶそれに使っちゃったけど、もちろん、ぜんぜんかまわない。

 カナは返すと言っていたけど、そんなことしないでほしいと思っていた。

 マンションの階段を降りると、マキガミがいた。

「お久しぶり」

 マキガミはアタシたちのことを覚えていた。「こんな時間まで取材ですか」

 とカナが言うと

「ボクはジャーナリストじゃないからね。フィールドワークって言うんだ。君たちこそ」

 と言いかけて、カナの体に擦り傷がついていることや、S女のブラウスを持っていることに気づいて、察したんだろう。カナの腕をつかんで、耳元で、

「もしかして、レイプされた?」

 とささやいた。

 カナはうなづくと、

「援交なんて、もともとこういうリスクも隣り合わせです。はじめから折り込みずみです」

 とまっすぐに答えた。

「そう、ボクがフィールドワークする女子高生はみんなそう言うよ。君たちは、歴史の終わった世界で、断片化しながら生きている。新しい存在なんだ。だから、傷つくこともない。今をまったりと生きる女の子たちは、『体はレイプされても、心はレイプされない』んだ」


■二〇一七年(平成二十九年) 九月二十三日


 環は暗い地下水路を歩いていた。

 制服のズボンの膝まで水に浸かっている。水は思いの外澄んでいる。環はなぜかそこが渋谷川の暗渠だと分かっていた。そこが、かつて童謡にも歌われたが、渋谷の開発と共に地下に消えてしまった川であると。

 長い水路の向こうに、赤い何か見える。

 近づいて行くとその形が分かってくる。暗渠の中央に、なぜかしめ縄が張られた岩があり、そこに人魚が座っていた。

 腰から下の魚の部分は、赤と緑と黄色の鮮やかな鱗に覆われている。まるでゴーギャンが描いたタヒチの絵のような色彩だった。

 加奈……。

 そして、魚ではない裸の人間の部分は、環が覚えている高校生の頃の立花加奈だった。

 人魚は透明な四角い三十センチ四方ほどのガラスケースを抱えていた。

 ガラスケースの中は渋谷駅周辺のジオラマだった。

 環は人魚に近づいて、ガラスケースの中を覗き込んだ。すると、ジオラマの中の、黄色い銀座線が発車した。

 良く見ると、道路に置かれた車も、まるで蟻のような人間も動いていた。

「ほら、生きているでしょう」

 人魚が言った。少年のような少し低い声。おぼろげに記憶にある加奈の声だった。

「ホントだ、生きてる」

 環はどこか嬉しくなって、人魚の方を見て笑った。

 すると、ガラスケースの中から、蟻のように小さな人間がどこかからこぼれ落ちた。人魚はそれを拾うと、柔らかな唇を開いて、花びらのような舌に乗せて飲み込んだ。

 そして、環の方を見て、笑い返した。

 環は仮眠から目を覚ました。

 なんだか奇妙な夢を見ていたような気がする。

 夜勤明けは本来非番だが、逮捕した江崎の件の渋谷署からの聴取や、報告に午前中を使ってしまい、眠くなって仮眠室にも行かず、そのまま分駐所のデスクに突っ伏して寝てしまっていた。

「おはよう」

 小隊長の瀧山が声をかけた。

 時計を見ると、午後四時近かった。

「すっごいよなー、顔に貼ってある絆創膏はがしても起きないんだから」

「ふえ?」

 環は自分の顔をペタペタと触る。頬には寝る前と同じように絆創膏の感触がある。

 意味が分からず、デスクから鏡を取り出した。

 背後から葉月の声がした。

「顔に貼ってあるのだから、可愛いものと取り替えておきました」

 頬に入った傷を隠すように二つ並べて、すみっこぐらしの絆創膏が貼ってあった。

「あ、ありがとう……」

「タマ姉、似合ってますよ!」

 うるせえ赤城、と環がそう思うと、

「赤城先輩の方がもっと似合うと思います」

 と葉月が言った。

 すると、

「お疲れさまですー、みなさーん」

 という声がして声の方を振り向くと、キャリア組のユーレイ君こと、鷺沼中隊長がいた。

「あれ? 鷺沼さん、いつからいたんです?」

 瀧山がそう言うと、

「実はだいぶ前から」

 緩めの丸メガネを持ち上げながら鷺沼が続けた。

「赤城さんも、お怪我なさった深川さんもお疲れさまでしたー」

「一応、私たちの中で一番偉いんだから、なさったとかいいですよ」

 環がそう返すと、鷺沼はいえいえいえいえ、と言いながら頭を掻いた

 キャリア組は二十代後半で、副所長クラスにはなる。二年、別の現場を踏んで、与えられたのが渋谷分駐所の中隊長だった。

 鉄道警察隊の現場を殆ど知らない鷺沼はいづらいようで、分駐所にいることが少ないし、いたとしても、分駐所の隊員もどう扱っていいか分からないところがある。

 一応、上に立つものとして、我々を労いに来たんだろうか。と環はぼんやりと思った。

 その鷺沼に対して、赤城が口を開いた。
「容疑者の江崎なんですけど、我々に対して何も言わなかったし、財布の中の保険証ぐらいしか情報がなくて、どういう経緯でああなったんです?」

 環も知りたいことだったし、赤城自身もそうなのだろうが、それと同時に会話を引き出させてあげたい、という気遣いも感じた。

「江崎ですね、生年月日は一九七六年ですから、四十一歳ですね。あ、そこは身元確認したから、分かってらっしゃいましたね」

 どうにもぎこちない。鷺沼は続けた。

「渋谷署で僕が聞いたところによりますと、二十代の頃から、覚醒剤やらコカインやらで捕まっては、刑務所に出たり入ったりを繰り返していたようです」

「なるほど。筋金入りってことか。住所は千葉だったけど、実際にそこに住んでたんですかね」

 環が言った。

「一年前に刑期を終えてからの足取りは良く分かっていません。木更津は元々容疑者の祖母の家があったところで、生まれは東京の世田谷だそうです。両親は比較的裕福で、大学は青山だったとか。そこで派手に遊びを覚えたようで、大学を留年中に覚醒剤で捕まってからは、刑務所に出たり入ったりを繰り返していました」

「へー、いいとこの子だったんだな。住所が木更津に移されたのはほぼ勘当ってとこかな」

 と瀧山が入ってきた。

「そうかも知れません。憶測ですが」

 と返した鷺沼に、環が聞く。

「じゃあ、今回あのクスリをオーバードーズした経緯とかはぜんぜん?」

「僕が知る限りでは、渋谷署の方でも分かってないようでした。防犯カメラの映像もフラついた足取りで渋谷駅に入って来たところからしか分かっていないと、さっき山内警部から。でも、だんだん素面になってきて、会話にも応じるようになって来たそうなんですが、お二人を襲ったことについては、『ラリっていたから良く覚えていないが、警察官を襲えば、また刑務所に入れると思った』みたいなことを」

 環は力が抜けるのを感じた。

「私は、奴が希望通り刑務所に再収監されるために襲われたってことか」

 肩を落としながら、頭を掻いた。やり場のなさを、ボリボリと頭全体を掻くことに向けていると、聞きたいことを思い出した。

「あ、そうだ。LSDよりも強力って言ってた、あのクスリなんだけど」

「はい。パッケージと中身が一致していることが前提ですが、MDMAなどと同じ、フェネチルアミン系化合物の一種、その系統の中で最も強力と言われるDOMから構造式を少しだけ変えたDONを、乾燥した植物に混ぜたものです」

「はあ」

 環はどうにも化学には疎い。

「こういった、かつて、乾燥した植物と混ぜて脱法ハーブとして流通していたものは、合成カンナビノイド系のものが殆どなんですが、幻覚と覚醒作用の強いフェネチルアミン系の薬物が混ざっていると言うので、ユニークと言うかなんと言うか。フェネチルアミン系の薬物の中で有名なものに、ネイティヴアメリカンのシャーマンが使用するサボテン、ペヨーテに含まれるメスカリンがありますが、メスカリンの百倍とも言われる強い幻覚作用を持ったDOMから構造を少しだけ変えたものですので、非常に強い薬物だと言えますね」

 鷺沼はずいぶん早口になっている。

「と、ともかく、超危険なヤツってことでいい?」

 途中からついていけなくなった環は、とりあえずそうまとめた。

「はい。他の危険ドラッグと一緒に二〇一四年に指定薬物になっていますが、特に強力なものの一つと言えるでしょう。通称名はヒネ。パッケージに描かれたポリネシア神話の女神が元になっています。ポリネシアは広いため、各島々で差はありますが、例えばニュージーランドのマオリ族の神話では、ヒネ・ヌイ・デポ。死と闇を司る女神です」

「死と闇を司る女神……」

 環がオウム返した。先程より、環の反応がいいのを感じたのか、鷺沼は食い気味に続けた。

「極めて異様な姿をしているために、ネットでも話題になったことがあるんですが、こういった姿をヴァギナ・デンタータとラテン語で言いまして、なんて言うか女の人の、あのう……パンツの中……」

 鷺沼は顔を赤らめてモジモジしていた。

「だいたい、分かったから、そうやって照れると余計卑猥だから」

「わ、分かりました。そこに黒曜石の歯がびっしり生えていると。一般に去勢恐怖を表したものとして、フロイト派の心理学者が引用することもあるそうです」

 その姿を想像したのか、瀧山と赤城が椅子に座ったまま、内股になっているのが環には分かった。

「ポリネシアの人々の祖先とされる、マウイという神話上の英雄がいるんですが、ヒネはマウイの祖母に当たるんです。ある日、マウイは死を司る祖母を殺せば、永遠の命を得られると思いついたんですね。虫に姿を変えて、ヒネが寝ている時に、あのう……例のところから入って行こうとする。でも、途中でそのマウイが入っている姿を見た鳥たちが一斉に笑ってしまう。その笑い声でヒネが自分の中に入って来ようとしているマウイに気づいて、マウイは死んでしまった。なので、子孫である人間たちもいつかは死ぬ運命を逃れられない、そういう神話があるんです。なので、あのドラッグは、摂取すると一度死を体験する、そういう意味で名付けられているんだそうです」

「なるほど、さすがに東大法学部ですな」

 ドラッグとポリネシア神話に対する薀蓄を瀧山が、とりあえずそうまとめた。環はそのまとめ方は雑過ぎるような気がしたが、鷺沼外れ落ちた丸メガネを上げながら、はにかんでいた。

 まもなく、鷺沼はまた、渋谷署に戻って行った。

 瀧山が、

「あの人、キャリアで上に立つより、鑑識かサイバーセキュリティーで現場やってる方が向いてそうだな。金は全然違うけど」とつぶやくと、赤城が

「ですねー」

 と返しているのを横目で見ながら、環はヒネ・ヌイ・デポのことを考えていた。

 死と闇を司る女神。

 タチバナカナ@hine19800815

 ライン川の岩礁で船人を誘う人魚よりも、もっと激しい、南洋の島の神なのではないか。

 闇の中に浮かび上がる原色の女神が、環の脳裏に押し寄せていた。

 それから少し経って、ロッカーに置いてある環の私物のスマホに、環の母からメールが届いていた。

「美頼ちゃん、昨日亡くなったそうです。美頼ちゃんのお母さんからさっき電話があって、環に伝えて欲しいとのことでした」

 美頼が静かに命を終わらせていた。二十年間止まったままの時間が終わる時が、ようやく来たのだった。生きてその時間を進めることは結局なかったのだ。

本文:ここまで

続きはこちら:第十五回。

 続きが早く読みたい!という人はぜひ、通販もご利用くださいね。コロナ禍によって暇を持て余した作者によって、迅速対応いたします。

BOOTH通販『フワつく身体』

読者の皆様へ:

※この話はフィクションであり、現実の人物、団体、施設などとは一切関係がありません。

※警視庁の鉄道警察隊に渋谷分駐所は存在しません。渋谷駅、及び周辺でトラブルにあった場合は、各路線の駅員、ハチ公前の駅前交番、渋谷警察署などにご連絡ください。

※現在では、一九九九年に成立した児童買春・児童ポルノ禁止法において、
性的好奇心を満たす目的で、一八歳以下の児童と、性交若くは、性交類似行為を行った場合、
五年以下の懲役若くは五百万円以下の罰金、又はその両方を併科されます。
本作品は、こういった違法行為を推奨、若しくは擁護するものでは決してありません。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?